26話 新たな力と出合い
~自室~
【トラップエンジニアLV.2】
【LV.2 設置 時限 解除 発動が可能。 使用可能距離3㎞ 設置後起動最大時間1時間 最大設置数10】
増えたのは時限…か。距離と設置数も増えてるな
まあ何とも…俺好みの能力が増えてるじゃねぇか
トウヤは新しく増えた能力がとても良い能力だったので先ほどまでの憂鬱な気分は吹き飛び、能力の使い道について考えに没頭しようとした
コンコンコン 「トウヤ様デスターニャです。入室してもよろしいでしょうか?」
俺は新しいおもちゃを取り上げられた気がして少し嫌な気分になったが、入室を許可した
「失礼します。先ほどの尋問で商会長が話した人物の拘束が完了しましたが尋問を始めてもよろしいですか?」
「ああ良いよ。あの2人に尋問の仕方を教えてあげて」
「承知しました…それと1つトウヤ様のお耳に入れておきたいことが」
いつもなら毒を吐きながら話すのに何処か歯切れが悪い
「どうしたの?」
「…領都内に聖騎士団長が侵入しました」
…聖騎士団?
「教会という言葉をお聞きになった事はございませんか?聖騎士団とはその教会が有する騎士団で、その戦力は王都の騎士団と同等と言われております。その聖騎士団のトップがすぐ近くに居ると言うことです」
「…騙りとかじゃないの?」
「…もしそのような命知らずなら良かったのですが本物です。私が確認しました」
…あーマジで?
いやマジで?
俺は更なる頭痛の種に頭を抱えることしかできなかった
「因みにどうして侵入したってわかったの?」
「実は…その…夜の店にも暗部の者がおりまして、その者が同じ店の同僚から聞いたのです。最初は騙りだと思い放っておこうかと思いましたが、その同僚が精力を吸いきれず完膚なきまでに夜の戦闘に敗北した、と聞いて私に報告を上げてきまして…確認したところ本人でした」
…えっ?教会ってそんな感じなの?
「勘違いをされては困るので言っておきますが、本来の教会は清廉潔白を表したような組織です。ですがその中で1人…聖騎士団長だけ女にだらしがないという噂がありまして、本当だったようですね」
あー…良く聖騎士団長なんてなれたな
それだとまるで性騎士…何でそんな冷たい目で見るんですかデスターニャさん?
そんなくだらない事を考える位色々な事が起こりすぎて頭がパンクしそうだ
だから俺は
「じゃあほっとこうか」
放置することに決めた
「トウヤ様…目を逸らしても事態は変わりませんよ」
デスターニャが心なしか少し優し気にそう言ってくる
「違う違う。相手は自分でそう言ってるんでしょ。もし本当に大事な要件だったらリリアム様に会って話してる…そうじゃない?それをしないって事は、聖騎士団長って名前を出してこっちがどう動くか様子見してるってわけ。じゃあそれに対する答えは放置って事だよ」
俺がそう言うとデスターニャは納得した顔をした
「でしたら他の者に見張らせるのもやめた方が良いでしょうか?」
「それは続けて。相手からしたら見張られてるって事はこっちは気づいているぞってアピールになるから。気づいているのに何もしてこないなら今度は向こうが動くと思うから。こちらから動くと主導権を相手に握られちゃうからね」
「承知しました。でしたら見張るだけに留めるよう伝えておきます」
そう言ってデスターニャは部屋を去って行った
ふぅ…次から次へと面倒事が起こるな
俺は面倒事が増えたことに頭痛を覚えながらも、新たな能力の使い道を考える事に集中した
~次の日~
「…zzz …zzz」
コンコンコン ガチャッ 「失礼します!トウヤ様っすぐにリリアム様の執務室に来て頂けませんかっ!?」
俺はその声に飛び起きた
「わかった!すぐに向かうと伝えてくれ」
俺は服を着替え、早足で執務室に向かった
コンコンコン 「トウヤです」「トウヤ!すぐに入ってください」
俺が執務室に入るとリリアム様とマキシウス、モーンにレダス、デスターニャともう1人知らない女性がいた
「急に呼び立ててごめんなさい。けどアルブス子爵の下に行っていた使者から急な知らせがあって…アルブス子爵が賊に襲われて亡くなりました」
リリアム様のその言葉に一同驚きを隠せなかった
「そしてアルブス子爵領はルーフス伯爵領に併合、先の戦争の賠償は子爵の死亡と言うことで無し…とルーフス伯爵からの書簡に書いてあります」
ちっそう来たか
「賠償は無し!?ならば子爵領をルーフス伯爵が併合する理由が説明できないだろ!!」
「レダス…子爵領を伯爵領に併合の手続きの最中に子爵が死んで、領地の併合の手続きは済んだけど賠償を引き継ぐ手続きができなかった…そう主張しているわ」
「くっ…そんなデタラメが…」
確かにデタラメだな
だがデタラメと言うにはこちらがそれがデタラメであることを証明しないといけない
「相手は伯爵…デタラメでも通せるのだろう」
「今こちらが伯爵と事を構えられないと足元を見ているのだろうな」
マキシウスとモーンの言うことは正しい
今の戦力で伯爵と事を構える訳にはいかないからな
「そしてこの先がトウヤを呼んだ最大の理由です。子爵を襲った賊は突然部屋に現れ急に消えた。これは転移魔法の使い手の可能性が高く、その転移魔法を使う者が貴殿の家臣であること調べがついている。今回の賊でないか調べるためその者の身柄の引き渡しを要求する。なおこれに反する事は伯爵家に弓を引くものとし、全軍をもってして侵攻す」
…敵は俺が思っている以上に早く動いてきたな
「こんな…こんな要求認められません!!先の戦でこの領地を守ってくれたトウヤ殿を引き渡すなど!!」
レダスが伯爵の要求に憤慨している
「ではルーフス伯爵と戦争するか?」
今まで黙っていた女がそう言った
「それは…」
「できぬよな。先の戦はアルブス子爵だったからまだ勝機があったこと。ルーフス伯爵家の重装魔法兵団はこの国で1・2を争うと言われるほどの堅牢。王都の騎士団でも聖騎士団でも抜けないと言われる最強の盾として名高い重装魔法兵団…勝ち目などないのよ」
その言葉にこの場に居る全員何も言い返せなかった
俺?そんな情報初めて聞いたから何も反応できなかった
「トウヤ…殿じゃったか?お初にお目にかかる、宰相補佐を務めておるネリウス・マルローと申す。普段は表に出る事がないが今は宰相が留守にしておるのでこうして顔を出したのじゃ。で先の戦の功労者のトウヤ殿に聞きたい。貴殿を引き渡すのがこの領地にとって最良と考えるが貴殿はいかがお考えじゃ?」
「俺を引き渡すのが最良…確かにそれはそうだろうな」
俺の認める発言にネリウスは少し驚いたみたいだ
「俺は結局新参で外様、今失ってもこの領地に与える影響は少ない。だから引き渡すのが最良…と思ってたんだけどな、敵が伯爵だけでないと分かった以上簡単に引くこともできなくなったのよ」
「敵が伯爵だけでない?ならば貴殿の敵とは何じゃ?」
俺は盛大に溜めて言った
「この国全部」
「「「えっ?」」」
その言葉に俺から報告を受けていた2人以外驚きを隠せず声が出ていた
「俺が知っている範囲での敵だが、まず国王とその派閥だろ。そうなると貴族もか。で王国内に影響力を増やしたい商人とその連合…教会は教会で何か動いているみたいだし」
「国王が敵!?どういう事じゃ!?」
「子爵が侵攻してきた時に他の貴族は何も動かなかったよな。けど子爵が負けると伯爵が動いてきた。そして無茶な領土の引継ぎも通そうとしている…普通は周辺から声が上がるはずだがそれもない。だったら一番の権力者が周りを抑えているとしか考えられないだろ」
俺の言葉にネリウスは何も言い返せない
「そうなるとこの領地は何処かに吸収されるか国王の息のかかった人間が領主になるか、それまで狙われ続けるって事だ。つまり今俺を引き渡した所でこの領地が無くなるまでの時間がほんの少し伸びるだけって事だな」
「…それはお主の推測でしかなかろう」
「確かに推測でしかない。けど偶然はここまで続かない、ここまで続くとそれは何者かの意思が絡んだ必然だ。そしてそれをできるのがこの国の王…そう考えると全部繋がるんだよな」
この場に居る皆何も言えなくなった
本当にそうだった場合、この領地が無くなることは必然だからだ
沈黙を破るようにリリアム様が俺に声をかけてきた
「トウヤ、この領地が無くならない方法は無いのですか?」
「ここまで最悪の状況になると…1つだけしか思いつかなかったですね」
「その1つとは?」
リリアム様が俺の目を真っ直ぐ見ながら聞いてきた
「教会と手を組むことです」
そう言った瞬間この場の空気が止まった
「貴殿、今からそんな火種を教会が抱えると思っているのか!?」
「それはわからない…けど今しかその手は使えないと思っている」
「そして教会の勢力に入ってどれだけ永らえるのじゃ?半年か?1年か?」
「1年…1年あれば俺は伯爵を倒す手を思いついている」
その言葉に一同が驚いた顔をした
「…1年で伯爵を倒すじゃと?…それは本当じゃろうな?」
「トウヤ…それは本当ですか?」
「はい、1年あれば倒せると考えています。ですので今は少し時間を稼いで頂きたい」
俺は自信ありげに答えた
「…乗った!!貴殿旦那様から話に聞いておったがやっぱり面白いの。1年なら宰相殿とのらりくらり躱して見せるわ。して教会につてはあるのか?」
ネリウスが勝手にこの場を仕切りだした
「ネリウス殿!まだリリアム様は良いと言っておらぬぞ!!」
「なんじゃ、動かねばこの領地が無くなることは必然…そうならぬようリリアム様は乗ってくると思ったが違ったか?」
そう言われてリリアム様は
「そうですね。何もしなければ無くなるのなら、可能性があるほうに足掻いてみる方がいい…此度の戦で学んだことです。トウヤ…必要な時間を私も稼ぎますので最後まで足掻きましょう!皆…トウヤに最大限の助力を願えますか?」
「「「「「おう!」」」」」
こうして俺達が行く道が決まった
後は…あいつに会うだけだ