21話 けじめ
「うん…もう無理…それ以上は…うわっぁぁぁぁぁぁ」
…何だ夢か
それにしても凄くリアルな夢だったな
うわっ寝汗でシーツがぐっしょり…怒られないかな?
「トウヤ様、お目覚めですか?」
「うわっ」
突然呼びかけられ驚いた俺は再度ベッドに倒れこんでしまった
「デスターニャ…おはよう」
「おはようございますトウヤ様…そんな顔で私を見てどうされたのですか?」
…言えない
夢とはいえあんな姿を想像してしまった相手だ、とても気恥ずかしい
「体調がすぐれないのですか?もしよろしければ治療師を呼びましょうか?」
「いえ大丈夫です!少し夢見が悪かっただけなので」
俺がそう言うと少しデスターニャの顔が引きつった気がしたが気のせいだろ
「そう…ですか」
「うん、ところで何か用事があって来たんじゃないの?」
俺がそう言うとデスターニャが答えた
「もし体調が宜しいようでしたら主様とお嬢様が朝食をご一緒されたいと申しておられましたのでトウヤ様にお伺いしようと参りました」
「わかった。すぐに準備したらいい?」
「いえ、まだ朝食の準備ができておりませんので準備ができ次第お迎えにあがります。ではまた後程」
そう言うとデスターニャは部屋を出て行ってしまった
…うまくごまかせたぁぁぁぁぁ
いやあんな夢みた後顔見て話すのなんて無理でしょ!!
いやほんとによくごまかしきった よくやったよ俺!
…なんて今頃思っていらっしゃるのでしょうね
なんだか少々むかつきますが初々しい反応を見れたのでよしとしましょう
さて、朝食の準備を済ませてしまいましょうか
それにしても昨晩はとっても…
ととても上機嫌なデスターニャだった
…何だこの空気
俺が部屋に入るなりリリアム様とリリアスちゃんが表情を大きく変えたからだ
リリアム様はあらあらといった感じで優し気に、リリアスちゃんは顔を膨らませて何処か不機嫌だ
「あらあら、トウヤ様も隅に置けないわね」
「ぷぅぅぅぅ…ふーん」
ますます意味がわからないぞ
それより気になっていたが
「これから家臣になるのに様付けはまずくないですか?」
おれは気になっていたことをリリアム様に伝えた
「あら、それもそうね。じゃあ公の場では呼び捨てにするわ。けどこういった場では君で呼んでもいいかしら?」
「構いません」
「じゃあ今はトウヤ君ね。なんだか距離が近くなった気がするわね」
その言葉に真っ先に反応したのはリリアスちゃんだった
「トウヤ様…私もトウヤ君って呼んでも良いですか?」
…なんだこの可愛い生き物
ちょっと持って帰って愛でちゃだめですか?
…あっダメそうですね 手を出しませんからナイフを仕舞ってください
「リリアスお嬢様、プライベートな時は君付で構いません。代わりと言っては何ですが私もプライベートの場ではリリアスちゃんと呼んでも良いですか?」
「はいっ、むしろ呼んでください!」
おっおう かなり食い気味に回答がきたな
「ふふ、トウヤ君ってほんと淫魔たらしね」
…それは誉め言葉と受け取って良いのかな?
デスターニャの視線が突き刺さるように痛いけど
突き刺さるような視線を受けながら俺は朝食を食べ終わった
「そうそうトウヤ君、この間軍議をした場所でトウヤ君の就任式と役職の着任式をするからデスターニャから式典の流れを聞いておいてね」
式典…うっ頭が
あいつらの俺を見る目を思い出すだけで嫌な気持ちになるがここにあいつらはいない
「承知しました。必要な儀礼についてもデスターニャから教われば良いのですね」
「ええ、といってもそこまで厳粛でもないので大まかな流れを覚えて貰えるだけでいいわ。それよりその後の方が大変だと思うけど」
ああ、あの事か
確かに議場が荒れるだろうな
「じゃあ私も用意があるから先に向かうわ。デスターニャトウヤ君をよろしくね」
「承知しました。トウヤ様準備をさせて頂いてもよろしいですか?」
「うん、よろしく頼む」
そう言って俺達は各々準備に向かった
~議場~
ざわざわ… ざわざわ… おい聞いたかあの話 しっ…まだ噂程度の話だろ
「ちっ」
私は無意識のうちに舌打ちをしてしまっていた
「ローネ様、この議場のどこもかしこもあの噂話ばかりでとても不愉快ですな」
その意見に賛同するように周りの者もうなずいた
「あのような素性の知れぬ者を取り立てるとは…やはり前領主殿のご婦人というだけで領主を任せるには荷が重かったのでは」
「我々の息のかかった後夫を紹介すれば良いのでは?」
ふんっ、好き勝手言いおるわ
あのお方がそのような策謀に嵌る訳がなかろうが
各々が色々な想像を膨らませている中、先払いの声が議場に響き渡った
「領主リリアム様ご入室ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
それと同時に議場にいた皆が起立した
「皆様、どうぞ楽にしてください」
その声と共に皆席に着いた
「この度お忙しい所急遽集まって頂きありがとうございます。事前に伝令より大まかな事情は伝えておりましたが、再度私の方からも皆様にお伝えしたいと思います」
その声は議場に響き渡り、先ほどまでの騒々しさは無く議場は静まり返った
「この度の戦争の最大の貢献者であるトウヤ様が回復されましたので褒賞の授与式を行おうと皆様に集まって頂きました。この度の戦い…勝つ可能性はほとんどない戦いだと皆様思われていた事でしょう。しかしこうして私達は勝ち、領地や民を守りぬく事が出来ました。皆様本当にありがとうございます」
その佇まいにリリアム様の領主の器を問う声をあげる者はいない
「この後ささやかですが顔合わせの場を設けさせて頂いております。そこで功労者の方々と交流を深めて頂けますと幸いです。ではこの後の進行は任せました」
そう言うとリリアム様は席に着いた
その後は進行が功労者の名を読み上げ、数が多いものは位が高いものが代表に、数が少ない物は技官が褒賞の目録を渡した。功労者としてレダスとモーンも呼ばれていたな
「では最高功労者のトウヤ様…前に」
俺の名前が呼ばれたので俺はデスターニャに教わった事を思い出しながら前に出た
「貴殿の働きはこの領地にとって最大の功績をあげ、また近年類を見ないほどの功績であることから最高功労者として褒賞を授与する。その内容は以下のとおりである」
①年金貨10枚を1代に限り支給
②住居の斡旋及び10年間住居費を支給
③新設される部隊長に任命
「やはり…」 「新設される部隊だと?」 「いくら何でも余所者に優遇しすぎではないか?」
「静粛に!トウヤ様は本日の任命式をもって正式にこの領地の領民及びリリアム様の家臣となられる。異議があるものは前に出よ!!」
技官の一喝により議場は静まり返った
「異議なしとしてこれらを授与する。そしてこのまま任命式に移る。リリアム様こちらへ」
リリアム様が俺の前に立った
「これより任命式を執り行う。リリアム様お願い致します」
リリアム様が一歩前に出た
「私は問います。貴方はこの領地の為にその力を全て使うことを誓いますか?」
「誓います」
「私は問います。この領地のため領民の為に命を差し出す事を誓いますか?」
「誓います」
「私は問います。貴方の望みは何ですか?」
…?こんな問答があるとはデスターニャから聞いていなかったが?
「私の望みですか?」
「はい、貴方の貴方自身の望みです」
「いったい何の話だ?」 「このような質問今まで無かったぞ」 「あの者は何を望むのか?」
俺の望みか。当たり障りのないことで濁させてはくれないだろうな
「望みが無いのですか?それとも言えない?」
「望み…と言っていいのかわからないですが私が目標にしている事はあります。自分の手が届く範囲の人は泣かせたくないです」
俺がそう言うとリリアム様は微笑んだ
「では泣かせることが無いように自分の命は大事にしてくださいね。貴方が死ねば悲しむ人は必ずいますから」
そう言うとリリアム様は下がり席に戻っていった
「これにて任命式を終了する」
皆がこれで式典が終わったと思った時
「これより処分者についての公表がある。宰相ローネ、貴殿を謹慎1ヶ月とし他にここに名を連ねる者を謹慎3ヶ月とする!」
「宰相が謹慎!?」 「どういうことだ!何も聞かされていないぞ」 「これはいかに領主と言えども横暴ではないか!!」
議場内は怒号や話声で騒々しくなった
「静粛に!宰相ローネ筆頭に先の軍議の際会議を混乱させ領内の分断を起こしかねなかった点及び、宰相という地位にありながら軍議を放棄する職務放棄ともとれる行動について処罰なしとしては、領民及び臣民の風紀に著しい影響を与える恐れがある。よって処分を命ずる」
「あいわかった。その処分謹んでお受けしよう」
宰相ローネが処分を素直に飲むとは誰も思っていなかったのか、議場は静まり返った
「ローネ様、このような処分は不当です!なにとぞ抗議を!!」 「そうです、あのような新参者を重用するだけには飽き足らずこのように不当に処分するとは!!」
「静まらんか!!処分理由は事実。ここで抗議をすることは領主様の判断に異議を唱えるのと同じ。お主らは領主様に弓を引き領内を混乱させたいのか!?」
その問いかけに誰も答えられず声を上げていた者たちは皆押し黙ってしまった
「領主様、場をお騒がせしてしまい申し訳ございません。私の仕事につきましては副官に任せます故後日副官とお目通りしていただければ私が居なくても職務に問題はございません」
「ローネ、貴方がこの領地の事を考えて働いてくれていたことには感謝しております。しかし此度の件、きちんとけじめをつけて頂かないと他の者に示しがつかないと思い処分を下しました。謹慎が解かれた際にまた貴方の顔を見ることができる事を望んでおります」
「勿体ないお言葉頂きありがとうございます」
そう言うとローネは部下を引き連れて議場を後にした
皆ローネの態度が意外だったのか毒気を抜かれたのか、その後は特に何も起こらず褒賞式兼就任式は終了した




