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異世界戦論  作者: kiruke
第1章 戦いは何のために
17/32

17話 EX 後始末

今回は少し過激な内容になっています


 ~領主の館~


「デスターニャ…トウヤ様の様子は?」


 リリアムが心配げな表情でデスターニャに尋ねた


「リリアム様、現在トウヤ様はぐっすりお休みになられています。度重なる魔力の消耗に夜襲、囮…この戦いでかなり体を酷使されておられましたから」


 デスターニャはトウヤの戦場での行動を伝えた


「まあっ…なんて無理をさせてしまったのでしょう。この戦いトウヤ様が居なければどうなっていたか」

「彼には大きな借りができてしまいましたね」


 マキシウスの言葉に2人は大きく頷いた


「マキシウス、残った敵の歩兵の状況はどうなりましたか?」

「その件ですが、全員武装を解除させトライ平原で待機させております。何せ数が数ですのでそのまま返すわけにもいかず指揮官級のみ拘束して捕虜として扱っております」


 トウヤが敵の総大将ハンニールと魔法士隊、弓兵隊を焼いた後、劣勢を感じた歩兵の指揮官たちが降伏したのだ

 だが降伏したとはいえその数は約3000。未だに我が軍の2倍の数が居るためうかつに動くことができなくなっていた


「最初に降伏した懲罰部隊でしたか…彼らは今どのように扱っているのですか?」

「彼らは指揮官の言うことを聞いておとなしいので武装解除して訓練場で見張りをつけています。彼らの指揮官も同じように捕虜として扱っていますがどうなさいますか?」


 マキシウスからの問いかけにリリアムは悩んだ


 今後このような戦いに備え少しでも戦力が欲しく、投降した人物は元総大将と元参謀と即戦力で魅力的である

 だがそのような人材がすぐに自分に対して忠誠を誓うのか…それが不安として心に引っかかっていた


「現状彼らはすぐにでも欲しい人材です。ですが仮に彼らが敵だった場合、この領地が再度危険に晒されます。そう考えると捕虜として交渉するのが得策だと思っています」


 リリアムは自分の考えを伝えた


「私もそれが一番だと思います…が現在敵は総大将を失い戦力が低下している。その状況で元総大将を返すとなると敵が再び軍を再編して攻めてくるのではないか、と不安も残ります」


 マキシウスの感じる不安…それはリリアムにとっても不安であった

 今回は何とか勝てたかもしれない、だが歩兵と懲罰部隊これだけでもこちらの2倍の数が居る

 その上でその部隊を纏めることができる人材を返してしまった場合、交渉で何らかの賠償を得られてもそれを武力で奪い返されてしまうかもしれない

 次に勝てる保証はないのだ


「ではこちらを裏切れなくすればいかがですか?」


 デスターニャの発言に2人は驚いた


「デスターニャ、そんなことができるのですか!?」「できるのか?」

「はい、あの2人を間近で見たからこそ言えることですが、あの2人…お互いの存在を首輪にできると思います」


 デスターニャの案を聞いた2人は背筋が凍り付いた


「…わかりました、その件はデスターニャに任せます。マキシウス、アルブス子爵に交渉内容が纏まり次第書簡を送ってください」

「かしこまりました」 「はっ、仰せのままに」


 リリアムはデスターニャにもう1つ付け加えた


「トウヤ様が目覚めたらで結構です、私の部屋に連れてきてください」


 デスターニャはリリアムが何を言っているのか解らなかった


「謁見の間ではなくてですか?」

「はい、私室に連れてきてください」


 デスターニャはリリアムが何を考えているか解らなかったが主の命令なのでその通りにしようと思った



 ~捕虜収容所~



「俺達どうなるんだろうな?」


 トメスがそう呟いた


「さあ?…だが何事もなく終わるとは思ってないさ」


 ミルルカがそう返した


「俺達が降伏してからもう2晩たったぜ…戦況はどうなったのだろうな」

「もしこちらの軍が勝っていたらもうここに着いている頃だ。まったく慌てた感じが無いって事はかなり足止めをくらってるか負けたんだろうな」


 ミルルカの言葉にトメスは驚いた


「いやっそれは無いだろ!軍を率いてるのがあのハンニールってのを差し引いてもこっちの軍の3倍はいるんだぞ。そんな簡単にすぐ終わるかよ」


 トメスの言葉にミルルカは首を振った


「最初の戦闘で騎兵隊が全滅したのを忘れたのか?それにあいつだ、あいつの発想は悪魔じみている。いや悪魔の方が優しいかもな」


 ミルルカの言葉にトメスは息を飲んだ

 確かに騎兵隊が最初に全滅させられたその恐怖は忘れようがない


 コツコツコツ カッ

 足音が2人の独房の前で止まった


「お話し中失礼致します。トメス様私についてきて頂けますか?」


 2人の目の前にメイド姿の女性が現れた


「…わかった」

 

 トメスが独房から出ようとしたときミルルカがメイドに話しかけた


「私も…私も連れて行ってくれ!」


 その言葉にメイドは冷たく返した


「私が連れてくるように言われているのはトメス様だけです。お下がりください」


 その言葉にミルルカは何も言えなかった


「大丈夫だミルルカそんなに心配するな。なああんた、こいつが出しゃばった事を言ったのは悪い、けどあんまり手荒なことはしないでくれ、頼むわ」

「私に与えられた命は貴方様をお連れすることです。それに反しなければ何かすることはございません」


 その言葉を聞きトメスはミルルカの方を一瞥しメイドに付いていった



 ~???~


「トメス様、急にお呼びして申し訳ございません」


 先ほどのメイドとは違う…だが油断できない空気を纏ったメイドが目の前に居た


「俺に用があるのはあんたかい?もっと屈強な男が出てくると思っていたから少し拍子抜けしたよ」


 その言葉にメイドは反応することは無かった


「自己紹介が遅れました、私領主様付兼暗部の統括をしておりますデスターニャと申します」


 暗部の言葉にトメスは警戒心を最大限に引き上げた


「そんなに身構えなくても大丈夫です。私にあなたを害する意思はございません」

「じゃあ何で俺をここに呼んだんだ?」


 トメスは自分が呼ばれた内容に心当たりがあったが確認するように尋ねた


「それはトメス様の意思を確認したくてお呼びしました。単刀直入に聞かせて頂きます、自らの領地に帰られるのとこの領地で働かれるの…どちらを選ばれますか?」


 …トメスはその質問に即答できなかった


「自らの領地に帰る…?それができるはずないだろ」


 その言葉にデスターニャが驚きの内容を返した


「いえ、現在トメス様はアルブス子爵との交渉材料として開放および送還を考えております。現状かの軍は総大将を失いトメス様のように軍を纏められる方は重宝されるはずですから」


 その言葉はトメスにとって最悪の言葉だった

 総大将を失ったということはこの戦いに負けたということだからだ


「なああんた、この戦争…終わったのか?」

「はい、終わりました。そちらの戦力で現在残っておられるのは歩兵が3000程と指揮官数名ですね」


 負けた…のか

 しかもほとんどの戦力を削られた上で


「ですので子爵には3000の兵と指揮官、そして貴方の返還で交渉を持ち掛ける所です」


 そこでトメスはそこにミルルカの名前が無いことに気づいた


「そこに俺の副官の名前が無いようだが彼女はどうするつもりなんだ?」

「ああ元参謀の彼女ですか、彼女はさすがにお返しするわけにはいきませんのでこちらに侵攻してきた責任者として処刑させて頂きます」


 処刑という言葉に怒りを隠せず掴みかかろうとしたがすり抜けるように避けられてしまった


「おや、貴方も軍を率いる者でしたら理解できるでしょう。領民の不満をぶつける相手が必要だと」

「それがなぜミルルカなんだ!!俺でもいいだろう!」

「本当にお分かりになりませんか?貴方と彼女…領民の溜飲を下げるにはどちらがふさわしいか」


 その言葉にトメスは何も返せなかった

 屈強な男とうら若き女…どちらが残虐性が高く、より溜飲を下げるのか理解できてしまったからだ


「……わかった、何でもする。だからあいつの事は助けてやってくれ!!」


 トメスは懇願するしかなかった

 相手がいつ気分を変えるか分からないからだ


「どうしてそこまで彼女にこだわるのですか?ただの部下でしょう」


 その言葉にトメスは言い返した


「あの子は家と才能で軍師という立場を押し付けられた子なんだ。立場上何もしてやれなかったが何の因果か今は俺の部下だ…軍師と言われてもまだ18の女の子だぞ!俺はあの子に普通に暮らして欲しいんだ!」


 その言葉に嘘偽りは無かった


「なるほど…で、その理由で説得できると思いましたか?どんな事情があろうと戦争に参加した時点でそれはこちらからしたら敵なのです。貴方は敵の事情を考えて戦争をしたことがありますか?」


 トメスは何も言えなかった


「こちらは領主様とそのお嬢様を貴方の領主に差し出せと言われたのです。さらにそれを拒むと今度は力ずくで全てを奪いに来た…そのような相手に情けをかけろと言うのですか?」

「…………………」


 その通りだ

 こちらから攻め込んでおいて命を助けてくれなど都合が良すぎる


「と本当ならここまで言いたいところですが、我らの領主様はとてもお優しい…貴方がこちらに協力していただけるのなら彼女と他の部下の方々もこちらで面倒を見ると仰られています」


 その言葉にトメスは驚いた


「つまりこちらの領主に忠誠を誓え…と?」

「はい、こちらとしましても貴方のような経験豊富な方を返すのは惜しいと思っております」


 トメスはミルルカや他の部下の事を思い、忠誠を誓うことで助けられるならと考えた 

 だがそれと同時に死に際の先代の領主の言葉が頭をよぎった


「トメス、あの子は私と違い領主の才能が無いかもしれん。だがお前にはあの子の側であの子を助けてやって欲しい…それが私の最後の願いだ」


 この提案を飲めば俺は先代の領主の最後の願いを裏切る事になる。そうなればこうやって懲罰部隊としてでもあの方を守ろうとした俺の存在を否定することになる

 …先代の恩を忘れて裏切る事はできない。それをしてしまうと俺は俺では無くなる!!

 そんな俺になったらあいつらに合わせる顔が無い…すまん皆


 トメスの決意が固まり、断ろうとしたとき…


「失礼します、デスターニャ様処刑の準備が整いましたがいかがいたしましょうか?」


 と別のメイドが声をかけた


「おや、思っていたよりも早いですね」

「今回は準備物が少なかったので。歩兵から選りすぐりの5人を選びました」

「5人ですか、それではすぐに終わってしまいそうですね。5対1での戦闘…ましてや1人が女性ですから」


 処刑方法を聞いたトメスはとっさに叫んでいた


「待ってくれ!領主様に忠誠を誓うっ…だから止めてくれぇぇ」


 トメスはその場に崩れ落ちた


「忠誠を誓って頂けるのですね、それは良かったです。私もあのような悲惨な処刑を女性が受けられるのは可哀そうだと思っていましたから」


 そしてデスターニャは懐から箱を取り出した


「トメス様、こちらは忠誠の種(セメリタース)と魔法具でございます。忠誠を誓う際に飲んで頂くモノです。こちらを飲んでください」


 トメスはその種のようなモノを飲み込んだ


「少し私に攻撃して貰ってもよろしいですか?」


 いきなり何をと思ったが言われた通りに攻撃しようとした


 ドクンッ グガァアァァ ……ハァハァ


 体の内側で弾けそうなほどの衝撃がトメスを襲った


「こちら裏切ろうとすればその者に痛みを与え、それが殺意ならばその者自信を殺す魔法具となっております。お気をつけください」


 その言葉通りトメスは動けぬくらいのダメージを負っている


「その種の存在を話すことも裏切りとみなされますので…では今更ですがウーレイスにようこそ、私達は貴方方を歓迎します。そこの貴方…トメス様をお部屋に案内してあげてください」

「かしこまりました。自ら歩けますか?」


 こうしてトメスはメイドに案内されて部屋を出ていった



 ……………………



「さてミルルカ様、お返事を頂いてもよろしいですか?」


 先ほどトメスが居た部屋の後ろにミルルカは連れてこられていた


「貴様らっ…この卑怯者が!!トメスを開放しろっ!!」


 ミルルカはトメスとデスターニャのやり取りを最初から最後まで見ていた


「そうですか…では貴方が拒むとなると彼の命はもう無いですね」


 その言葉にミルルカは息を飲んだ


「どういうことだ!?」

「先ほどトメス様に飲んで頂きました種、あれはこちらから動かすこともできるということです。聡明な貴方様ならお分かりいただけますよね」


 ミルルカは理解してしまった

 自分の行動がトメスの命を奪ってしまうことに


「ではお返事を頂いても?」

「……………クッ 忠誠を…誓う」


 その言葉にデスターニャは微笑んだ


「ありがとうございます。それとようこそ…私達は歓迎します」


 その言葉はミルルカにとっては死刑宣告と同じだった


「あっ、もし貴方が今見ていた内容をトメス様に話すことも裏切りにあたりますから、お気をつけください。ではお部屋にご案内いたします」


 ミルルカは気力を全部削がれ、ただデスターニャの後を付いていく事しかできなかった


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