16話 決戦
遅くなりました!!
次は来週あげたい…です!
「トウヤ様…敵が進軍を再開しましたぞ」
モーンの言葉に俺はすこし驚いた
そんなすぐに対処されると思っていなかったからだ
「敵は魔法士を使ってあの付近一帯を焼き、水で流し土を被せたようです」
…除染の仕方を知っていたものがいる?
いやこの世界でそんな知識があるわけがないと思うが…
「ところでトウヤ様が先ほど使われたのは天使と死霊の国…ゴーンジェルで死霊が作るとされている毒、【死の吐息】ですか?」
…死の吐息? 何それ? えっこの世界そんなのあるの?
「ああそうだ、前に餞別に貰ってな…今まで使いどころが無かったから今回初めて使ったのだ」
「やはり…あれは噂で聞く程度ですが小瓶1瓶で1000人は黄泉の国に送ることができるというもの。それを餞別で渡せるような方とお知り合いとは…感服致します」
いや待て!! こっちの世界にも小瓶1瓶で1000人ヤれる毒なんて存在しないよ!!
そんなのが存在するなんて…この世界ヤバくね?
「話が逸れてしまいましたね、実はこの毒、過去にこの国の王族に使われたことがございましてその時の対処法がまことしやかに語り継がれていたのですが…本当に語り継がれた内容で無毒化できるとは、いやいや長生きしてみるものですな~」
あーなるほど、だから無害化されたのかー…
って納得できるかボケぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
あのな、百歩譲って似たような毒や兵器があるのはわかるわ
けどそれが王族に使われて、ましてやその除染方法が伝えられてる?
どんな確率の薄い所引いとんねん!!!
………………あーなんか悩んで損したわ 切り替えよ
俺はさっきまでの悩みは忘れて敵の進行速度をモーンに確認した
「敵の進行速度ですが、あの毒に怯えたのかかなり遅くなっています。さらにあの毒の対処に魔法士の魔力を使ったのでかなりの数の魔法士が魔力切れだと思われます」
魔法士の戦力を削れたのはでかいな
この世界の魔法が俺の考える戦術にとってのイレギュラーだからな
「敵の残り戦力は?どのくらい残っていると思う?」
「先ほどの毒で先鋭部隊とその後ろの部隊の半分ほど削れましたので…おおよそ歩兵で3000、弓兵は減っていないので1000、それに魔法士が半分で20ほどですかな」
まだ倍は差があるのか…歩兵は後回しでいいが弓兵と魔法士は減らしたいな
「敵は今どのあたりだ?」
「ちょうど坂を下りきったところです。残り1/3ほどで峠を抜けますな」
1/3か…今の時間はだいたい夕方の5時位いけるか?
「敵の進軍速度的に夜になる前にこの峠を抜けると思うか?」
「そうですね…私の予想になりますが日が落ちると同時に敵の半分ほどが峠を抜けると思います」
半分か…今の相手の半分だったら本陣で何とかなるな
なら…
トウヤは新たな作戦を皆に伝えた
~敵後方部隊~
「まったく奴らがふがいないせいで我々が尻を拭わないといけなくなったわ!!」
魔法士隊長ムラビが近くに居た副官にそう愚痴た
「まったくです…我々は敵を倒すための要。それをこのような使い方をされるとは」
副官も現状の魔法士の運用に不満がありムラビに賛同した
「しかし敵が死の吐息のようなものを使ってくるとは思いもしませんでした…ゴーンジェルの死霊の毒などおとぎ話の産物だと思っていました」
「確かにこの国の王にあの毒が使われたのが300年ほど前だからな。王族とその家臣たちを殺された報復にゴーンジェルの半分を荒野に変えたとの記述があったがそれ以降関りをお互いに絶っておったからの…だがこの戦いに死霊が関わっているとなると大問題よ」
そうムラビが言い終わるとハンニールがこちらに近づいてきた
「ムラビ、お主の知識のおかげで何とか進軍が続けられる。このことは領主様に必ず伝えよう」
「いえ…しかし敵にゴーンジェルの手の者がいるとなるとかなり厄介ですね」
ムラビがそう言うとハンニールが顔をしかめた
「儂はそこまで詳しくないのだがそんなに厄介なのか?」
ハンニールがそう尋ねてきた
「はい、300年前の戦記に書かれていた内容になるのですが、死霊は闇魔法の使い手が多く夜に溶け込み神出鬼没であると書かれておりました。さらに特殊な毒や魔法を使い戦場を混乱に陥れたとも書かれておりました」
「…まさに今回の戦いのようじゃな」
ハンニールは今までの惨状を思い出し、頭を抱えた
「それでそのような相手を我が国はどうやって相手したんじゃ?」
「戦記によりますと敵の体は魔力の塊のようでして、魔力を見ることができる淫魔が敵を見つけ屠ったと書いてありましたな」
ハンニールはまた頭を抱えた
それもそのはずだ、今敵対している相手がこの国最大の淫魔がいる場所なのだ
「こちらの軍に淫魔は?」
「いません、いたとすれば懲罰部隊に居たはずですが…」
その懲罰部隊はシールズ峠侵攻時最初に姿を消している
「打つ手なし…か」
ハンニールが諦めかかった時…
「こちらには我々魔法士隊がおります!我々が死霊など焼き払ってくれましょう!」
と高らかに豪語した
その言葉にハンニールも背中を押されたのか、自信を取り戻した
「ムラビ、そなたが居てくれて良かった。領地に戻った際には礼をさせてくれ」
そう言い残すとハンニールは去って行った
「隊長…死霊をどうにかする手があるのですか?」
副官が尋ねてきた
「ない。だからこそ我々魔法士隊は損傷少なく領地に帰ることが先決だ。無駄に魔力を使わぬように皆に伝えてくれ」
「承知しました」
ハンニールは今回の件で首が落ちることは必至、ならばその後に我が座るためにこんなところで死ねんのよ
ムラビは自分と魔法士隊が生きて帰るように作戦を考え出した…
~シールズ峠 出口~
日が傾き始めた頃、アルブス軍の先鋭部隊はシールズ峠を抜け安堵に包まれていた
あれから敵の妨害はなくゆっくりではあるが日が沈み込む前に峠を抜けることができた
「何とか抜けられたなっ」 「敵ももう打つ手がないんだろう」 「あいつらの仇を取る!」
敵の陣営は見えず、一度体制を立て直すために敵領地…ウーレイス近くのトライ平原で陣形を組むことにした
「今までの恨み晴らしてやる!」 「峠にまだいる味方を待つのが惜しいぜ」
そして部隊が半分ほど平原に進み残すは弓兵隊と魔法士隊になったところで
「詠唱開始!」 「多重詠唱開始!」 「詠唱歌…重ねます!」 「いくぞ!!」
何も無いはずの平原から魔力の高まりを感じた
「ムラビ様!これはっ」
「くっ多重詠唱か! 魔力の残っている者達でこちらもシールドを張るぞ!」
敵の攻撃に合わせてシールドを張るように指示し、魔力の残った者が全力でシールドを張る
「こちらも重ねろ!」 「護は盾、防ぐは命…防護壁!」 「「「「「「防護壁!」」」」」」
「水は命を紡ぎ循環せよ…暴風雨!」 「「「「「暴風雨!」」」」」
「水は土を育み、土は命に帰る。命は水を欲し、水は命を作らん。そして水は雨となりて大地に降り注ぐ…降水雨」
ギュルルルルルルル ガンッ ガリガリガリガリ ドパッッッッッ ジャァァァァァ
竜巻のような風は防護壁で防いだが、その後の雨は防ぐことができなかった
またこの魔法を防ぐ代償にムラビと副官以外の魔力を使い果たしてしまった
「くっ、だがこの程度の雨では進軍は止まらんわ!早くこの峠を抜けてしまうぞ!」
ハンニールの号令とともに弓兵隊と魔法士隊は峠を抜けようと早足になる
峠の出口まで残すところ400m…弓兵隊の先頭が出口に差し掛かった時…
「壺を600m先目標物上8m、間隔を10m空けて目標物間を繋ぐように設置!」
突如弓兵隊の上に壺が現れた
「くっ…そこか! 弓兵隊敵はあそこだ…矢を放てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ハンニールがそう弓兵隊に命令を出した
「毒は私が…火よ、その輝きを持って全てのモノを焼き払わん。火よその姿は全てのモノに恐怖を与えん…全てを焼き尽くせ、太陽炎」
魔法が壺に放たれると真っ白な炎が壺を蒸発させた
それと同時にムラビは膝から崩れ落ちた…それもそのはずである、ムラビが使った魔法は絶級の魔法である。並みの魔法士なら半年は魔力が回復せず昏倒してしまう程の威力である
だが毒を撒かれるよりはと思い魔力と生命力を使った…
「毒が無くなったぞ!」 「矢鼠にしてくれるわっ」 「引き方よーし…放て!!!」
弓兵隊から放たれた矢がトウヤを襲う!!!
…………事はなかった
矢は途中で力尽きたかのように落ちていく
それもそのはずだ、弓矢は水に弱く弓は水を吸うと張りが落ちて飛距離が落ち、矢は矢羽根が濡れると空気抵抗が大きくなり飛距離が落ちる
普段なら届く距離でも水に濡れた状態ではその2/3程度の性能しか出せない
毒という物事に目を向けすぎて、自らの軍の性能を把握しきれていないハンニールの失態である
そしてムラビもそうだった
「誰がその壺の中身が毒入りだって言ったんだ?」
そう、壺の中身は空だった
ただそこに何かある、そう思わせることで魔法士隊隊長の最大魔法を使わせたのである
「本命はこっちだ!壺とその中身を600m先目標物上8m、間隔を10m空けて目標物間を繋ぐように設置…解除!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ」 「毒が…毒が降ってくるぞぉぉぉ」 「死にたくない…死にたくないよぉぉぉぉぉぉぉ」
ガッシャァァァァン ……………… 「? 何も起こらない?」 「いやなんかぬるぬるするぞ」 「これは油?」 「こんな水浸しの中油なんて撒いてどうするんだ、あいつバカだぜ」 「俺達を焼くつもりだったんだろうがとんだマヌケだっはっは」
敵軍は自分たちが起こした雨のせいで油が燃えないと思い、峠の出口に向かいだした
「…頼む」
「はっはい…着火」
俺は側にいた魔法士に火をつけて貰った
ジジジジ ボッ ………… ボウッッッッッッッ チュドォォォォォォォォォン
「はっは…」 「地面がもえっ」 「なんで…」 「クソッ私がこんな奴らにぃぃぃぃ、総大将までもうすぐだったのにぃぃぃぃぃぃぃ」
水たまりができていたはずの地面が炎が燃え盛る道に変わってしまった
降り注ぐ雨が油を跳ねさせ、その油に火が燃え移って弓兵隊と魔法士隊を焼いていく
「うわぁぁぁぁぁ…来るな、こっちに来るなぁあぁぁあぁ。なぜだ!なぜ私がこんな目に!あのバカ領主のせいで…いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ハンニールは領主への恨みを叫びながら火が燃え移り、そのまま地面に倒れ伏した
【水蒸気爆発】 油が入ったフライパンに水を入れると急速的に水が蒸発し爆発するのが良く知られている現象。水の上に油が浮くので一度火がついてしまうと消す方法は窒息させるしかない。
「ふう…これで残りは歩兵だけか」
トウヤにとって最大のイレギュラーと死者が増える原因の弓兵隊を倒したことで安堵し、体から力が抜けてしまった
「後はマキシウスに任せたら大丈夫かな…」
安堵したことが原因か、魔力の使い過ぎか意識が遠のいていく
「…お疲れ様です。後は我らがすべきことですのでしばしお休みください」
そう優し気な声が聞こえてきた
それと同時に柔らかく暖かなものに包まれた気がして俺の意識は落ちていった
「…安らぎを司るは我ら淫魔。この身に変えてもそれを邪魔させはしません」