13話 見えぬ敵
「トウヤ様…トウヤ様…」
くっ…頭と体がいてぇ
「トウヤ様お水をどうぞ」
「ありがとう…ゴクゴクゴク プハァァァァァ 生き返るわ!」
やっぱりあれだけの距離であの質量の物を2回も設置すると魔力を使い切るか
気絶だけですんで良かったぜ
「デスターニャ、戦況は?」
「それは私がお答えしましょうトウヤ様」
「モーンさん?あれっ騎兵部隊への総攻撃は!?」
「モーンで構いませぬトウヤ様。敵の騎兵部隊への総攻撃の件ですが総攻撃ができませんでした…」
「できなかった…まさか敵の歩兵部隊や魔法部隊が騎兵部隊の援護に間に合ったのか!?」
「いえ、敵の騎兵部隊があの爆発で全滅してしまい総攻撃をかける意味が無くなってしまったのです」
…全滅? えっマジで?
「爆発範囲に巻き込まれなかった騎兵もいたのですが…馬ごと急に倒れこんで死んでいました」
ああ…炭塵を使ったことで発生した二酸化炭素による窒息か
あれは爆風を直接浴びなくても周囲の酸素が無くなると窒息するからな
因みに大気中の酸素はおおよそ21%と言われているが、その酸素が4%無くなるだけで頭痛や吐き気、10%無くなると意識喪失、12%無くなると死亡するから密閉空間での換気や酸素の確保は怠ったらだめだぞ!
「ですので、我々は敵の歩兵が陣形を立て直す前に撤退し、トウヤ様の作戦の部隊だけをここに残しました」
「そうか、的確な状況判断ありがとう」
「いえ…トウヤ様、私はこの作戦を疑っておりました。そんな私がお褒めの言葉を頂くわけにはいきません」
「いやそれはいいんだ、ぽっと出の者を最初から信用していては逆に不安になる。それよりも兵をいたずらに消耗させなかったモーンの判断、素晴らしい判断だった。ありがとう」
「トウヤ様…」
失敗した人に対する接し方は2通りある
失敗したことを怒ることかそこまでの過程を褒めることかだ
前者はなぜ失敗したかを考えられる人なら良いが、そうでない人は失敗を恐れるようになり保身に走る癖がつきやすくなる
後者は成果に繋がりにくいが、失敗までの過程の中で良い悪いを考えるようになり気づくポイントが増え、失敗を恐れない心はいつか成功に繋がるかもしれない
俺はモーンが良い指揮官だと思ったから後者を選んだ
「よし、では次の作戦だ…これから俺達は相手の戦力を少しでも多く削るためシールズ峠で撤退戦を行う。斥候は送っているな?」
「はい、敵は未だにレイス平原で軍の立て直しを行っているそうです。おそらくですが敵が立て直す頃には夜ですので敵は無理に動かずレイス平原で夜を越し、明け方一気に攻めてくると思います」
「そうか…なら俺のスキルで嫌がらせしてやろうか」
敵の気力を削げるだけ削いでおきたいしな
「トウヤ様無理はいけませんっ!まだ魔力が回復しきっていないはずです」
「だがこのまま立て直されるとここで兵を削る時に無駄な消耗をするかもしれない。だったら動けるものが少しでも有利になるように動く方がいいだろ…」
俺の言葉にモーンもレダスも反論できなかった
「では私が共に行動しましょう」
そういったのはデスターニャだった
「私ならば闇魔法でトウヤ様をサポートできます」
「デスターニャ!?何を言ってるんだ…危険だ!」
「危険に飛び込むことで我が主に勝利をもたらせるのならこの身を捧げます」
デスターニャ…
「トウヤ様…この身を好きにお使いください」
「…わかった。だがお前は死なせない 俺がきちんとリリアム様の下に連れて帰る。でリリアム様にこのこと言いつけてやるからきちんと怒られろ」
「…ありがとうございます」
じゃあ戦争で一番やられたら嫌な事をやってやりますか!
自分が嫌なことは相手も嫌 (そりゃそうだ)
~夜 敵陣 作戦本部にて~
ズガッシャァァァァァァン
ドガッ バキッ ベキッ ゴキッ
「フゥ…フゥ…フゥ…この無能どもがぁぁあぁぁぁぁ!」
日中の戦闘で生じた損害の報告を受けハンニールは苛立っていた
それもそうだろう…たわいもないと思っていた相手にあれだけの損害を与えられたのだから
損害報告書
戦死者 1987名 騎兵1950名 歩兵37名
負傷者 236名 歩兵236名
指揮官級死亡者 4名 (騎兵部隊第1~4部隊長)
指揮官級負傷者 1名 (歩兵部隊第3隊長)
負傷理由 爆発音に驚き地面に尻もちをついた際、腰を痛め負傷)
騎兵部隊 補給任務に就いていた12名12頭以外全滅
残存兵数 魔法士 48名 弓兵 1008名 歩兵 4729名
指揮官級 魔法士 2名 弓兵 4名 歩兵 50名
「騎兵部隊全滅だと…いったい領主様になんと申し開きすれば良いのだぁぁぁ!いやここまで損害を出してしまっては私の首も危うい。何としてでもこの戦いに勝利しあの2人を連れて戻らねば…」
ハンニールは次の作戦をどうするか考えた
これ以上の兵の被害を大きくしたくない…そう思い考え続けた
「そうだっ懲罰部隊を先頭にして進ませれば良い!あそこには元参謀や先任の総隊長もいる。あの部隊ならば損傷しても惜しくないし、あ奴らが敵の罠を見破ってくれれば兵の損傷を抑えることができる…おいっ誰かっ誰かっ懲罰部隊の隊長を呼んで来い!」
ああ、これで何とかこれ以上の失態を避けることができる。
後はこの戦いに勝って戦果を報告して首だけは避けるしかない
「そういえば今回の件、商会長が持ってきた情報を信じた結果このような結果になったのだったの…まさか商会長が裏切ったのか?だとすればあ奴は許しておけぬ!領地に攻め入った際には八つ裂きにして家畜の餌にしてやる!」
こうして商会長に対する謎の私怨とともに夜は過ぎていく
~夜 懲罰部隊野営地にて~
「何とか生き残れた…か」
私は今日の戦闘で起こった事を思い出しながら生き延びた事に安堵した
「それにしても相手にあのレベルの火魔法使いが居るとは…レベルは4…いや5か。あの時の土砂崩れを起こした爆発跡もそいつがやったのだろうな。それにあの罠を仕掛けた相手…騎兵で見えなかったが騎兵の反応からするに罠が見えないようにされていたのだろう。そうなると高位の土魔法か闇魔法の使い手がいると考えた方がいい…本当に厄介だな」
私は相手側の戦力を分析していたがふと我に返った
「ははっ私はもう参謀ではないというのに何をしているのだろうな」
無駄なことはやめて明日に備えて寝ようと思ったときに声がかかった
「ミルルカ…ここに居たのか」
声をかけてきたのはトメスだった
「どうしたんだそんなに暗い顔をして…何かあったのだな」
「ああ…明日の侵攻作戦…俺達が先頭だそうだ」
「…やはりか。ハンニールが考えそうな事だ」
「あいつは先任の総隊長と参謀が居れば敵の罠を見破り部隊の被害を抑えられるだろ…なんて言ってきやがった。考えていることはまるわかりだってのにな!」
「私たちは尊い犠牲となれ…か」
「ああっその上成功した暁には領主様に口利きしてやろうだとよ…なめんじゃねぇってんだ!」
…私が考えていた中で一番最悪な事態になってしまった
いや私でも作戦を立てる時にそうしていただろう
勝つために犠牲が出るのはしかたない…
「おいっおいっミルルカ…大丈夫か?」
「トメス…すまない考え事をしてしまった」
「お前さんが作戦を考えてもこの作戦が良いのか?」
「ああ、私の考えでもこの作戦が一番勝率が高い」
「…そうか。ちなみに俺達が生き残る可能性は?」
「今日の戦闘から相手に高レベルの火魔法使いが居ると仮定して生き残る確率は…0だな」
「ははっそうだよな…どうあがいても無理って事か」
「ああ、遅かれ早かれ私達の部隊は全滅する」
本当にどうしようもないのか?
ここでこの人を…こいつらを失っていいのか?
考えろ…考えろ…何か…何か方法が…私は軍師だっただろ!
考え続けて少しした頃、一つだけ生き残れるかもしれない案を思いついた
だがこれは危険な賭けだ。失敗すれば命どころか領地に残してきた人も巻き込んでしまう
「トメス…」
「どうした…何かいい案でも思いついたのか!?」
私はこの作戦を告げるかどうか迷ってしまった
そんな私の気持ちを汲むようにトメスが声をかけてくれた
「ミルルカ、俺やあいつらは嬢ちゃんの作戦を信じて命を預けた結果今日を生き延びることができた。だからもし俺達が生き残る方法があるなら教えてくれ…頼む!」
「トメスっ頭を上げてくれ!…わかったかなり分の悪い賭けになるがいいか?」
「ああ、いいぜっ俺はミルルカを信用してるからな」
「…ばか」
私はトメスに作戦を告げた
トメスの顔は驚いて…いるというよりは引きつっていた
けど無理な笑顔を私に見せると仲間たちに話をしてくると去っていった
1人になった私はこの戦争の勝敗を考えていた
先の戦闘で私が思っていた結末よりも悪い結末になった
私が考えていた範囲では騎兵半壊と歩兵少数の犠牲で済むはずだった
けど結果は騎兵隊が全滅…残った歩兵部隊の士気は最悪だ
「この作戦を考えたやつの顔を見てみたいものだ」
そう呟いた私は明日の作戦に向けて寝ることに…「火事だ!火事だぁぁぁぁ!」
「火事!?まさかっ!」
私が火の手が上がっている方向を見るとそれは最悪な事に食料の保管場所だった
「クソッ、まさか敵が乗り込んできたのか!」
その予感は的中した…「「「「ヒヒィィィィィィィン」」」」
「ウワッ」 「おいっ暴れるな!」 「グギャッ」 「誰か止めてくれ!」
次は補給部隊の馬か! なんて性格の悪い奴だ!
「敵が潜んでいるかもしれないぞ!」 「くまなく探せ!」 「こっちはいないぞ!」
こちらの陣営が蜂の巣をつついたように騒々しくなってしまった
「おい早く火を消せ…食料が無くなっちまう!」 「うわっ水を掛けたら火が大きく燃え広がって…」 「うわぁぁぁぁ!ひ…火がついちまった!消してくれぇぇぇぇぇ」
~数時間後~
食料も全焼…か
その上馬を使い物にされなくなったので応援や補給を頼みに行くにも時間がかかる!
ましてこの火事のせいでほとんどの兵が休めずに対応せざるを得なくなったため士気も最悪だ…私達が相手にしているのは悪魔か?
「あの作戦…考え直した方が良いか?」
と私は1人呟いたが誰も返事をするものはいなかった