12話 罠
~レイス平原入口~
「ということで完全に日が昇ったから相手の姿が良く見えるね~」
俺がそう言うとレダスさんが話しかけてきた
「トウヤ様、先ほどの打ち合わせ通り私が騎兵を率いて前線に出ます…反転のタイミングですが相手が罠にかかった瞬間でよろしいのですね?」
「うん、その瞬間に反転してくれないとモーンさん率いる魔法士隊の攻撃に巻き込まれちゃうよ」
「かしこまりました…トウヤ様信用していないわけではございませんが私はこの作戦が失敗すれば我々の勝機は無くなると考えております。リリアム様はトウヤ様を信用される何かを見られたのだと思いますが、私にはまだそれが見えません。ですので問わして頂きたい、どうして貴方様はリリアム様に助力するのですか?」
…本当にまっすぐで良い人達だ。こんな人やリリアム様のような人が俺の国に居たらあんな事にはなってなかったかもな
「レダスさん、感情的なことで悪いけどさ俺リリアム様が好きなんだよね。真っ直ぐでけど頑固で、領民思いで、娘思いで、家臣にも慕われてて。だから俺は戦おうと思ったんだ…自分の戦う意味を預けられる相手だから」
「トウヤ様…」
「あんまり悪く言いたくないけど俺の前の主は自分の事ばっかりでさ、俺が戦う意味って何だろって思ってたわけ。そんな時にあんなまぶしい姿見せられたらできることしてあげたいって思うじゃん。それだけ」
俺何言ってるんだろうな…けど本当にそう思ってるよ
「トウヤ様…本心のようですな。ならば私が命を懸けるのに足る理由だ」
「レダスさん!?えっこんな理由だけど良いの?」
「はっはっは、レダスと呼び捨てで構いませんよ。利益や理屈を語るようでは我々が負けそうになれば切り捨てるかもしれんと思いますが、感情で動かれたのではそれもないと思えましょう。それに若い者がここまで自らの命を懸けているのです…それに答えなければ名折れですわ。はっはっは」
「レダス…」
「トウヤ様…もしもの時はリリアム様とリリアスお嬢様を頼みます」
「それってどうい」「皆の者…我らは勝つために進むぞっ!騎兵隊は我に続けぇぇぇぇ!!」
「「「「「「「「おうっっっっっ」」」」」」」」
レダス率いる騎兵隊は平原に向かって駆けていった
レダスの背を追うように騎兵隊は駆けていく
その後姿を見送りながら俺は最悪を考えてしまった
俺が失敗すれば勝ち目はなくなる
俺が失敗すればリリアム様やリリアスちゃん、デスターニャやマキシウス、それにモーンさんやレダスは…
そう考えた瞬間、今までの戦場では経験したことがない恐怖が俺を襲った
「今までの任務だって味方の命がかかってただろ…なんで今更怖ぇんだよ!」
「それが大切だと思うからでは?」
声が聞こえた方を見るとデスターニャだった
「大切?」
「はい、今の貴方は最初にお会いした時とは違い下心も打算も見えないです。ですのでそれほど思っているからこそ失うのが怖くなり恐怖となっているのでは?と言わせて頂きました」
そういや向こうでの戦争は大切なもののためじゃなく必要から戦ってたもんな…
そっか…そうか…こんな気持ちなんだな…はははっ
「デスターニャありがとう。落ち着いた」
「それは何より。将が不安がると下も不安になります…ましてや感情を読めるものが多いこの世界ですとそれは致命的ですよ」
「わかった、気を付けるな」
ん?この世界?
「そうしてください、それよりもうすぐ敵との距離が200を切りますが…」
おっと、そろそろか。
レダスがうまい事慌てたふりしてくれてるじゃん、ナイス!
こっちが慌ていると思って相手の速度が上がったな…
残り80…60…40…20………今!
「網を対象に42°の方向750m先の地面から4㎝上の場所に長方形に広がるように設置!!」
うぐっ…体から力が一気に抜けて意識が…
けどここで落ちるわけには…
俺が魔力の抜ける感覚に倒れこみそうになるのをこらえていると…
「グワァッ」 「ウギャァッ」 「グヘェッ」 「アブッ」 「ギャァッ」
敵の悲鳴と何かがぶつかる音、そして敵の動きが止まるのが見えた
「うまくいったのか?」
「はい、敵の騎兵部隊は罠にかかり前が閊えたことで後続が前を押しつぶしています」
第一関門突破か…良かったぁぁぁぁぁ
俺がそう喜んでいるとデスターニャが話しかけてきた
「ところでトウヤ様質問なのですが、どうやってあの網で相手の騎兵の足を止めたのですか?トウヤ様のスキルは見させていただきましたがあの網ではいささか強度が足りないと思うのですが」
デスターニャよく聞いてくれた!
俺これ見つけたときマジで天才って思ったもんね!
「俺のスキルのトラップエンジニア、設置と発動、解除しかできないのはデスターニャも見たでしょ」
「はい、訓練場に穴を開けて怒られていましたね…ぷぷぷ」
「…それは置いといて、最初に設置した時に設置したものを持ち上げようとして動かなかったの覚えてる?」
「はい、覚えております」
「それを見て思ったわけよ…これどれくらいの強さまで耐えられるんだって。であの後馬に引いて貰ったりマキシウスに魔法をぶつけて貰ったり色々試したの。そしたらさ、俺の込めた魔力以上の魔法をぶつけたらすぐに壊れたんだけど、魔力なしだと馬3頭で引っ張ても動かなかったの!それを見て思ったんだ…魔力が無ければ壊れないんじゃないかって。でこの作戦を考えてやった結果があれ」
「「「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…押すなっ!潰れるぅぅぅぅぅぅ!」」」」
「…つまり確証はなかったと」
あれ…デスターニャの目が冷たいなー
「まあ、そうだけど成功したからヨシッ」
「はぁ…小心者なのか馬鹿なのかわかりませんね」
「ひどい!!」
なんて話をしているうちにモーンさんの魔法士隊からの攻撃が始まった
最初に風魔法と土魔法で砂嵐を起こし敵の騎兵の視界を奪った
その砂嵐から逃れようと騎兵ががむしゃらに動き、後から進軍していた歩兵の方に向かって突っ込んでいってしまい歩兵が救援に向かう足を止めた
砂嵐に巻き込まれた騎兵達は馬を操り切れず振り落とされる者もいる
そこにこちらの弓兵が矢を射るのだから砂嵐の中は叫び声と怒声に包まれている
罠に突っ込んでいった騎兵は後ろから潰されるか、馬が暴れて巻き込まれるか矢で射られるかで見るのも悲惨な状況だ
「ん…歩兵の動きが思ったより遅いな」
「それがどうかしましたか?」
「いや俺の予定だともうちょっと歩兵が近づいていて、騎兵の騒乱に巻き込めると思ったんだけど…あそこで壁役している歩兵うまくあの状況で判断できたなーって」
あそこの歩兵を率いている奴が総大将か?いや、装備的に違うだろうな
一般兵にあそこまでの状況判断できる奴が居るとすればやっかいだな…
「あの部隊の装備や編成を見る限り懲罰部隊のようですね」
「懲罰部隊…つまり何かしらの訳ありか。指揮権を持ってないだけましだが正面から相手にするのはめんどいな」
素行が悪いだけなら問題ないが、政治的な要素が絡むと指揮官級がいてもおかしくないからな
そう考えているうちにレダスの率いる騎兵隊が帰ってきた
「レダス!見事な陽動でしたね…さすが歴戦の猛者だ」
「おおっトウヤ様!聞いてはおりましたがやはり目の前にいきなり網が現れますと驚きますな!それに敵兵が引っかかり宙を飛ぶ姿や後続に踏みつぶされる姿はなんとも可哀そうに思えましたな」
「ええ、うまくいって良かったです。所でレダス、相手の兵を間近でみてどう感じた?」
「相手の兵ですか?私の感想でよければですがかなり浮足立っておりますな。それと全体的に動きのズレが見えますので普段と指揮しているものが違うのではないかと思います」
なるほど…ならあの場所に居るのは指揮官クラスで確定だな
なら速度が落ちている今のうちにやらせて貰おうか!
「デスターニャ、次の作戦の合図をお願いします」
「かしこまりました」
じゃあ俺ももう一仕事するか…
「炭塵500㎏を対象に42°の方向750m先の地面から3m上の場所に設置そして解除」
あっやっべ…これは無理だわ
デスターニャ後は任せたぜ
俺は倒れこみながらデスターニャにハンドサインを送った
薄れ行く意識のなかチュドォォォォォォォォォォォンと爆発音が聞こえた気がした