11話 EX 闇夜に動く者達
~時は遡って開戦前夜~
「ハンニール様、この度は私どものような者の話に耳を傾けてくださりありがとうございます」
「よい、商会長どのの情報で我々は兵を休ませ万全の状態で奴らを迎え撃つ準備ができた。そのうえ物資まで差し入れて貰ったのだ、礼を言うのはこちらの方だ」
「礼など滅相もございません。我々は商人、必要とする人に必要なモノをお届けすることが使命ですので」
…そう私達は負ける側に付く気は無いですからね
「そうか…それにしても貴殿らの領主は無謀というか無能というか、自らと娘を差し出すだけで良かった事を領民まで巻き込み愚かとしか言いようがないわ」
「ええ、本当に愚かな領主で困ります。自分の身かわいさに領民を巻き込むとは」
「まったくその通りです」 「やはり淫魔はだめだ」 「ただの領主の妻でしかないのに」
本当にその通りです。彼女がその身と娘を差し出してさえいれば私がこんなふうに動かずに済んだのに。
「その点貴殿は先見の明がある。あの前領主が戦死した際にすぐさまこちらに付き、失敗したとはいえリリアムとリリアスを領主様の前まで連れてきた。そのうえこちらが有利になる情報ももたらしてくれた…この働きには報いねばならぬな」
「そう言って頂けると商人冥利に尽きます」
「此度の戦が終わり、かの領地を手に入れた暁には領主様に商売の独占権を認めるよう進言しよう」
おお、商売の独占権とは! やはり私の考えに間違いはなかった!
「過分なお心遣いをいただき恐縮です」
「よい、今後とも領主様の下で互いに励もうではないか」
「はっ、精進させて頂きます」
これで私の今後は約束されたも同然! あのような小娘の下で働くなどまっぴらごめんだ
「うむ、では戦勝の前祝いとして飲もうではないか」
「ではこちら等いかがでしょうか?セフィメント産の200年物の果実酒ですが」
「なんと…かの森人の逸品を頂けるとは!ますます貴殿には報いねばならぬな!」
「ありがたき幸せ。おいお前たち宴の準備をしろ!」
「かしこまりました!」 「お任せください!」 「すぐに支度します」
~2時間後~
「ところで今後の貴殿らの動きだが、我々が軍を進めた際無抵抗で開城しリリアムとリリアスを我々に引き渡すとの事で違いないな?」
「はい、間違いありません。このことに関しましては我らが宰相殿の協力も取り付けております」
「何とあの宰相殿までもか…よほど貴殿らの領主殿は人望が無いのだな」
…あの宰相殿を懐柔するのには手間がかかったが領民のためと言えばすぐに首を縦に振ったわ。
「ええ、そもそも淫魔が領主の妻などに収まっていることがおかしいのです」
「まったく」 「その通り」 「前領主殿は何を考えていたのやら」
「それと領主が拾ってきた人物か…たった一人で戦況に問題は無いと思うが我らの追手や追撃を振り払った以上注意しておかねばならんな」
「確か名前はトウヤとかいいましたか。大方領主に取り入って甘い汁を吸おうとしたのでしょうが乗ったのが泥船とは本当についていない」
「ふ…確かにな。我らの勝ちは揺るがん。何せ兵力差が5倍ではな、その上こちらに向かわせている兵は500だったか…」
「はい、彼が考えた作戦は500名ずつ3つの部隊に分け中央の部隊を一当てした後敗北に見せかけて引き、残り二つの部隊でハンニール様を狙うというものですね」
「うむ、確かにうまくいけば指揮系統が混乱しこちらの敗北もあり得たかもしれぬな…だが事前に知られているようではまだまだ甘いな」
「はい、彼は味方に敵がいるとは考えていなかったようですから…甘い男です」
「この作戦ならば我が軍は中央を蹴散らしそのまま攻め込むというのが良いだろうな。領地に着きさえすれば貴殿らの協力を受けられる」
「はい、つまり敗北は万に一つもないということですね」
「ああ、明日が楽しみだ」
ええ、私も明日が楽しみですよ…
私の未来のためにも犠牲となってください領主様
こうして夢を見ながら宴会は進んでいった…
今夜は星も月もなく静かな夜だ
…………………
「そううまくはいかぬよ」
その声は誰に届くこともなく闇夜に消えていった
…………………
~同刻 懲罰部隊野営地にて~
一人の少女が覚悟を決めていた
「たとえこの身が死を迎えることになったとしても」
……………………
「それはただの自己満足でしかないの」
急に聞こえた声に振り向く少女
だがそこには誰もいない
そこにあるのは影だけ
……………………
~同刻???にて~
「じゃあ本当の作戦会議始めよっか」
その言葉にデスターニャさんとリリアム様以外のここに居る皆がこいつ何言ってるんだって目で俺の顔を見てきた
「トウヤ様、本当の作戦会議とはいったいどういうことですか?」
「モーンさんごめんね…あの軍議で話した作戦の内容ほとんど嘘なんだっ♪」
……………「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」」
あっはっは…その顔が見たかったのだよ!
あっデスターニャさんとリリアム様…そんな目で見ないでください
「どういうことですか!まさか貴方は敵側の手の者で我々を罠に掛けようと…」
「あっレダスさんそれは違うよ。本当にそうだったら一回リリアム様達を助けるなんて面倒くさいことはせずにそのまま敵に渡してるよ。それにリリアム様やデスターニャさんが敵を見間違うことは無いでしょ?」
俺の言葉に納得がいったのかレダスさんもモーンさんも落ち着いてくれた
「ですがトウヤ様、今軍はあの場で話されていた作戦通りに500人ずつ3部隊で編成していますよね。どう編成を変えるおつもりですか?今」
「マキシウス、編成は変えないよ。運用方法を変えるだけ」
「なるほど、ではトウヤ様の作戦を聞かせていただけますか?」
俺が考えた作戦はこうだ
①軍議の通り500人(騎兵200 弓兵250 魔法士50)でレイス平原に進軍する
②レイス平原に進軍するのは日が昇ってから2時間後
③残りの軍はレイス平原に入る部隊を中心に上下に配置、あっ見つからないようにね
④俺達の軍が半分ほど入ると敵の軍の攻撃が始まると思うからそしたら俺達の軍は急いで撤退するように見せる
⑤その間残りの軍は待機
⑥敵が罠にかかったら俺たちの軍が反転して魔法と弓で攻撃するので魔法が止み次第両側から挟むように攻撃
⑦攻撃が終わったら速やかに2部隊は撤退し領地の前のトライ平原で部隊を整列、待機
⑧俺達の部隊は騎兵を先に待機場所に返してシールズ峠で撤退戦を行う
⑨俺達が合流したら最後の殲滅戦開始
という感じでよろしく!
「トウヤ様、何点かお尋ねしたいのですがよろしいですか?」
「はい、マキシウスくんどうぞ!」
「…では、トウヤ様の率いる部隊に敵が攻撃を仕掛けてくると思う理由を聞かせてください」
「ああそれか。それはだな、俺が漏らした作戦通りに動くなら敵は俺の部隊を最速で破るのが一番勝率が高いからさ。俺の最初の作戦だと敵の大将を叩いて敵軍を混乱させるって作戦だっただろ。俺の部隊を倒すのが遅くなればなるほど敵は本体を叩かれる可能性が高くなる。その前に俺達を蹴散らして残りの部隊を殲滅した方が被害が少ないって考えると思ったからさ」
まあそれ以外にも相手の数が少数だと侮って速攻で勝負を仕掛けに来るって考えもあるんだけどな
「なるほど、では次の質問です。相手を罠に掛けるとありますが、相手の動きを止められるほどの罠をどこにどうやって仕掛けるおつもりですか?」
「あーそれはナイショって言いたいところだけど…ダメだよね?」
「ダメです」
「じゃあしょうがない、罠を仕掛けるのは俺のスキルだよ。後仕掛ける罠はデスターニャさんに用意して貰った大きな網だね。この網で相手の馬の脚をひっかけて転ばせようと思ってる」
「網ですか?どのぐらいの大きさかわかりませんが馬の足を止めるには強度が足りないのでは?」
「それは安心してちゃんと考えてるから」
そう、これに気づいたとき俺天才って思ったぐらいだから
「わかりました…では次が最後の質問ですが、残り二つの部隊をトライ平原まで戻したうえ待機とのことですがトウヤ様の部隊…しかも魔法士と弓兵だけで撤退戦を行う意味は何ですか?相手が混乱したのなら一気に全軍で攻め込めばよいと思いますが?」
そうなんだよな、確かに俺もそう思った。けど相手の騎兵を削れたとしてまだ歩兵が残ってるんだよ。歩兵の数が馬鹿にできないくらい多いし、もしそれをまとめて立て直されたら勝機がかなり薄くなるんだよな
「俺もそう思った、けどこちらの消耗を少なくかつ相手を完璧に立て直せなくするにはこの方法が良いと思ったんだ。部隊の動かし方は今詳しく説明しても解らないと思うからまた今度詳しく説明する。ただこれだけは言わせてくれ、この戦争勝っても終わりじゃないかもしれないってことは覚えておいてほしい」
俺がそう言ったとたん、皆が驚いた表情をした
そりゃそうだよな、この戦いに勝ったら戦争が終わると思うよな
俺の嫌な予感は今回ばかりは外れて欲しいぜ
「トウヤ様…今の言葉の意味はこの戦いが終わった後聞かせて貰います。マキシウス、レダス、モーン…今はトウヤ様の作戦を信じましょう」
リリアム様…
「トウヤ様、他に話されることはございますか?」
「いえ、私からは以上です」
「かしこまりました。では他に話したい方はいらっしゃいますか?」
その言葉に皆首をふった
「では最後に私から一言だけ言わせて頂きます…私たちに刃を向けたことを後悔するくらい叩きのめしなさい!」
「「「「はっ、かしこまりました!主の名を敵に刻み込みます!」」」」
やっぱこの人強ぇーな…
まあ俺には俺のできることをしますか
……………
そして時は動き…
……………