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異世界戦論  作者: kiruke
第1章 戦いは何のために
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10話 EX 私が見たもの

 パチパチパチッ カランッ

 (たきぎ)が燃える優しい音が聞こえる。


 ここは…と意識を取り戻そうとすると急に額が痛み、その痛みで意識を取り戻した。


 「おっ嬢ちゃん、お目覚めかい。おっと無理に動くんじゃねぇぞ額は止血したが殴られた場所はまだ腫れてるからな。飲めるんだったらこの痛み止めを飲んどきな」


 私は痛む体を起こしながら薬を受け取るとそれを飲んだ


 「介抱してもらってすまない。ついでにここがどこかも教えていただけるとうれしいのだが」

 「ここはレイス平原さ。そんでここに居る奴らは懲罰部隊…簡単に言えば今の領主に歯向かった奴らで俺がここのまとめ役のトメスってんだ。よろしく」

 「ミルルカだ…よろしく」

 「ミルルカ…確か部隊の参謀をしていたよな。そんなあんたがどうしてこんな場所にきちまったんだ?」


 私は領主の館であったことを話すかどうか迷い言い詰まった。


 「いや言いたくないことは無理に言わなくていい。どうせあのボンボンのこった、気に入らないとかそんな理由でここに追い払ったんだろ。その上こんなぼろぼろになるまで甚振りやがって」

 「領主様をボンボンだなんて聞かれたら首が飛ぶぞっ!」

 「いいんだよ、ここに居る奴にチンコロする奴はいねぇよ。なあっお前ら!」


 「「「おう!ここに居る奴らは皆仲間だからな!」」」


 私は頭を抱えた。傷口とは違った意味で痛くなったからだ。


 「それにあのボンボンが子供のころ犬に追いかけられて泣きじゃくってたのを助けてやったのは俺だぜ!」

 「俺なんておねしょした寝具を干すのを手伝ってやったぜ!」

 「俺なんかあいつがつまみ食いしたのをかばってやったのによ!」

 

 「ここに居る皆は領主様を子供の頃から知っているのだな」


 私がそう言うと皆静まり返ってしまった。


 「ああそうだよ、ここに居る奴らはあいつが領主を継いだ時に苦言を言った奴らなのさ。あいつは自分にとって耳障りの良い事を言う奴しか側に置かなかった。その最たる奴があのハンニールの野郎さ」


 確かに総大将(ハンニール)は領主を止めるような事を言わなかった。

 だから私もここに送られたのだ。


 「ここはレイス平原だと言っていたな。総大将はここで戦端を開くつもりか?」

 「そうみたいだぜ。お嬢ちゃんがおねんねしている間にここまで強行軍で来てついさっき野営の準備が終わったばっかりだからな」

 「総大将の命令は?」

 「なんでも相手がこちらに向かわせている戦力は500に満たないらしい。だから向こうがここに着き次第騎兵で突撃して蹴散らすそうだ。まあ俺たちは無理やりつれてこられたが今回は出番がなさそうで良かったぜ。」


 戦力が500もいない? ウーレイスならその3倍は用意できるはず。

 それにそんな情報ハンニールはどこから得たのか?私以外に追加で送られた部隊は無かったはずだが。


 「相手の戦力が500程だと総大将が言っていたのだな?」


 私は嫌な予感がしてトメス殿に確認するように尋ねた。


 「ああ、ハンニールの野郎がそう言っていた。何なら相手がこちらに来るまでもう少し時間がかかるのでゆっくり休んでくれとも言ってたよ…それがどうかしたか?」

 「…トメス殿、信じられないかもしれないが私の話を最後まで聞いて貰えないだろうか?」


 私の考えが正しければ総大将が掴んだ情報は罠だ


 「…わかった、元参謀の嬢ちゃんが言うことだ何か思い当たることでもあるんだろ?話、聞いてやるよ」


 私は自分の考えをトメス殿に伝えた。

 トメス殿に話した内容は最初驚かれたが府に落ちる点があったのか素直に聞いてくれた。


 「わかった嬢ちゃん…俺はこのことを部隊の皆に伝えてくる」


 そう言いながら彼は行ってしまった。

 一人残されてしまうと色々なことが頭に浮かぶ。


 今の私には参謀としての身分も立場もない。

 領主様にあんな目にあわされたのにいまだに忠誠を尽くそうと思う気持ちがあるのだろうか?

 わからない、けどこのままだと多分私たちは負ける。

 そうなったら今度は家族や友人、領地で良くしてくれた人たちが酷い目にあうかもしれない。


 それだけは嫌だ…だから私は勝つために少しでもあがく。


 「たとえこの身が死を迎えることになったとしても」


 ……………


 「それはただの自己満足でしかないの」


 急に声が聞こえて私は振り返った

 けどそこには誰もいない…そこにあるのは闇と影


 「気のせい…だよな。今日は色々あったし疲れているんだ。寝れるときに寝ておこう」


 こうして私は再度眠りについた。

 ああ、今夜は星も月も見えない静かな夜…だ…な



 ~朝~


 「おい嬢ちゃん起きろっ!」


 トメスの大きな声で私は目が覚めた。


 「やっと起きたか…戦場でこんだけ寝れりゃ立派なもんだな」

 「トメス殿…おはよう。疲れていたみたいでぐっすり寝てしまった」

 「はぁ…そういや昨日の件ちゃんと皆に伝えておいたぜ」

 「すまない恩に着る。所で敵に動きは?」

 「いや、まだだ。まだこっちに着いてすりゃいねえよ」


 やっぱり…な。いくら何でも遅すぎる。

 ハンニールが掴んだ情報は掴まされたと考えた方が良いか。

 なら敵はこの後どう動くのか考えなければ…


 ミルルカがそう考えだした途端戦場に声が響き渡った。


 「「敵がみえたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 「「全体整列ぅぅぅぅぅぅ!騎兵部隊は前へぇぇぇぇぇぇぇ!」」

 「「敵がこの平原に入り次第突撃開始ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」」


 「おい嬢ちゃん!敵が来たぞっ、本当に嬢ちゃんが言ってた動き方でいいんだな?」


 トメス殿が確認するように聞いてくる。


 「トメス殿それで構わんっ、私たち懲罰部隊は全体より少し遅く動く」

 「わかった嬢ちゃん!おいお前ら俺に何かあったときには嬢ちゃんの言うことを聞いて嬢ちゃんを守ってやれよ!!」


 私はトメスさんの言葉にびっくりした。


 「「「「おう!!まかせときな隊長!!」」」」


 なんでこの人たちはこんなに私を信用してくれるのだ?

 そんなに話したこともなければなんの肩書もない小娘だぞ?


 「何でかって顔してるな。俺はな嬢ちゃんの指示なら皆で帰れると思ったんだ。今まで嬢ちゃんが指揮してきたその経験を信じたんだ。胸を張りな嬢ちゃん…お前さんの今までの実績は誇っていい」


 …ああ ならばなおさらこの部隊の皆を死なすわけにはいかないな。

 …また守るものが増えたか。


 「皆、生きて帰るぞ!そのために私は全力を尽くす…だから力を貸してくれ!」

 「「「「「おう!この命預けた!」」」」」


 そうしているうちに次々と伝声が届く。

 

 「「敵の半数が平原に入ったぞぉぉぉぉぉぉ」」

 「「騎兵部隊突撃準備ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」」

 「「敵を蹂躙しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」


          「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」


 大きな叫び声と同時に地鳴りが戦場に鳴り響く

 馬が敵を潰さんと一目散に駆けていく

 敵はまだ平原に全ての軍が入っておらず陣形も組めていない

 そして騎馬が近づくにつれて慌てふためく姿が見える


 「「このまま蹴散らせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


 そして先頭の騎馬と相手の先頭との距離が100mをきったとき…



 ガッッッッッッッ


                「「「「「「「えっ?」」」」」」」


 先頭を走っていた騎馬が勢いよく宙を飛んだ


 「グワァッ」 「ウギャァッ」 「グヘェッ」 「アブッ」 「ギャァッ」


 「と…止まれ止まれぇぇぇぇぇぇぇ…グホォッ」

 「罠だっ!罠が仕掛けてあるぞぉぉぉぉ…ベフッ」

 「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…押すなっ!潰れるぅぅぅぅぅぅ!」


 騎兵の通る道に仕掛けられていたのは網目のように編まれた縄だった。

 その縄はまるで固定されているかのように騎馬の足を取り…転ばせる。

 そして一度こけてしまったら最後…後方の騎馬は急には止まれず、転んだ馬と兵士を圧死する。

 そして馬と兵士に足を取られまた新たな転落者が生まれる…


 「おいおい…嬢ちゃんの言ったとおりじゃねぇか」


 トメスが私を見ながらそう呟いた。


 「私たちの部隊は少しずつ進軍速度を落として後方の部隊の壁になる…勢いを抑えきれないと私たちも押しつぶされるぞ!」


 私は叫ぶようにトメスに答える。


 「おう!そこは任せろ…お前ら進軍速度を駆け足から少しずつ落としていくぞ!」

 「「「「「おうっ!」」」」」


 よし、このまま速度を落とせれば歩兵部隊は立て直せる。

 後は騎兵部隊がどれだけ残るかだが…


 「「うわぁっ…急に砂埃が…前が見えない!」」

 「「うわぁぁぁぁぁ…目が…目がぁぁぁぁぁぁ」」

 「「くそっ…一度撤退だ…引けっ引けっ引けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」

 「「前がみえねえのにどっちに行けばいいんだよぉぉぉぉぉぉ!」」

 「「ウゴッ…突っ込んでくるんじゃねえよ!!」」


 騎兵達の様子は最悪といった所か…

 助けに入ろうとすると騎馬に巻き込まれてしまうし、撤退の号令をかけてもあの視界では止まり切れず歩兵に突っ込んでしまいそうだ。


 「これは…騎兵は使い物にならんな」

 「嬢ちゃん…どうにかできないのか?」

 「無理…だな。今あの中に飛び込むことは死を意味するぞ。それにこんな罠を仕掛ける相手だ、あの風や砂で終わるわけがない」


 私がそう言い終わると同時に…チュドォォォォォォォォォォォン…爆発が起こった。


 「開戦早々に戦況は最悪だな…」


 私にはそうこぼすしかできなかった。


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