逢魔が娘-08◆「気になる時は、尋ねましょう」
■ペーレンランド/都/酒場
「嬢ちゃん、誰かを捜してるんかい?」
「え?」
物珍しそうに酒場の中を見回していると受け取られたのか、カウンターの後ろからガタイの良い男が声を掛けてきた。どうやら、この酒場のマスターのようだ。
「そうじゃないけれど・・・」
「じゃ、何か飲むかい?」
「そうね。じゃ、ここの名物、“峰の炎”を一杯くださいな」
「あいよ!」
蒼いグラスに透明な滴を注ぐと、滑らかなカウンターを滑って来る。
「ありがとう」
グラスを手に取ると、娘はそっと口を付ける。
「キツイかい?」
「いいえ、大丈夫」
「へぇ。お嬢ちゃん、行ける口なのかい?」
「量は飲めないけど、嫌いじゃないわ」
「剛毅だねぇ」
マスターが言うのも無理はない。この“峰の炎”は、ペレンランド特産の強い酒精だ。グラス三杯で大男でもぶっ倒れると言われている。それを、いとも涼しげな表情で、華奢な娘が事無げにグラスを空けているのだ。
「お嬢ちゃん、どっから来たんだい?」
「傑門です」
「漠羅爾新王朝か。麗都は、素晴らしい都だって言うじゃないか?」
「そうですね。晃樂上帝の御代になってから、大分かわりましたから」
「へぇ、そうなんだ」
「先の大戦で損傷した市街も再建されて、今は東西の貿易で賑わってますよ」
「上帝様々だな、そりゃ。それにしても、確か上帝様は冒険者上がりだったんじゃないか?」
実力があれば成り上がれた時代だったからなぁ、としみじみ言う酒場のマスターに、娘はクスリと笑った。
「羨ましい、とか?」
「へっ、莫迦言っちゃいけねぇよ。オレはこの酒場で満足しているし、それなりに面白いんだぜ、ここはよ」
「どんな点が面白いんですか?」
「そうだな。何より色々な情報が入ってくるしな。その為に、思わぬ事を知る事が出来る」
「例えば?」
「あっちの山に龍がいるとか、街中の豪商の子供が拐かされたとか・・・」
「・・・この都に巣くう怪異についてとかですか。」
「そうそう、怪異だぜ・・・って!!!」
酒場のマスターは慌てて口を噤んだ。
「怪異ですよ。この都に巣くっている」
「し・・・」
「し?」
「しらねぇ! オレはそんな事聞いた事もねぇ!」
「怪異の、ことを、知っている。そうですよね。」
一言毎に区切る様に、娘ははっきりと発音した。その言葉には、力が籠もっていた。目に見えて、マスターの様相がおかしくなった。
更新に少し間が開きますので、一話追加で更新しておきます。短いですが、お楽しみ下さい。




