逢魔が娘-34◆「終わり良ければ、超グット?」
■ペーレンランド/都/街東部地区/東部地区/黒き泉
黒き泉から吹き上がった光の柱は、天を貫いた後徐々に細くなり、最後には空に光の粉を撒き散らす様にして消失した。あんぐりと口を開けて、ルナが全てを吹き飛ばすのを見ていたステンカとロアンは、顔を見合わせた。
「片づいちまったぜ」
「片付きましたね」
「オレたちって、いる必要あったんかな」
「フィナーレに必須の観衆、というところでしょうかね」
はぁ、と二人して大きな溜息を付く。
「はっはっは! いや、参った参った。前座で終わってしまったではないか!」
だが、事態を全然判っていない御仁もここにはいた。
言うまでも無い。全エルスに百万人のファンがいると言う(激しく自称)異大(誤字にあらず)なる“漢”であるバッコス・ドラケンスバーグ、その人である。
「こんな雑魚相手に、我が輩が出張る事も無かったと言う事だろう。ふははははっ!」
世の中、実に平和だなぁ、とステンカとロアンは互いの顔を見合わせると、高笑を続けるバッコスに生暖かい目を向けて首を振るのだった。
☆ ☆ ☆
静流はゆっくりとルナの元に歩み寄った。
ルナは“天使の鎧”を既に仕舞い込み、通常の服装である。
「のう、ルナ。お主、まだまだ力の片鱗も見せてはおらんのだろう?」
「どうしてそう思うの?」
「言うまでも無い事よ」
静流は些か苦笑しつつ言った。
「最後の相手は、一体で最初の幽鬼と冥鬼を足して、尚お釣りが十分来る力を有していた。それを苦も無く完全浄化。実力の差は明白じゃろう? その力を最初から使えば、封印諸共浄化しておったろう」
「静流の買い被り過ぎ、じゃないかなぁ・・・」
「言いよるわ」
クックックッと静流は笑った。
「まぁよい。追々、お主の力を見極めれば良い事よ」
「実力があるのは静流の方でしょ?」
「我のは、“技巧”と“経験”なり。お主の天性のそれとは大きく異なるわ」
「そうかなぁ・・・」
「疑問の余地など、有ろうものか」
大きな疑問符を頭上に浮かべるルナに、静流はやれやれ無自覚じゃのう、と肩を竦めるのだった。
☆ ☆ ☆
「姫様っ! ご無事ですか!!」
深夜に、ご近所迷惑も甚だしい大騒動を起こしたのである。警邏隊が掛け付けるのも道理であった。
ナーシアス隊長を先頭に、二個中隊の警邏部隊が掛け付けた。
それを、鷹揚に手を上げてバッコスが出迎える。
「をぉ、隊長。出迎えご苦労」
「バ、バ、バ、バ、バ・・・」
「バ? ババァ?」
「違うわっ!!!!! バッコス! 貴様と漫才をしに来たのでは無い! 何の騒ぎだこれは!」
「む? 悪を小指の先でのしただけだが、それも判らんのか? 隊長も存外理解力が無いな」
「貴様にだけは言われたくはないわっ!!」
この時点で計ったら、恐らくナーシアスは超高血圧で即刻入院の値に達していただろう。
だが、幸いな事にナーシアスの血管が切れる前に(堪忍袋は切れまくってはいたが)、ルナと静流が無事な姿を見せた。
ルナはナーシアスに丁寧に頭を下げる。
「ナーシアス隊長。邪悪を討伐したとは言え、ご迷惑をお掛けしました」
「あ、いぇ・・・しかし、姫君。本当に諸悪の根源を退治して仕舞われたのですか?」
「如何にも。ルナにとり、小手調べにもならなかったがの」
「はぁ」
笑みを浮かべたルナと静流の顔を交互に見ると、ナーシアスはがっくりと肩を落とした。
「姫君、公主様。お二人に何かありましたら、このペーレンランド連邦共和国も只では済みません。もっと自重を宜しくお願い致します」
「自重、したよ?」
「何ら危険もなかったぞ?」
バッコスといい、高貴な姫君お二人といい、どうして自分はこうも星回りが悪いのだろうか、とナーシアスは目眩がする思いだった。
「兎も角。」
「はい」
「うむ」
「斯様な場所に近づかず、近づいても派手な行動を慎む。これが一般的な“自重”なる行動です。お判り頂けましたか?」
「判ったわ、隊長さん」
「お願いしますよ」
拝まんばかりのナーシアス。だが、その想いを逆なでする様な声が・・・
「何だ、隊長。今度は米つきバッタの真似か?」
周囲にいた人は、何かがブチっと切れる音を聞いたと、後程証言した。
「バ・ッ・コ・スぅぅぅぅ」
「む? おのれは本当に隊長か? さては、物の怪が化けておるのだな! このバッコス・ドラケンスバーグ、モノのついでに退治してくれるわ!」
「この・・・この・・・この・・・大莫迦者っ!!!」
この国の隊長たるもの、ルナと同じ位の雷を落とせるのだな、と妙な所で静流が感心したとか。はて?




