逢魔が娘-30◆「先制攻撃、と行きましょう」
■ペーレンランド/都/街東部地区/東部地区/黒き泉
禍々しい瘴気を放ち、その泉は深い闇の中にあった。
「これは酷い・・・」
「我も此程とは思わんかった」
ルナと静流が声を上げる。ステンカは渋面を作ると舌打ちする。
「ちっ。今日は特に酷えな」
「ルナ、このまま行くか?」
「闇雲に近づくのはちょっとね。静流、何か判る?」
「暫し待て。」
眼前に“地龍の錫杖”を掲げると、静流は集中する。
「・・・強大な魔力と悪意を感じるな。ふむ、魔導を用いなくとも、肌で感じる位だ」
「そうね。」
羽を両側にあしらったオープンフェイスの兜の下から、鋭い視線が前方一帯に油断無く注がれる。程なく、口元に面白そうな笑みを浮かべると。
「先制、しようか。」
「先制?」
あぁん? と鸚鵡返しに言うバッコスに、笑顔を向けるとルナは言った。
「こう言うこと。」
華奢な両手を開いて立てると、氣を溜めてゆく。見る間に、両手の間に白い輝きが集まる。
「お、おい。それって・・・」
「目を閉じててね」
バッコスが言い切る前に、ルナは事投げに言うと、その両手を前方に払った。
「行きなさい。“閃光珠”(Flash Orb)!」
その華奢な手の中から目映い光の玉が放たれると、一直線に飛翔して目標に着弾した。次の瞬間、周囲は強烈な輝きで満たされた。それは、目を閉じていても痛みを感じる程だった。
『!!!!!!』
声にならない、何かの絶叫が響いた。輝きは薄れつつある。
「さて、行きましょうか。静流と私を先頭に、後は側面と背後を護ってね」
聖皇剣(Emperious)を引き抜いたルナに、静流が頷いた。
「良かろう。だが、その前に」
左手を拝む様に眼前に揚げると、静流は錫杖を一振りする。済んだ鈴の音色が辺りに響くと共に、全員の身体と武器が淡い輝きを帯びる。
「“裂帛”(れっぱく)と“堅持”(けんじ)の魔法を掛けた。少しはマシになるであろう」
ちらりとバッコスに視線を振る静流に、ルナも頷いた。
「ありがとう。どノーマルだったから。これでちょっとは安心ね」
「永くは保たぬ。速戦が肝要だな」
「ふむ――唯でさえグレイトな我が輩だが、今宵はまさにウルトラ、と言った感じだな」
これなら、神の域まで届くな、などとほざくバッコスに苦笑しながらも、ルナは優しく言った。
「側面援護、任せたわよ。ウルトラ戦士さん」
「任せておけぃ!!」
緊迫した戦闘の前の二人の漫才に、後ろで聞いていたステンカとロワンを始めとする“絆の団”の面々は、緊張感の無さに人知れず溜息をつくのだった。
大変遅くなりましたが、逢魔30話をお送り致します。超スロー更新ですが、今後とも宜しくお願い致します。