逢魔が娘-02◆「何かおかしいとは思ったけれど」
■何処とも知れぬ山中/峠道
やがて陽がとっぷりと暮れると、空には星が瞬き始めた。蒼く、白く、紅く、そして黄色く──色取り取りの宝石が、一つ、また一つ、黒いビロードの様な夜空に輝いている。峠道の両側には、峨々たる峰々のシルエットが天を突く様に聳えていた。星明かりに煌めいている氷河が、所々流れ落ちてきている。
暗闇の中を、娘は軽い足取りで下っていく。所々折れ曲がっている山道だが、歩き慣れた感じだった。順調に距離を稼いでいたその足取りが、ピタっと止まる。
「?」
静かに、娘は耳を澄ましてみる。
「・・・空耳じゃ、ないよね?」
確かに、前方から物音がしている。常人には聞こえないレベルなのだが、娘の耳にははっきりと聞こえていた。
「!!」
疾風の様に、娘は走り始めた。
「夜道、人里離れている、そこに女性の悲鳴──普通に考えれば、おかしいって思うんだろうけどね」
夜目が利くのではないか、と思える程的確に山道を下って行きながらも、息も乱さず一人ごちる。
「どうにも、身体が先に動いちゃってるんだよね。あははは、損な性質。」
にこにこ笑っているはが、事態は笑い事ではないだろうに。そんなこんなで、娘は前方に灯りを認めた。
「あれね!」
そう言った瞬間、娘の足取りが一層速くなった。
連続して二話目です。お楽しみ頂ければ幸いです。