逢魔が娘-24◆「圧倒的ですね、我が軍は」
■ペーレンランド/都/街東部地区
「半分はデカブツに掛かれ! 残りは娘をふん縛れっ!」
「合点っ!」
粗野な物言いの割には、盗賊達は良く組織だっていた。十人がそれぞれの得物を手にバッコスを取り囲み、残った五人が指示を出した頭目を黙される男と共に、ルナと静流を取り囲んだ。
「盗賊風情が、やるな」
そう言う静流の口元には笑みが浮かんでいた。
「今更後悔しても遅いぜ?」
「後悔するのは、そちの方だと思うが?」
「へっ! どこ見てそんな事を言ってるんだ?」
「どこって・・・周り?」
少し不思議そうに言うルナ。
「周りって・・・何ぃ!」
バッコスの周りを取り囲んでいた盗賊は、既に半数が倒されていた。
「わははははっ! 準備運動にもなりはせんぞ!!」
「・・・嘘だろ・・・」
「いいや、現実だ。相手にしてはならない者を相手にしたな。覚悟は出来ていような?」
「今頃謝っても、とっても遅いけどね」
静流とルナに交互に言われて、盗賊達の頭目の顔色は信号機の様に、青→赤→黄と目まぐるしく変化する。
「くっ・・・吠え面搔くなぁ!! 容赦なしだ! 全員で掛かれ!!」
うぉお! と声を上げて五人が一斉に静流とルナに襲いかかった。
「ふむ。」
手に持った錫杖で地面をトンと一突きすると、ルナは静かに呪文を唱えた。
「“その身を縛られよ”(Hold Person)」
「あぐっ!!」
盗賊三人が、金縛りにあった様にその動きを止める。
「ジャイドー! ブレンム! ゲゲドガル! くそっ、お前魔導士だったのか!」
「如何にも。我の格好、その様に見えなかったか?」
「今度から先に言えよっ!」
「ふむ。では、次回からはそうしよう」
静流と盗賊達の頭目が緊張感の無い会話を続けている間に、ルナは二人の盗賊の相手をしていた。
「へっへっへ。嬢ちゃん、もう逃げられないぜ」
「おい、ギーメン。相手、逃げてないって」
「阿呆っ! こういう時ゃこう言うのがお約束だろ!」
「お約束ってなぁ・・・」
「あの、あなたたち、一体どうしたいの?」
「「今取り込み中だ!!」」
「あ、ごめんなさい・・・」
そこで、えっ? とルナと盗賊二人は顔を見合わせた。
「戦うんだよな、オレ達?」
「そ、その通りだ!」
「なら、真面目にやりましょ?」
そう言うと、ルナは両手を眼前に差し伸べる。その細い手から、青白い閃光が放たれる。
「“真昼の閃光”(Lightnig Bolt)」
「「きゅう」」
青白い閃光は盗賊二人の身体を抜けて、地面に放電した。白目を剝いて、二人は地面に倒れる。
「力を弱めたから、命に別状は無いわ。暫く痺れて貰うだけ」
ごめんなさいね、と言いながらルナは視線の合った静流に笑顔を見せる。
「こっちは終わったよ」
「こちらもだ」
「バッコスの方も終わったね」
「そうだな」
折しも、バッコスがグレイト・ソードの一振りで、最後の二人を吹き飛ばした所だった。ルナと静流が見ている事に気づくと、にやりと笑ってサムズアップしながら二人の所に歩いてくる。
「我が輩の勇姿に見惚れていたのか? 無理もないわな、ふははははっ!!」
「貴殿は、一度医者に脳髄を見て貰う事をお勧めする」
「我が輩の脳味噌の完璧さなら、度々の頭突きで確認済みだぞ?」
「精神も病んでいるんだな」
「ふふ、褒めるなよ」
照れるぜ、と顔を赤らめるバッコスを物体Xでも見る様に眉を寄せる静流。
「死んでも治らんな、これは」
「そうね、私もそう思うわ」
「我が輩は完全に健康体だぞ?」
「「虚けね(だな)」」
溜息を付きながらハモるルナと静流。
「お、おぃ・・・オレを無視しないでくれよ・・・」
三人が意気投合するのを、戦意を完全に喪失して、盗賊達の頭目が情けない顔をして所在なげに立っていた・・・。
お待たせしました、「逢魔24」をお届けします。お待たせしてしまって恐縮です。