逢魔が娘-22◆「それでは調査に向かいましょう」
■ペーレンランド/都/酒場→大通り→警邏隊本部
「普段と違うのは、その吟遊詩人のみ、か・・・」
大通りを歩きながら、ルナが呟いた。
三人は酒場を出ると、大通りを何の気無しに城門方面に向かっている。
「よぅし。そいつをとっ捕まえて、締め上げるとしようぞ!」
「締め上げるには相手を捕縛する必要があるが、貴殿その吟遊詩人が何処にいるか、心当たりがあるのか?」
「さっきの酒場を張れば良いだろう?」
「戻ってくると言うのか?」
「相手に帰巣本能が有れば戻ってくる。」
バッコスは力強く断言した。その余りの迷(?)推理に、“聞いた我が愚かだった”と独りごちて、静流は米神をさすった。
そんな二人の漫才を余所に、先程から何事かを思考していたルナが、まるで独り言の様にそっと言う。
「・・・あながち、バッコスの言っている事も外れていないかも知れない」
「ふははははっ! 良き理解者に恵まれているのは良い事だ」
我が意を得たりとでも言う様に笑うバッコスに、ちょっと待ってとルナが返した。
「私が言いたいのは、他の酒場にも現れる可能性があるってことよ。もしもその吟遊詩人が元凶だとしたら、全く“怪異”が発生していない地区の酒場に、今後表れるかもしれないでしょう?」
「そう言う事か。さすれば、警邏隊本部で事件が発生していない地区の情報を貰う必要があるな」
「そう言う事ね」
「ならば、この偉大なバッコス様に任せておけ! 洗いざらい、情報を吐かせてくれるわ!」
「吐かせるって、誰によ・・・」
「ここまで阿呆とは・・・」
がはははは、と高笑いするバッコスを見ながら、ルナと静流は心の中で“こいつを仲間にしたのは果たして正解だったのか?”と、真剣に自問自答するのだった。
☆ ☆ ☆
戻って警邏隊本部。三人は、事情を説明する為に、隊長であるライアンの部屋にいた。
「その吟遊詩人が曲者だと、エリヤ姫様はお考えなのですか?」
大きなデスクに座ったライアンの前に、ルナと静流が座っていた。バッコスは、その二人の後ろに巨大な塔の様に立っている。
「えぇ。少なくとも、その吟遊詩人が酒場のマスターが怪異に変わった事に関与した可能性があると思うの」
「普遍性から乖離する事柄こそが、その真髄である可能性が高い。我も、ルナの考えに同感だ」
「無論、この我が輩もな!」
がははははは! とバッコス特有の高笑いが炸裂。ライアンはその騒音に顔を顰めた。ルナと静流は慣れたのか、特に表情も変えずにいる。
「情報は差し上げましょう」
思案した上で、漸くライアンが言った。
「しかし、出来るだけ夜の酒場に出掛けるのは避けて頂きたいです。姫様や公女様に何かが起こってからでは遅すぎます」
我が輩の心配はせぬのか? と言うバッコスは綺麗にスルーして、尚もライアンは言葉を続けた。
「特に、街の東部地区はお勧め出来ません。あそこは、只でさえ騒動が多い所です。お二人の様な、高貴のご身分の方が行かれる様な場所ではありませんので」
「そんな場所もあるんだ」
「はい。街の他の地区は、取り敢えずは大丈夫です。バッコスもご一緒させて頂いておりますし、滅多な事は起きないでしょう」
「わかったわ」
ルナは頷くと立ち上がった。静流も無言で後に続く。
「くれぐれも、無理をなさらない様に。バッコス! エリヤ姫様と静流公女様のお供をしっかり努めるんだぞ!」
「ふっ・・・隊長も心配性だな。この偉大なる戦士である我が輩に任せておけ!」
それが心配なのだ、と呟くライアンに、バッコスはニカリと笑ってサムズアップをしてみせた。
「逢魔」二十二話です。次回こそ冒険活劇か? いや、どうなのでしょう(笑)?