逢魔が娘-21◆「原点回帰が捜査の基本」
■ペーレンランド/都/大通り→酒場
都の大通りを横一列になって歩く一行は、ルナを真ん中に、その右にバッコス、その左に静流の順に並んでいる。
強面・ロン毛・巨漢と素敵な三拍子のバッコスに、秀麗・白皙・黒檀の静流と、華麗・溌剌・魅惑のルナの美少女二人が並んでいる構図は、甚だ人目を引いた。道行く殆どの男達から、不躾な視線がビシバシと娘と静流に突き刺さる。
『おぃ、見ろよ』
『おお~すげぇ』
『一緒に歩いているヤロウは何だ?』
『用心棒じゃないのか?』
いや――バッコスにも、別の意味で視線(死線?)が突き刺さっていた。だが、無遠慮な視線と物言いにバッコスが眼光鋭く(Death Beam)睨み付けると、そんな不協和音もぴたりと止んだ。
ふん、と鼻を鳴らすとバッコスがルナに聞いた。
「で? まずは何処に行くのだ?」
「まずは、酒場かな。」
「先の騒動が起きた場所だな?」
「えぇ。原点回帰が捜査の基本よ」
「成る程。我に異論はない」
「我が輩も了解だ」
ルナの言葉に、静流もバッコスも頷いた。別に決めた訳では無いのだが、全体の流れから、自然とルナがリーダーシップを取る形になっていた。
「あの酒場のマスターに、事情も聞きたいしね」
「あの者は、“怪異”にされてしまったのだったな」
「そう。“浸食度”軽かったから、“快癒”させることが出来たけどね」
「そう言えば、我が輩が部下と酒場に踏み込んだ時には、そやつは普通の状態だったな。我が輩達が来る前には、怪異になっていたというのか?」
「えぇ。突然、変身したわ。でも、“快癒”出来たってことは、“怪異”にされてから、余り時間が経ってないと思うの」
「論理的な帰結だな」
ルナの解説を静流が肯定する。
「そやつを“怪異”にした相手を記憶しているかも知れぬ、ということだな」
「その通り。頭良いね、バッコス」
「ふっ・・・我が輩の頭は、頭突きの為だけに有る訳ではないのだぞ」
褒められたにしては、些かずれた反応を返すバッコスに、娘二人はクスクス笑った。
☆ ☆ ☆
「頼もう!!」
威勢良く扉を開けて、バッコスは件の酒場に入った。ルナと静流が後に続く。既に酒場は再開されており、地元民や冒険者風体の者など十人位が屯って居た。
「おい親父。我が輩は警邏隊の副隊長、偉大でグレイトなバッコス・ドラケンスバーグ様だ。隠し立てすると為にならんぞ・・・って痛てぇ!!」
「バッコス・・・」
にこやかな笑顔で、しかし容赦なくルナがバッコスの後頭部を度突いた。
「ルナよ。そうぽんぽん我が輩の優秀な頭脳の詰まった頭を叩くでない」
「その“優秀な頭脳”に皆目学習機能が付いていないから困るの!」
「全くだ。権威権柄ずくの態度で、相手が話してくれると、よもや思っておるまいな?」
ルナと静流に駄目出しされたバッコスは肩を竦めた。
「よぅし、判った。おい親父、とっとと話すがよい。貴様をどうするかは、その話次第だ・・・をぉう!!」
今度は静流が宝錫で容赦ない一撃を見舞った。素敵な断末魔の呻き声を上げて、バッコスが轟沈する。それを事無げにスルーして、ルナが退き気味の酒場のマスターに話し掛けた。
「さて、と。気を取り直して。マスター、私の事を覚えている?」
「・・・いや――娘さんの様な美人なら、一度見たら忘れられないんだが・・・全く記憶にないな」
「自分が、自分じゃ無いモノになった記憶は?」
「警邏隊でそんな事も聞いたが、正直それも全く思い出せない」
「昨日までで、何か普段とは変わった事ってなかった?」
「・・・そう言えば・・・」
必死に思い出す様に、マスターは眉間に皺を寄せる。
「一昨日の晩、吟遊詩人が来て、酒場で歌ったんだが――これまで、ここでは見かけた事がない顔だった。もっとも歌は非常に上手かったので、気にはしなかったがね」
「歌が上手い吟遊詩人ね。それ以外に変わった事は?」
「いいや、それ以外は至って普通の通りだったな」
「そう。どうも有り難う」
丁寧に一礼すると、ルナは静流と(何時の間にか復活した)バッコスを伴って酒場を出た。
「逢魔」二十一話をお送りします。少しづつ、話が進展していますが、まだ冒険には程遠い状況です。暫く、街中での話が続く予定です。宜しくお願い申し上げます。