逢魔が娘-01◆「汝が求めるのは冒険か?」
■何処とも知れぬ山中/峠道
「ふぅ」
大きく息をつくと、その歳若い娘は立ち上がった。傍らに置いてあった荷物を取ると、再びその細い背に背負い直す。陽は既に大分傾いており、これから下る山の北斜面は既に闇の中に沈んでいた。
「距離があるって言っていたけど、本当ね」
そう零しながらも、まだ何処か幼さが残るその整った顔には、快活な笑みが浮かんでいた。
「さぁて。とっとと行かないと、日が暮れちゃうわ」
華奢な外見にしては意外にもしっかりした足取りで、娘は峠を下り始めた。
「それにしも、軽くて良い靴よね。ラ・カランのお爺さん、良い腕してるわ」
娘が履いているその靴は、如何にも軽やかで履き心地が良さそうだった。少なからぬ荷を背負って歩いている割には、足音一つしないのも、驚くべき事だった。
九十九折りの坂道を、娘は足早に下った。程なく森林限界を過ぎ、鬱蒼と茂った森に入った。針葉樹の森は、昼間でも薄暗い。ましてや、夕暮れの北斜面に至っては、既に周囲に光は無い。屈強な男でも、一人でこんな寂しい峠道を──それも薄暮の中──歩くのは遠慮したいに違いない。だが、年若いその娘は、軽やかな足取りで歩を進めている。
そんな娘を、じっと見つめる影があった。睨め付ける様なその視線は、それだけで娘を絡め取るかの様だった。
『グググ・・・』
喉を低く鳴らすと、その影は娘に気付かれる事なく、闇へと沈んでいった。
新連載です。他にも連載を抱えているにも係わらず――無謀にも始めてしまいました。牛歩更新ではありましょうが、宜しくお願い申し上げます。




