逢魔が娘-16◆「それでは、元を絶ちましょう」
■ペーレンランド/都/警邏隊本部
所変わって警邏隊長室。仏頂面をしたバッコスの頭を手で床にごりごり押しつけながら、ライアンは深く土下座をしていた。
「先程は、不肖の部下が大変失礼を致しました」
「・・・」
この期に及んでも、何も言わないバッコスの頭をライアンは一発怒突く。
「お前も、姫君と公主様に謝らんか!」
「・・・悪かったな。って、痛ってぇっ!!」
頭をさすりながらも、微塵も心が籠もらぬ謝罪をぬかすバッコスに、ライアンは容赦なく後頭部をもう一発怒突いた。腐っても警邏隊隊長――鍛え上げられた一撃に、バッコスは地面をのたうち回った。
「あ、あの。もういいから、ね?」
「そうだな。過度の謝罪は必要ない」
ちょっと退きながらも取りなす様に言う娘と、きっぱり返す静流に対して、ライアンは首を横に振った。
「いえ! お言葉を返すようですが、こ奴は普段から態度が粗暴です。このままでは我らが警邏隊の名折れになります。心の底から反省して貰わねばなりません!」
苦労性の隊長が涙ながらに訴えているのを、バッコスが何処吹く風かと聞き流している。そんな好対照の二人を代わる代わる見た娘は、思いついた! とでも言う様にポンと手を叩いた。
「ね、隊長さん。それなら、わたしに預けてくれないかな?」
「え?」
「警邏隊の人なら、この都や周辺の事もよく知っているでしょう?」
「それは、そうですが・・・」
しかし、預けてどうするのですか? と言う疑問を口にするライアンと、先程のダメージから漸く回復したバッコスが、二人して訳が判らん、と言う様に娘を見つめる。
「我も、何で貴公がこの者を預かりたいと言うのか、その訳が知りたいな」
その二人の疑問符の輪に静流も加わる。三人の顔を一巡して見ると、娘はそうね、と呟くと笑顔で言った。
「怪異の元を経つためよ」
既に娘から事情を聞いていた静流を除く二人は、事投げに言われた言葉に絶句した。
「怪異ですか? しかし姫様。それは、甚だに危険な行動ではないかと愚考しますが?」
女子供の出る幕じゃない、と言うバッコスを黙らせながら、ライアンが疑問を呈する。
「そうだね。そう思う。専門家に任せて、姉上は無茶な行動を止める様にって、弟にも散々止められたんだけど・・・」
「「けど?」」
思わずハモったライアンとバッコスは互いの顔を嫌そうに見合った。静流と見れば、何処か苦笑いを浮かべて聞いている。そんな三人に、にっこり笑って娘は言った。
「言っても聞かないから、黙って出てきちゃった♪」
てへ、と悪びれずに言う娘に、二人は盛大にずっこけた。
説明不足、描写不足の嫌いが有りましたので、「逢魔」十六話、多少加筆しました。