逢魔が娘-09◆「変身中は、待ちましょう」
■ペーレンランド/都/酒場
「ゲッ・・グッ・・・」
喉から奇妙な呻き声を発したマスターは、カウンターに手をつく。
「オッ・・・ギギャッ・・・」
既に人語ではない言葉を発しているマスターに、漸く他の客も気が付いた。
「お、おい、マスター! どうしたんだよ!」
「酔っぱらったのか?!」
「なんか変だぞ!」
そんな光景を、娘は黙って見ていた。いや、まだグラスに残っていた“峰の炎”をちびちび舐めている。だって、高いお酒だから勿体ないんだもん、と言ったとか言わないとか。まぁ、全く動じていない事だけは事実だった。
『グゥェェェェェェッ!!』
そして、それは唐突に起こった。バリバリ、とマスターの背が裂けると、見るも奇怪な怪異が姿を現した。
「「「うーわーーーーー」」」
その瞬間、酒場の中は大混乱となった。皆、我がちに逃げ場を求めて右往左往する。
おいおい、汝ら勇敢な冒険者なんだろう――怪異に対処しようとな思わないのか? 先程まで、そこここで己場武勇を誇っていた自称“宇宙一の勇者”とか“最強の大戦士”とかは、そんな突っ込みも無駄なほど、無様に逃げ惑っていた。
いや――二人程例外が居た。
一人は、言わずと知れた彼の娘。相変わらず、グラスのお酒を楽しんでいる。
そして驚いたことに、もう一人――ローブをすっぽり纏った人物がカウンター近くのテーブル席に座っている。そして、すっぽりと被ったフードの下から、眼光鋭く状況の進展を見守っていた。
『グギャァァァァ』
変形完了、とでも言う様に、完全な怪異と化したマスターが、殆ど無人となった酒場をそのは虫類の目で睨め回した。
拙作をお読みになって頂き、有り難うございます。空港でちょっと時間があったので、更新をば致しました。短いですが、お楽しみ頂ければ幸いです。




