守るべきモノ 2
彼?は夢の中にあった。
若い若い女神達が彼の周りをはしゃぐ。
若い男性「は!?」
深い椅子、白いカーテンが、夕焼けに染まり、はためいている。
若い男性「ここは・・ラクラン?」
国の王座に居た時代。
かつての仲間達と、創った国。
高い棟の部屋窓から望む美しい緑の峡谷の楽園の夕焼け。
滝から舞う水霧が反射して、キラキラしている。
絶景だった。
彼「これは夢か?」
天然峡谷を要塞化した都市を主軸として、世界1位の治安を誇る。
ラクランカル国。
バラバラの書類の山、食べたカップラーメンの容器が一つ、側には炭酸ジュース、ブラックコーヒーがいつでも飲めるように湯だつポット。
彼「汚い机だな」
秘書、ハイエルフの若い眼鏡男性「そう思うなら、少しは片付けてください、よっと!」
彼は彼を思いだそうとした、だが、思い出せずに。
彼「あ・・、ん」
言葉に困った。
??「ハビュン!まだ終わりじゃないわよ!これ持って!」
若い女性の声。
同時に思い出した。
そう、そうだ、彼の名前は、ハビュン・ルクウルフ。
そしてハビュンの名前を呼んだのは、ヨハン・リサータル」
彼「ヨハン?」
全てが懐かしい。
ヨハン「?なあにい?私の名前を呼ぶなんて珍しいじゃない?国王陛下あ?」
大きい開かれたドアの暗闇から、美人が、段ボール4箱の二段の塊を浮かせながら現れた。
赤と黒の和服、長い烏の黒髪。
紫の瞳。
彼「俺の、俺の名前って何だっけ?」
涙の温度を本当に久しぶりに感じた。
二人が泣く彼を支えた。
二人『何があったのか?何処か痛いのか?刺客が来たのか?』
ああ。
ああ。
最強とは孤独であり、空しいだけだと。
かつて裏切った仲間達。
飽きた。
それだけだった。
少し家出したい気分だったんだ。
5日離れる旅だったんだ。
まさか。
まさか。
たった5日離れるだけで、皆 壊 れ る なんて。
20年だぞ?信じられるかよ?磐石だった。頑丈だと思ってた。
なのにー。
《オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ》
青く燃える峡谷。
仲間達の死体。
笑う奴ら。
気付いたら。
他国において、自分に挑んだであろう魔法学園生徒らしき子供達の死体の山を築いていた。
復讐で全てを壊した自分が居たー。
髪飾りが派手で、綺麗な、白髪の少女だった。
その生首を震えながら落とした。
彼「ウ!?ふ、ふ、ふ、うううあァ!?あ!?、あ!?、あ!?、ああ!!?き、ぐしゅちば、てッき、き、き、う、ううギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
俺は。
あの時に、死んだのか?
真夜中。
彼「・・」
目蓋を開いた。
ヨハン「大丈夫?精神回復を常時かけてる、何があったの?こんな混乱した心は初めて、まるで数世紀分彷徨った心みたい」
彼「・・ヨハン」
ヨハン「ん?」
彼「・・俺は離れないからな?」
ヨハン「??う、うん」
彼「・・今度は離さない、絶対に」
ヨハン「な、何よいきなり?私達そんな関係じゃないし!からかってるの?」
彼「・・夢ではないらしいな、なあ、ヨハン、俺は・・俺の名前を言ってくれ」
ヨハン「本気?な、ようね、はあ、良い?あなたの名前は、リヨクよ、リヨク・ラクランカル、この国の王様でしょう?しっかりしてよね」
名前。
命を吹き込まれた気がした。
同時に。
使命が出来た気がした。
リヨク「リヨク・ラクランカル、か、ははは、変な名前」
ヨハン「ねえ、あなたおかしいわよ?何だか別人みたい」
リヨク「・・遥か遠い未来から来たのさ、過ちを正す為に」
ヨハン「はあ?タイム理論?あんた不可能って自分で言ったじゃん、しかも一昨日に」
リヨク「・・それはそうと、ヨハン」
ヨハン「?あによ?」
リヨク「お前美人だな」
ヨハン「はあああ?キッモ?」
リヨク「ハハハハ、本当に思うよ、美人だ」
ヨハン「・・げ、元気になったわね!失礼!」
慌て、出て行った。
リヨク「・・・・明日は二重満月の日か、魔力が馴染んで来たな、明日、明日だ、俺が国を捨てた日は」
回想。
青い炎 《オオオオオオオオオオオオオオオオオオ》
白衣の宗教魔法軍事国家、アストラ皇国。
ガス、オイルを使ったロケットモドキを峡谷に落とし
まくり、ガス一酸化炭素中毒が広がり、水の上に広がる炎。
リヨク「ク、クククあんな兵器レベルで、クククククク、クは!!アハハハハハハ!アハハハハハハ!」
暫く笑い、ベッドから立った。
リヨク「天文学という暗い航海の羅針盤を知らないお前達は、神の矢と呼ぶだろうな、行くぞ」
監視衛星ゴーレムを最初に飛ばし、次に大量の槍が空高く昇って行く。
リヨク「流星群とでも呼ぼう、成層圏待機」
夜明けの光る糸が目に告げる。
朝が来た。
今度こそ。
他人に任せない。
今度こそ。
自分が責任を取るのだ。
悪い連鎖が広がる前に。
病巣の芽を摘む。
病巣にも優しくすれば、廻り廻り、全て道連れにされてしまう。
愛は。
愛とは。
選ぶ事。
悪を、病巣を差別する事。
全てを平等に愛する努力はしなくてはならない。
無理なら、場合により、諦め、選ばなくてはならない。
残す方を。
女神達の悪戯だとしても、そうだとしても。
再び見捨てる等、有り得ない。
リヨク「人には限界がある、人は無敵にはなれない、大事な事を学んだんだ、だから俺は、全部は持てない、全てに優しくなれない、・・・・選ばなくちゃいけない」
アストラ皇国。
一番最初に同盟した国だった。
仲良しだって疑わなかった。
酒を飲み交わした。
一緒に笑い合った。
アストラ皇国を衛星、虫、調査した結果は、クロ。
ロケット焼夷弾が大量に発射準備を既に完了してしまっている。
照準は、ラクランカル国の聖なる山。
大量の燃える雪崩を発生させる気だ。
噴火してくれたら万歳だろう。
ラクランカル国には、今の時代に、あんなものを防御する力は無い。
本当に大量に並べてある。
〈ヒュオオオオオオオオオ・・〉
風が。
止んだ。
重たい。
重たい目蓋が開くと同時に大量の水が流れた。
リヨク「ごべ・・なざい」
成層圏から6本。
順次、降下。
ソニックウェーブ突破。
空気による摩擦により、赤いマグマの槍が、魔法を使わずに加速していく。
その為、魔法障壁が魔法感知せず、通過。
地面に当たり、光が包む。
順次、光が増えて行く。
巨大な爆風、キノコ雲が六ヶ所昇って行く。
この城からは何も見えないし、感じられない。
だが、リヨクには、見えている。
監視衛星ゴーレムにより、悲劇が見えている。
その悲劇の者達に向かって、話すように、呟き始めた。
リヨク「・・かつて、壮大な魔導師が居たんだ、広い視野を持っててさ、世界を良くしたいと思ってた、世界を見て、世界の何処かには、自分と同じように、広い視野を持ってる者達が、国が居てさ、一緒に新しい事をまたさ、楽しい事をまたさ、始めから、見つける所から、スタートしたいってさ、そう・・」
悲劇を見ている。
リヨク「・・・・そう、思ったんだ、あの絶景を見た時に、あの夕焼けの中で、思った・・・・ふふ、ふへへへ、思って・・うぐ、たんだよ・・何故選ばなくちゃいけないんだ、全て順調だった!ふ!ふ!ふざけんなあ!仲良しだったじゃないかああああああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
何故?
国の利益の為?
他国を豊かにしようという発想すら。
怖いというのか。
何もかも怖がれば満足か?
怖がれれば、満足か?
最強は、一人で、何処でも、一人で、一人で、一人だったのに。
国も同じじゃないか。
一つの国では、生きて行けない。
沢山の文化や知恵があり、交換する。
楽しいじゃないか。
ワクワクするじゃないか。
侵略ではなく、交換で解決すれば、良いじゃないか。
・・。
リヨク「・・選ばなくちゃいけないんだ、何を残すかを」
未来は変わる。
発射準備は完了していた。
相手の気まぐれ、未来の気まぐれに命運を任せる程、リヨクは馬鹿ではない。
アストラ皇国。
アルテリア歴808年、滅亡。
『END』