春よ
秋のほうが好きです。
咲いた花には 散りどきを見定め
先まわりして 別れの涙をぼろきれで拭うとは
賢いやつらが見せる 手慣れた作法を肴に
一献 飲りたいねと こぼれ咲く梅を仰ぐ
春はまだ 息つぎをしたところだぞ
急いて 駆け来る 夏のせっかちを諫めて
冬の抱擁から逃れたぼくたちに
のどかな季節は いましばらくの逗留の宿
春よ なぁ ここらで ひとやすみしたらどうだ
なんなら もう一献 飲ってもいいんだぜ
やがて散るなら とどめるを諦め
先おくりした 別れの言葉 高らかに唄うとは
賢しいやつらが見せる 小洒落た技法を尻目に
一句を寄せたいねと 七分の桜を詠もう
春はまだ 息ぎれもしていないぞと
焦れて 駆け寄る 夏のやっかみを鎮めて
冬の寵愛から解かれたぼくたちが
さかりの季節を むかえるための登龍の門
春よ まぁ そんなに いそぐことないじゃないか
返しに もう一句を 詠んではくれないか
夏が好きじゃないから、かなぁ?