表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねえ、ママ  作者: カワラヒワ
7/21

 雪がちらちらと降るお昼前、チエは部屋着のジャージから普段着に着替えて外へ出た。

 防風ズボンの下にタイツを履いて、膝までのハイソックスも履いた。

 ハイネックのインナーに長袖Tシャツ、セーターを着、ダウンジャケットを羽織って、防寒は十分だ。

 今日は今年一番の冷え込みになるだろうと、テレビで言っていた。

 どうしてこんな日に出かけようなんて、思いついたのだろう。

 チエは玄関から一歩出た所で思った。

 こんな寒い日に。今日じゃなくてもよかったのに。行くのをやめようかな。行かなくても誰かに迷惑がかかるわけでもない。寒さに震える私を心配してくれる人がいるわけでもないのだから。

 歩き出したチエは歩く速度ををゆるめた。

 でも、せっかく着替えたのだし、引き返してまた着替えるのももったいない。

 それに、行くのをやめてこたつに入ってしまったら、もう、この冬は出る気が起こらなくなるだろう。

 気分転換、運動、願い事、そのために頑張って、行こうって決めて出て来たのだから。

 チエはまた、力強く歩き出した。

 でも、しばらく歩くと、だけどこんなに寒いのに無理して行く必要がある?そんな考えがわいてくる。

 それで、チエの歩調は遅くなったり早くなったりした。

 それでも、チエは足をとめなかった。

 そのうち、引き返すより目的地に行く方が近くなって、行こうか、行くまいか考えてもしかたなくなった。


 藤森神社は閑散としていた。

 一月も末日、初詣で賑わった神社も、今は静けさを取り戻している。

 駐車場に止まっている車もほとんどなく、地面に落ちた落ち葉がカラカラと音を立てて転がっていく。

速足で歩いたおかげでチエの体はぽかぽかとしていた。

 低い階段を上って本殿の裏まで行くと、誰かが鳴らしている鈴の音が聞こえた。

 チエはゆっくりと歩いた。

 本殿の正面に着くのと同時に拝み終えたおばあさんが、踵を返して行くところだった。

 薄茶色のブラウスに毛糸のベストを羽織っただけの服装で、薄そうなぺらぺらしたズボンを履いている。

 近所の人かなあ。あんな薄着で、寒ないの? 大丈夫かな。チエは思った。

 認知症だった母を思い出す。お母さんも寒い日に薄着で外に出ていかはったなあ。何度言うてもあかんかったなあ。チエは苦笑いをする。

 お賽銭を入れて鈴を鳴らす。

 まずは「家内安全」「無病息災」を願う。それから、宝くじが当たりますように。勝運の神様どうかお願いします。後でお馬様にも手をあわせよう。

 それと、私の書いている小説が賞を取りますように。どうか、どうかお願いいたします。

 チエの祈りは長かった。

 冷たい風が何度もチエの体に吹き付ける。風の冷たさもチエにはあまり気にならなかった。

 しかし、チエははっとして後ろを振り返った。

 誰かに肩を叩かれたような気がしたのだ。いや、叩かれたというより優しく触れられたという感じだ。

 けれど、後ろに誰もいない。

「気のせいか」

 チエは時計を見た。

 十二時十五分。

 みんな、お昼ご飯を食べている時間だ。

 チエは向き直り、ぺこりとお辞儀をしてその場を離れた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ