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case.xxx

 花壇のある中庭で、あの子が優雅にユーフォニアムを吹いている。


 どんなに大きな楽器店を探しても見つからなかったそれは、ついに学院の備品室から発掘されたらしい。




 ふと気になって、ある日あの子に聞いてみた。




 どうしてこの世界では、こんなにもユーフォはマイナーな楽器なんだと思う?




 あの子の見解はこうだった。




 このゲームでは音楽が大きな力を持つだけあって、要所要所で楽器の書き込みが細かくなされている。学院や楽器屋といった様々な背景。キャラクターごとのスチル。モブキャラの立ち絵に至るまで。人が持っていたり、どこかに置かれていたり、とにかくいろんなところで楽器の絵が出てくる。それなのになぜか、どんな場面にもユーフォの絵だけは出てこない。


 チューバとの差別化が難しいからあえて描かなかったのか。それとも単純に、ゲームの制作陣の中でユーフォを描こうと思った人間が誰一人としていなかったのか。真相はわからないけれど、とにかくユーフォニアムが全くゲームに登場しないという事実は、動かしようのない現実であった。


 背景にも、立ち絵にも、スチルにも出てこない。それはつまり、この世界においてその楽器を演奏する人間は、少なくともヒロインの行動範囲の中では全然いないということ。もちろん、ゲーム上で見えているものが世界の全てというわけでもないので、描かれていないからといってユーフォニアムが存在しないということにはならない。しかし、貴族なら誰もが楽器を持っているはずなのに、貴族の子どもがたくさん通っているような学院でも全く登場しないということは……それはもう相当マイナーな楽器であるに違いない。


 つまりはそういうことなのだ。









 隠しルートでは学院まで魔物が押し寄せ、隠しキャラもまた学院に現れるので、主要キャラたちは学院で魔物に立ち向かうことになる。当然、6人でのアンサンブルによる"FAIRY NOTE"も、ヒロインの美しい歌声による"FAIRY NOTE"も、学院中のたくさんの人間が目撃する。だから大団円エンドを迎えるとそんな噂が広がって、"FAIRY NOTE"の新たな可能性に挑戦することがちょっとしたブームとなる。そして、主要キャラたちは魔物から国を救った英雄として、一躍有名になったりとかもする。


 でも実際にはゲームと違って、魔物が人里までやってくる前に事態を収拾することに成功した。結果的にではあるが、魔法省の思惑通り、事件が公になる前に全ての魔物が消滅した。つまり、魔法省の一部の人間しか事の全容は知らない。"FAIRY NOTE"の可能性について噂が広がることはなかったし、立役者として誰かが英雄視されることも特になかった。


 これまでと何も変わることはなく、ただただ平和に時間は流れていく。強いて思うところを挙げるとすれば、ゲームのシナリオはこれで全て終わったため、この先起こる出来事は完全に未知である、ということくらいか。


 まあ、普通はそれが当たり前なんだからそんなに心配する必要はないか。









 花壇のある中庭で、あの子が優雅にユーフォニアムを吹いている。

 その音は柔らかく広がり、聴く者の心にじんわりと染み込んでいく。



 花壇のある中庭で、あの子が優雅にユーフォニアムを吹いている。

 やがてその音色に呼応するように、周囲には光の粒が溢れ出す。




 それはなんの変哲もない、よく晴れた夏の日のことだった。

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