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case.1-3

 カトリーヌとの結婚は無理だと確信したものの、嫌だからと婚約破棄できるほど簡単な話でもなく。何もできないまま月日は流れて、とうとう魔法学院に入学してしまった。当然そこにはリリーがいるわけで、リリーの姿を見ているとやっぱりあの子にしか見えない。だからこちらとしては早急に仲良くなりたいのだが、それを見た倉田、もといカトリーヌがどう思うかと考えると下手に動くこともできない。あいつは相変わらずうまくやっているが、中身はあくまで倉田なのだ。俺がヒロインと仲良くなるならそれはゲーム通りだが、その親友にこちらから近づいていったらさすがに不審に思われるだろう。ああ、このままでは本当にカトリーヌと結婚する羽目になってしまう。


 答えの出ない問題に悶々としながら学院の廊下を歩いていると、ひらひらと何かが足下に落ちてきた。何も考えずに拾い上げると、それはどうやら演奏会の招待券のようだ。慌ててこちらへと向かってくるのがリリーだと気づいてドキッとしたが、そのときふと思い出す。これはもしや、アランとヒロインの出会いのシーンでは。




◇ ◇ ◇




『も、申し訳ありません、アラン様。躓いて、思わず手を放してしまい』

『あなたは確か、リリー嬢でしたね。お怪我はありませんか』

『は、はい』

『ああ、これはもしや、かの有名な演奏家の……』

『ええ。招待券が手に入ったので、彼女にプレゼントしようと思ったのですが……もしかして、ご興味が?』

『実は、少し』


 わずかに考えるそぶりを見せたアランは、そのままヒロインへと視線を向ける。


『もし、よろしければなのですが。俺にあなたをエスコートさせてはいただけないでしょうか』

『!』

『この招待券、どうやら2名まで有効な様子。あなたへのプレゼントとのことなので、演奏を聴きにいくにはあなたに選んでもらう必要がある。いかがでしょう』




◇ ◇ ◇




 その演奏家の奏でる音楽はまさに癒しの旋律だと評判で、カトリーヌに辟易としていたアランはぜひ一度聴いてみたいと思っていた。偶然チャンスが目の前にやってきたから迷わず掴んだわけだが、そこで出会ったヒロインこそがアランにとってはまさに癒しの存在となる。もちろん最初は優しくて素直なヒロインをいいなと思う程度で、いきなり深い関係になるわけではない。だが、友人として接し、やがて2年生になり、どんどんヒロインに本気になっていって……。


 と、ゲームではそうなるわけだが、ぶっちゃけ俺はリリーと演奏会に行きたい。癒しの音楽というのも気になるが、とにかくリリーとお近づきになりたい。あの子がゲーム通りに演じるつもりかはわからないけれど、どうにか会話の主導権を握ってあの子とのデートに持ち込めないだろうか。もうこの際カトリーヌのことは置いておこう。ここで繋がりを得ておかないと、もうこんなチャンスは訪れないかもしれない。よし。俺はやる。やってやるぞ。




 ついにリリーが目の前までやってきた。ああ、やっぱり可愛い。




「も、申し訳ありません、アラン様。躓いて、思わず手を放してしまい」

「あなたは確か、リリー嬢でしたね。お怪我はありませんか」

「は、はい」

「ああ、これはもしや、かの有名な演奏家の……」

「ええ。招待券が手に入ったので、」

「それはとても運がいいですね。噂では人気すぎてなかなかチケットが手に入らず、争奪戦になっているとか」

「え、ええ。そうなんです。それで彼女に」

「実はずっと気になっていたんです。もしよろしければ、俺も一緒に連れていってはいただけないでしょうか。ぜひあなたをエスコートさせてください」

「え、え、私、ですか」



 リリーの言葉を遮るように、若干強引に会話を誘導する。ああ、困っているな。すごく目が泳いでいる。可愛い。この反応はやっぱりあの子だ。ヒロインを誘うはずの俺がリリーを誘ったものだから、想定外の事態にどうすればいいかわからなくなってしまったのだろう。これはいける。押し通せそうだ。


 勝ったと確信したその瞬間、横から思わぬ伏兵が現れた。




「申し訳ございません、アラン様。実はそれ、リリーから私へのプレゼントなのです」

「え、っと。そう、なのですか」

「はい、それで……ねえ、リリー」

「え!? あ、な、なーに?」

「その招待券、2名まで有効なのよね。私、ぜひあなたと一緒に行きたいわ」

「え、え、私と? アラン様とじゃなくて?」

「ええ。ぜひ」

「まあ……あなたがそうしたいなら、もちろん……」




 なんということだ。ヒロインを誘うはずの俺がリリーを誘ったらヒロインにガードされ、なぜかそのヒロインがリリーと一緒に演奏会に行くことになってしまった。どうしてこうなった。俺のせいか。ゲームを無視して欲を出したから天罰でも下ったのか。やはりここでヒロインをないがしろにするのはよくなかったのか。


 まあそうだよな。だってヒロインだもんな。思わず下を向いて溜息をついてしまったが、内心がっかりしていることを悟られるわけにもいかないので、何食わぬ様子で顔を上げる。女の子同士の友情、いいじゃないか。微笑ましいよ。それにヒロインだって申し訳なさそうな顔で俺のことを見て……見て……。




「ふふっ」

「……」




 そこに俺の知っているヒロインはいなかった。なんだその勝ち誇った笑みは。立ち絵の差分にそんな表情なかったぞ。ヒロインがそんな他人を見下すような視線を向けていいのか。仮にも俺は王子だぞ。おいまさか。嘘だろ。こいつは。まさか。




 リリーの親友であるヒロインの姿がその瞬間、あの子の親友の姿と重なった。

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