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窓を開けると蒸し暑い空気が飛び込んでくる。

夜のうちに雨でも降ったかな。昨日はこんなに蒸し暑くはなかったと思うんだけど。

「まだぁ~~?」

もう待てないというように君の声が聞こえる。

はいはい。今行きますよ。

白いワンピースに麦わら帽子をかぶった君がくるくると回っている。

転ばないようにね。

わかってるから早くしてよ~~。

靴を履いて、扉を開ける。太陽がもうすぐ沈むというのに、なんで今日はこんなに暑いんだろう。

今日は一段と暑いねぇ。何もこんな日に散歩に行かなくたっていいじゃない。

いいじゃない。誘いでもしないと外に出ないでしょ?

それはそうだけどさ。

そろそろ陽も沈むし、すぐに涼しくなるって。

今日はどこに行くの?

決まってないよ?

そんな不思議そうに言われても。じゃあ、海にでも行こうか。

いいねぇ。海。水着持ってくればよかったか。

まぁ砂浜で遊んでればいいじゃない。泳ぐのなんて疲れるだけだよ。

そうはいっても泳ぎたいじゃない。もしかして泳げない?

そんなことはないけどね。あぁ、でも海にいくにはちょっと遅いか。

もう夕方だもんね。そういえば今日、近くの神社でお祭りがあるらしいよ。

そうなの?じゃあそっちに行ってみよう。

いいね。


いつもより少しだけ人の多い商店街を二人で歩く。

浴衣、着ればよかったね。

それさっきも言ってなかった?

そうだっけ?そうかもしれないね。

まぁでも、その気持ちはわかるけどね。そっちのほうが雰囲気でるし。

うむうむ。君にはよく似合うと思うよ?細いし。白いし。

うるへ。

浴衣姿も見たかったなぁ。水着もなぁ。なんて思いつつ鳥居をくぐる。

来年は浴衣で来ような。

そうだね。そうしよう。

んで、次の休みには海に行こう。

そうだね。それもいいね。

次はいつ外に出れるかな。

わからないね。次は...。

君が、小さな咳をする。

大丈夫?

ごめん、ちょっとはしゃぎすぎちゃったみたい。

今日はもう、帰ろうか。

うん。


三日後、お見舞いに来た僕を君は元気そうに迎え入れてくれた。

元気?

元気元気。大丈夫だって。こんぐらいのこと今までもあったでしょ。

そうだね。ならよかった。

立ち話もなんだし、座って話そうよ。

そうさせてもらうよ。あ、これ。あげるよ。

あ、ありがとう。いつも悪いね。

いいんだよ。こんぐらいのことはさせておくれ。何してたところ?

本読んでた。何もなくて、暇だからね。

すぐ読み終わっちゃうでしょ。今度何冊か持ってきてあげるよ。

ほんと?ありがとう。

ねぇ。

ん?

今度いつ外に出れそう?

わかんない。お医者さんがしばらくは無理だって。

そう。大丈夫なの?

今はちょっと。まぁすぐに回復するよ。

そうかい。またすぐに来るよ。明日にでも。

うん。ありがとう。

それじゃあ。寝てなね。

うん。そうするよ。

じゃあね。

うん。


その日の夜。彼女は死んだ。


ベットの下から手紙が見つかったらしい。


Dear my boyfriend.

今これを読んでるということは多分私はもう死んでいるんでしょう。

なんてね。

まぁ多分死んでるのは確かだろうね。

今これ書いてる時点では体調が絶不調だからね。

君もなんとなくわかってるんでしょう?

こないだのお出かけで無理しすぎちゃったみたいでさ。

楽しくてね。つい。

あぁでも、君が気に病むことはないさ。私が悪いんだ。体調管理ぐらい自分でしろよってね。

そうだね。

とりあえず感謝の言葉でも述べとこうか。一応は人生で最後の言葉になるからね。

いつもありがとうございました。

普段ならこんなこと恥ずかしくて言えやしないし、はぐらかしてたけど、今なら何となくいえるや。

というかここぐらいでしか言えないしね。

わがままを聞いてくれて、料理を作ってくれて、お見舞いに来てくれて、ありがとう。

こんな性格の私を好きになってくれるのは多分世界中を見ても君しかいないよ。きっとね。

あんまり長くなってもあれだし、ここらへんで終わっとくよ。恥ずかしいしね。

最後に一つだけお願いしてもいいかい?

手紙だから返事は聞かないよ。

最後のお願いだ。

私のことは忘れておくれ。

私のことで心に傷を負わないでおくれ。

私のことで泣かないでおくれ。

それだけだよ。簡単だね。

本当に終わるよ。じゃあね。

from your partner

ピリオドはつけないよ。

p.s.

あんまり早くこっちに来たら殺すからね。



夏は嫌いだ。最後のお願いを守れなくなるから。

それでも夏は来る。

君を殺した夏が。

だめだね。あんまり感慨にふけってはいけない。

寂しそうにしてると怒られてしまうや。

散歩に行こう。

かすかに、祭囃子が聞こえる。

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