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1・面倒な客はだいたい突然現れる

「ええと……つまり、その……」


 俺はもうなんだかわけがわからなくなって、今一度目の前に座る二人を交互に見つめた。


 一人は女、もう片方は男。全く見覚えのない赤の他人。突然我が家を尋ねてやって来た招かれざる客ども。

「あんた……もしかしてあれね? 興味のない話には適当に《うん》とか《ええ、そうですね》とか相槌を打つタイプの人間だわ。そういう奴って人の話なんか少しも聞いちゃいないのよ」

 女の方はまくし立てるような早口でそう言うと、しっかりと俺が出したコーラをずずいと吸い込んだ。足首が出た袴……のようなみょうちきりんな衣装はこの辺ではさっぱり見かけない。何かのイベントか!?

「こらこら、サンガツ。こちらの都合で突然家に押しかけといて、馬鹿呼ばわりすんな。失礼じゃねえか」

 それはあんたのことだろうよ、と俺も流石に心の中ではツッコミを入れる。俺だっていつまでもニコニコしたえびす顔で客人をもてなしていると思ったら大間違いなのだ。

「つまり、だ」

 そう話を続けるようにして男の方が喋りだした。

 こちらはよくいる柄の悪い営業マン風。高そうなスーツを来て、中にはおしゃれな柄シャツ。スーツにこういう派手なシャツを合わせる奴はおおよそ人間性がよろしくないことを俺はよーく知っている。

 まあ……これは単純に俺の勝手な社会人経験に基づいた予測だけれども。

「今日び神様って奴も人手が足りなくてねえ。そもそもは国家資格が必要な職業だもんで、そうそう数が増えねえのさ。そこで始終アシスタントを募集してる」

「アシスタント?」

「そうよ。神様のアシスタント」

 言うが早いか、彼女は脇に置いていたブランド物の紙袋から何やら大きなものを取り出して俺んちの大きな座卓の上に広げた。

「神様には二種類いるのね。自分の世界を持ってる神様と、そうでない神様と。あたしは後者の方の神様で、所謂派遣。公社に所属していて、神様がいない無神の異世界に派遣されて仕事をするわけ」

「はあ……神様ってつまり……日本でいうところの、天照大神とかそういうたぐいの? 日本はいろいろな神様がいるから無神ってわけでもないと思いますけど」

「そういうのはお前ら土民が勝手に拵えて勝手に信仰してる土着の宗教だろ。神様っつっても俺達はただの労働者だよ。世界がうまくいくように管理監視してるだけさ」

「ど、土民……」

 なんちゅう差別的な言葉だろう。ますます不安を隠せない。

「そういうことね。で、あんたが今住んでるここの世界はね、あたし達のカペー領の遥か外域の果てに位置する、第四十七ペトルシアンという領地なのよ」 

 彼女がざらりと広げた大きなそれーーつまり、古びた地図を指して言った。

「ここの世界って……つまり、日本が?」

「日本もアメリカも中国もみんな! 全部よ、全部! あんたがおよそ《世界》と呼んでいる場所の全てが《第四十七ペトルシアン領》よ。日本はもちろん、アジアはおろか地球のすべて、太陽系の全部、銀河の星々の遥かその先の果てまで全てよ」

 彼女は地図をドンと叩いて続けた。

「そうしてそこを管理しているのがこのあたし! あたしはあんたたち土民が暮らすこの《第四十七ペトルシアン領》を担当している執政官なのよ。いわゆる、派遣の神様!」

 そう叫ぶや、勢い良く立ち上がって胸を張る。見た目はいちおう女性のようだが、胸はあまり大きくない。

「そういうこった。で、俺達は早い話がお前さんをそうした執政官の補佐役にしたいのでスカウトしにやって来たというわけさ」

 

 俺はもう頭がこんがらがってきた。

 一度口の中を潤そう……楽しそうな目の前の二人にかなりの不安を感じつつ、俺はコーラを喉に流し込んだ。

 どうしてこんなことになったのか……その始まりのことを少しばかり思い出しながら。


 

 東京の不動産会社をたった一年ばかりで退職した俺は、北関東にあるど田舎の実家へ一時期帰郷していた。

 辞めた理由は上司とも会社とも反りが合わなかったという言葉に尽きるわけだが、そもそも不動産という業界自体が俺には向いていなかったのだと思われる。唐突に退職届を突きつけて辞めてやったもんだから、当然次の就職のアテなどあるわけもない。


 そんなわけでヒマが出来た無職のニートは実家でひとり、ぼんやりと今後のことなどをうだうだ考えていたわけだが……そんな所へやって来た来訪者が件の二人だった。


「こんにちわあ。こちらって、神様のお宅ですよねー?」

 東京に住んでいた頃の俺ならば玄関のチャイムなど完全無視を決め込んでいたが、ここではそういうわけにもいかない。

 何せ田舎というのはご近所との濃密なコミュニケーションこそが何よりの命綱である。おまけにうちは玄関に鍵は掛けないのがデフォルトだ。このあたりの家なんてどこもそうだろうけども。


「ええっと……うちは、じんですけど……どなたですか?」

 時折野菜を持ってくる近所のばばあのようなノリで玄関に入ってきたのが、件の妙ちきりんな衣装を着た女——サンガツ、だった。

「あら……じん? かみじゃなくて?」

 サンガツと名乗ったそいつは、下げていたブランド物の紙バッグ(買い物すると商品を入れてくれるアレのことだ)から書類のようなものを取り出すと、俺とそれとをしばらく見比べていた。

「……ええ、まあ。よくネタにはされますけど……何か御用ですか? 今家族が誰もいないので俺は何もわからないんですよね」

「あらそう。ほーんとニホンゴってむつかしいわね。まったくいやんなっちゃう。みんなで同じ言葉を使ってくれれば管理する側としたらこれほどやりやすいこともないのに……人外地ってほんと不便よ」

「仕方ねえだろ、サンガツ。土民ってのは元来神経質な連中なんだ。習慣や文化や信仰がちょっとでも違うと相容れない。全員で同じ言葉をしゃべったりなんかするもんか」

「だけど支社長? さも当然のように言ってるけど、うちの領内に一体いくつ言語があるか知ってるわけ? 管理する側としたら面倒くさくってたまらないわよ! そもそも国がいくつもいくつもばらばら存在してるだけでも面倒臭くて鬱陶しいのに」


「あのう……」


 玄関先で繰り広げられる不穏なやり取りに、俺はようやく水を差した。

「ああ、そうそう。俺達はお宅のひいじいさまのひいばあさんのお兄上さまがご所有の領地を管理している者だ。つきましてはそのことで、色々とご相談があるんだよ」


「はあ!?」


 素っ頓狂な声を上げた俺が目を丸くしないうちに、二人は「お邪魔します」とも言わずに玄関を上がり、すたすたと俺の両脇を歩いて行ってしまった。キョロキョロと周囲を見渡しながら、ひとつひとつ部屋を覗いてゆく。


「……おいおい、公爵家の屋敷にしちゃあずいぶんせせこましい住まいだな。外観もそうだが、中はいよいよ家畜小屋みてえじゃねえか」

「仕方ないじゃない。だって没落華族でしょ? おまけに税金まで滞納してるんだもの、中央政府からの取り立て屋に追われて……それできっとこんな辺鄙な場所へ隠れ住んでいるんだわきっと。あたしだってこんなところにいるなんてことは知らなかったし」


「ちょおおっと! 一体何なんですか。今家の者はみんな出払っていて誰もいない。何の用事か知りませんけど、俺は何もわからないですからお引き取り頂けませんか?」


 俺がありったけの声を出して言うと、二人が同時に俺の方を振り返った。

「はあ? 家の者がいないって……お前さんがいるじゃねえか」

「いや、自分はいつもは東京に住んでいるんですよ。確かにこの家の人間ではありますけれど、そういう話はよくわかりませんので……父か母が戻ってきてからにしていただきたいんですけど……」

「あらそう。でも大丈夫よ。この家の人間であるなら別にあんたでも誰でもいいわ。馬鹿でもわかるように話すから大丈夫よ!」


 そういう意味じゃねえんだけどーーとうなだれながら、俺は二人に引きずられるようにして廊下を歩き出した。


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