魔法の訓練
話の進行が遅くてすみません。
私は今、庭園にいる。
侯爵家の庭園は広く立派だが、今日は東屋から程近いこじんまりとした場所だ。
ランチの後、ナタリーと剣術の稽古が終わったエリックと一緒に魔法の訓練をするのだ。
エリックは、私を心配して付いてきてくれたらしいが、目がキラキラしてるのは、気のせいだろうか。
ナタリーがカモミールの蕾を指差した。
「では、この花を咲かせてみてください。」
「?どうやって?」
「想うのです。咲きなさい、と。」
そんなこと?それでいいの?
(キレイに咲いてね)
すると、私の髪がフワリと揺れ、カモミールがふわっと咲いた。
「すごいよ!サラ!やっぱりサラは特別なんだね!」
エリック!目のキラキラが半端ない!眩しい!眩しすぎるわ!
「お上手ですわ。では次はここの花を全部咲かせてみてください。」
急にレベル上がってない?
「はい。やってみます。」
(キレイに咲いてちょうだい!)
(、、、あれ?咲かない。もう一度!、、、あれ?やっぱり無理?)
「サラ様の魔力は、まだ微量なのかもしれませんね。練習すれば魔力も上がりますし、制御もできるようになりますよ。」
「そうでしょうか。」
「そうだよ!サラ!僕には魔法は使えないけど、サラの事応援するからね!」
「う、うん。じゃあ、頑張ってみる。」
「では、お時間がある時に、ここの花を全部咲かせてみてくださいね。」
ナタリーは笑顔で、カモミールが植えられている一帯を指差した。
(鬼や!鬼!鬼がいる!)
私はただ黙って頷くのだった。
2時間後。
ナタリーは、他の仕事もあるので、邸の中に入ってしまったが、天気が良かったので、私たちはそのままお茶をしている。
「ねぇ、エリック、私、本当に魔法が使えるようになるのかしら。」
「大丈夫だよ。さっき花を咲かせたじゃないか。」
エリックは微笑んでくれるけど、魔法って言えるような出来じゃないし。
(どっちかっていうと、手品みたいな感じなんだよな~。)
「何て言うか、魔法ってもっと分かりやすいのないのかな。例えば、髪や瞳の色を変えて別人みたいになるとかさー。」
(見た目別人になれたら、魔法っぽいよね~。)
「じゃあ、試しにやってみたらどうかな?花だって想うだけで、咲くんだから、こうなりたいって想うのが大事なのかも。」
(そっか、そうよね。)
「よし!じゃあ、やってみる!」
私は目を閉じて、なりたい自分を想像する。
ピンクシルバーの髪は艶々の黒髪に、ゴールドの瞳は薄い茶色に。
何かの絵本で見た、その姿を想像した。
「!!」
「どうかしら?やっぱり何も変わった感じはしないわね。」
??
「エリックどうしたの?」
「す、すごいよ!サラ!まるで別人だ!どこも痛くない?」
「うん。大丈夫。ってゆーか、私、今、どんな顔なの?」
「そうだよね!サラも見たいよね!鏡!鏡!こっちこっち!」
エリックは興奮したまま、私の手を引っ張って姿が映るガラス戸まで来ると、扉の前に私を立たせた。
「こ、これが私?」
そこには、普段の私とは全然違う、黒髪の凛とした侍女が映っていた。
「やった!やったわ!エリック!私が私じゃないみたい!」
「本当にすごいよ!まさか、本当に出来ちゃうなんて!」
私とエリックが大喜びではしゃいでいると、その声が聞こえたのか、お父様が様子を見に来た。
「エリック、誰と話しているんだい?」
後ろ姿で、私だと分からなかったのだろう。私は振り向いてニッコリ笑顔を作った。
「こんにちは。旦那様。」
「え?あ?こんにちは。うちに、こんな侍女いたかなぁ。」
クスクス(笑)
「父上、サラですよ。彼女の魔法でこの姿になったのです。」
エリックがことの成り行きを説明すると、
「いやぁ、びっくりしたな。サラは変身も出来ちゃうんだね!」
相変わらずノリの良いお父様は、面白がっている。
「折角だから、今日はそのままでいるといいよ。 魔力切れにならなければそのままいられるだろう。魔力量を計る良い機会かもしれないしね。」
「はーい!」
この時の私は、初めての変身が上手くいって調子にのっていた。