魔法発動?
次の日から、私の淑女教育が始まった。
アランお兄様とエリックは学校に行っている。
私は貴族としての立ち居振舞いがおぼつかないので、学校は長期連休明けからになった。
「学校が終わったら、エリックたちは剣術の稽古か。貴族も楽じゃないわね。」
と、独り言を呟くと、
「では、皆様がお帰りになるまで、侍女の仕事をお教えしますわ。」
と、ユリアが微笑んでくれた。
(ちょっと気を使わせてしまったかしら。でも、楽しそう♪)
「宜しくお願いします!」
「では、今日はお茶を入れてみましょうか。」
ユリアもノリノリで教えてくれた。
秘密の勉強会から数日後。
今日は学校が休みだ。
今日の私は侍女の日なのだ!
朝から張り切って、侍女の制服を着た。
「やぁ、おはよう。可愛い侍女さん。私にお茶を入れてくれるかな?」
お父様もノリノリだ。
「はい。すぐにお持ちします。」
私はテキパキとお茶を入れて、お父様の机に持って行った。
「上手にお茶が入れられるようになったね。偉い、偉い♪」
頭をポンポンされてしまった。
嬉しくて、にへらっと笑うと、お父様もニコニコしていた。
「空いている時間によく練習されていますもんね。」
ナタリーにばらされたけど、本当のことだから気にしない。
「そういえば、ジョーイが絵本を読んで欲しがっていたな。」
「では、私が読んで差し上げますわ。」
「宜しく頼むよ。」
「かしこまりました。」
私とナタリーは、ジョーイの部屋の前まで行くと、ドアをノックして中に入った。
ジョーイはリーズと一緒に部屋で絵を書いていた。
リーズはジョーイ付きの侍女さんね。
侍女の制服を着た私に気が付いて、ニコッと微笑んでくれる。
とっても可愛い弟なのだ。
私は、ジョーイに絵本を読んであげた。
数冊読んだところで、
「そろそろお茶にしましょう」
と言われ、4人分のお茶を入れた。
テーブルにお茶とお菓子を置く。
(うん、完璧♪)
すると、お菓子を取ろうと身を乗り出したジョーイの腕がティーカップに当たり、ティーカップは下に落ちた。
「危ない!」
私は目を閉じてティーカップが割れるのを覚悟したが、何の音もしなかった。
ゆっくり目を開けると、そこには目と口を大きく開けたまま固まる3人が、、、。
私が床を見ると、何と、ティーカップが浮いていた。
お茶も入ったままだ。
私も目と口を大きく開けて固まってしまった。
(なんじゃ、こりゃ~~~!!どーなってんの?)
一番最初に動き出したのは、ナタリーだった。ティーカップをテーブルに戻し、私の方に向き直ると、
「ご自分のお部屋でお待ち下さい。」
と言って、そのまま部屋を出ていった。
私は、訳がわからず呆然としていたが、ジョーイとリーズに
「お騒がせして、申し訳ございませんでした。」
と頭を下げると、ジョーイの部屋を後にした。
自室に戻ると混乱も少し治まってきたが、何だか悪いことをしたみたいで、気分はどんよりと薄暗いものになった。
どうして、なんで、ばかりが頭にいかんでは消えた。
しばらくすると、ナタリーとお父様が部屋に入ってきた。
私は今にも泣きそうだったが、ぐっと堪えて
「ごめんなさい。」
と言って、俯いた。
「ナタリーから聞いたよ。急だったからビックリしただろうね。でも、大丈夫。私はそんなことで怒りはしないし、君は今まで通りでいいんだ。ただ、これからは、君が魔法を制御できるように訓練しなくてはね。」
お父様は優しく微笑んで、背中を擦ってくれた。
ナタリーも微笑んでいる。
「私は奥様が魔法を使うところを見たことがあります。サラ様もきちんと訓練なされば、きっとご自分で制御できますよ。私も微力ながらお手伝いさせて頂きますので、一緒に頑張りましょうね。」
ナタリーの言葉に安心して、私はポロポロと涙を流した。
この日から私の魔法の訓練が始まったのだった。
エリック、登場しませんでしたね。次の話で出てくるといいな。