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私は侍女になりたいのです!3

あの事件以降、エリックは毎週ミサにやって来た。

彼は私と目が合うと、とても嬉しそうににっこり微笑んでくれる。

私もエリックに微笑み返すと彼は真っ赤になってしまうので、施設の男の子たちに冷やかされたり、女の子たちに囲まれて質問責めにされていた。

エリックの貴族らしくない気さくな態度に、初めは拒否反応を示していた子たちもみんな打ち解けていった。


私たちはチャリティーの後、色々な事を話した。

エリックは、三人兄弟の真ん中で、優しいお兄さんと、わがままでイタズラ好きな弟がいること。

父親と同じ騎士になりたいと思っていること。

平日は学校と剣術の稽古が中心で、週末は息抜きがてら王都にきていること。

私は、侍女に憧れていること。

学校に推薦してもらえるように、勉強や行儀作法を元貴族のシスターに教えて貰っていること。

それに、施設であった面白かったことなどだ。

エリックと話しているととても楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまう。

そしていつも、エリックの家の使用人が


「そろそろお時間です。」


と言うまで話し込んでいた。



そんな穏やかな日が続いていた矢先、施設の改修工事が行われる事になった。

この建物は、先々代の国王が戦争によって親を亡くした身寄りのない子どもたちの為に建てたもので、経年劣化で壁のあちこちが剥がれ落ち、豪雨の時には雨漏りするというおまけ付きだった。

それでも雨風が防げるし、食べる物もある。

部屋には質素なベッドと机、椅子、小さな棚があり、贅沢はできないが十分生活できた。

改修工事の間、子どもたちは田舎の施設に移動しなくてはならなくなった。

一つの施設では受け入れきれないらしく、みんなバラバラになるようで、不安で泣き出す子もいたが、反対に働き手の少ない田舎での養子縁組に期待する強者もいた。


私は、王都の東側にある山沿いの小さな田舎町の施設に行く事が決まったようだった。

シスターに、その町にも侍女の学校はあるのかと聞いたら、規模は小さいが一応あるらしいことが分かった。



引っ越しまで2週間となった週末、ミサとチャリティーが終わり、余ったマフィンとレモネードを二人分シスターがくれた。

私とエリックは近くの広場まで行くと並んでベンチに腰かけた。

私はまだエリックに引っ越す事を伝えられないでいた。

エリックも改修工事の事は知っていたが、私が話すまで何も言わなかった。話すなら今しかない。

グズグズしていたら、お別れの挨拶もできないかもしれない。


私は俯いて話始めた。


「エリック、施設の改修工事の事は知ってるよね?」


「うん。教会の壁に張り紙がしてあったからね。」


「、、、それでね、、、私、再来週引っ越すの。王都の東側にある田舎町に。」


「えっ!?」


エリックは、手にしたマフィンをポロっと落とした。


「シスターがそこにも侍女の学校はあるって言ってたから、私、もっともっと勉強頑張る。エリックとは会えなくなるけど、でも、私、立派な侍女になるから。だからエリックも、立派な騎士様になってね!」


私は一気に話すと、無理矢理笑顔を作った。

下を向いていると涙が溢れそうだったので、そのまま空を見ていた。


エリックは黙ったまま、ただ下に落ちたマフィンを見ていた。

いや、見ていた様に見えただけで、本当は何も瞳に写していなかったかもしれない。

暫く沈黙が続いた。

それを破ったのはオパール家の使用人だった。


「そろそろお時間です。」


いつもは淡々としたその声色も、今日は主を気遣っているような優しいものだった。

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