私は侍女になりたいのです!2
「あ、あの。もう大丈夫だから。手をはなしてくれる?」
私が声をかけると、
「ご、ごめん。」
男の子は真っ赤になって慌てて手をはなした。
「君、魔法が使えるの?」
その言葉に、私はキョトンとしてしまった。
(魔法?何言ってんの?そんなものが使えるなら、こんなに苦労して勉強してないわよ。)
「いいえ。私は魔女じゃないわ。どうして、そう思ったの?」
「君が舌打ちしたら、さっきの男が倒れたよね。足元には躓きそうなものなんて何も無かったのに。それに、君の髪が風も無いのにふわっと浮いたのを見たんだ。以前読んだ本に書いてあった。フェアリーには魔法が使えるんだって。君はフェアリーの血をひいているの?
(しまった!舌打ちしたの聞こえてたか、、、って、あれ?何?フェアリー?妖精のこと?)
「わからないわ。両親はいないもん。」
私は正直に答えた。
「君は施設の子なの?」
「そうよ。」
「じゃあ、この教会に来たらまた会える?」
「うん。」
男の子はパアァッと笑顔になると
「僕はエリック。七歳だよ。」
と簡単な紹介をして、また手を握ってきた。
「私はサラ。七歳。同い年ね。」
私たちが話していると、
「エリック、大丈夫だったかい?」
と後ろで声がした。
「父上、僕は大丈夫です。」
エリックは私の後ろにいる人に返事をして笑顔を向けた。
そして、
「彼女はサラ。友達になったんだ。」
そう言うと、彼は私の手を引いて自分の隣に立たせた。
父上と呼ばれた人は一瞬目を丸くしたが、私の視線まで腰を落とすと、
「こんにちは、サラ。私はジョン・オパール。エリックの父だよ。私とも友達になってくれるかい?」
と柔らかい笑顔を向けてくれたのだった。
私を施設まで送り届けると、二人は高級そうな馬車に乗って帰って行った。
シスターは施設の子どもたち全員の無事を確認して、街の警備をしている騎士と何やら話し込んでいた。
きっと、先程教会であった出来事を報告しているのだろう。
誰にもケガはなく、何も壊されていなかったので、すぐに終わったようだが。
突然の出来事にショックを受けていた子も、落ち着きを取り戻したようだ。
私たちは部屋に戻るように言い渡され、その日は外出禁止となった。
まぁ、特に行きたい場所もないんだけど。
いつもならミサの後でチャリティーの場を設けて、レモネードやクッキーを売り、売り上げを施設の運営資金にしているので、ちょっと残念だ。
仕方なく部屋に戻ると、相部屋のマリーが話かけてきた。
マリーは同い年で、同じ施設で育ち、両親がいないという共通点があり、とても仲が良い。
私たちはベッドに腰を下ろすと、さっきの事件の真相を推理したり、自分の周りにいた人の反応を話したりしていた。
私もエリックと友達になったことや、その父親とも仲良くなったことを話した。
マリーは目をキラキラさせて、その話を聞いていた。
どうやら、私が施設まで送ってもらったのを見ていたらしく、気になっていたようだ。
「ねぇ、サラ。エリックは貴族の子よね?」
「はっきりとは聞いていないけど、たぶんね。馬車は高級そうだったし、話し方も上品だったもん。」
「私、貴族ってみんなツンケンしてると思ってたわ。だってそうでしょう?私たちのチャリティーに来る貴族の子どもは、私たちをとても嫌な目で見るもの。まるで汚ないものでも見るみたいな。大人たちは、憐れみも含まれた目だけど。」
私たちのような施設の子どもは、人の目にとても敏感だ。
自分たちがどのように思われているか、よくわかっている。
親のいない子、親の暴力から逃げて来た子、親が事故で亡くなった後、親戚中をたらい回しにされて来た子もいた。
「そういえば、エリックやエリックのお父さんには、そんな感じはしなかったな。」
あの事件の中、そんなこと考える余裕もなかったからだろうか。
エリックの顔を思い浮かべてみる。
シルバーの艶の良い髪は、薄いブルーの瞳と相まって、とても綺麗だった。
話し方も声も、落ち着いていて上品で、同い年とは思えないほどだ。
エリックの父親も薄いブルーの瞳だったが、シルバーの髪は肩くらいまであり、後ろで一つに纏められていた。
二人とも上質な生地の服を着ており、一目で貴族だとわかる。
だが、今まで見てきた貴族とは、何かが違うようだ。何かは解らないけど。
その後、マリーは読書、私はいつも通り勉強をして過ごした。
侍女の学校に入る為に、まだまだ勉強が必要だからね。