私は侍女になりたいのです!
見切り発車です。すみません。
「今日からここが君の家だよ。」
薄いブルーの切れ長の目をこちらに向けて、にっこりと微笑む美中年。
肩まであるシルバーの髪を後ろで一つに結び、濃紺の騎士服を着ているその人は、先に馬車をおりると私に手を差し出した。
ここは王都の南部にあるオパール侯爵の領土だろうか。
本で読んだことがあるオパール特産のオレンジの木が街のあちこちに植えられている。
見上げた空の青とオレンジの木の緑、そして白を基調とした建物がとてもキレイだ。
「ありがとうございます。」
私は少し緊張しながらも、その大きな手に自分の手を重ねた。
(こんな大きなお邸がお・う・ち?図書館や役所じゃなくて?
あぁ、イヤだ、緊張しすぎてお腹痛い。
どうしてこんなことになったんだろう?)
私はサラ、八歳。ピンクシルバーの髪にゴールドの瞳、色白で痩せっぽっち。
王都にある教会の隣の施設で育った。両親はいない。
その代わり、親代わりの優しい神父さまとシスターに読み書きや簡単な計算、裁縫などを教わった。
私の育った施設は、国からの補助金や教会の寄付で運営されていた。
裕福ではないけど、最低限の生活はできたし、不満はなかった。
七歳になって、初めて市場に買い物に連れて行ってもらった。
もちろん荷物持ちとしてだったが、初めて見る建物やお店にウキウキしていた。
そして、ある建物の前で私は立ち止まった。
教会より大きくて立派な建物。その中に若い(と言っても10代半ばくらいの) 男女が次々と入って行く。
みんな同じ格好をしており、それが制服だとわかる。
背筋をピンと伸ばし、髪もきれいに纏められており、歩く姿も美しい。
一緒にいた若いシスターに尋ねると、執事や侍女の学校だと教えてくれた。
(あのかわいい制服が着たい!)
その日から、私の目標が決まった。
私は頑張った。今までよりさらにたくさん勉強もしたし、姿勢を良くしたり、歩き方にも気を付けた。
ミサにも行って、苦手だったコーラスにも参加した。
それも全て侍女の学校に通うためだ。
この国では、侍女の学校は家柄もほどほどに良くなければ入れない。
だが、3割程は庶民枠があり、施設からも試験が受けられる。
もちろん成績優秀で、教会から推薦が無ければ無理だ。
そのために私は、兎に角良い子でいるように心がけていた。
ある日曜日、ミサの途中で小さな子どもがぐずりだした。
その泣き声は大きく、神父さまの説教が聞こえないほどだった。私はイライラして、小さく舌打ちをしてしまった。
すると、子どもはすぐになきやんだ。
(良かった~、もうすぐコーラス隊の出番だもんね!)
しかし、災難はまだ続いた。
コーラス隊の出番になったとき、刃物を持った全身黒ずくめの男が、教会に入って来たのだ。
男は教会の扉に鍵をかけると、全員を扉とは逆の壁際に移動させた。
私は小さく震えていたと思う。
隣にいた同い年くらいの男の子に手を握られて
「大丈夫だから。」
と言われたが、
(何が大丈夫なのだ!怖いに決まってる!)
と睨み付けた。
そして、
(こんなお坊ちゃんに心配されるなんて!)と
、小さな舌打ちをした。
するとその直後、男は何も無い所で転び、持っていた刃物を落とした。
そこをすかさずミサに来ていた男性が何人か飛びかかり、男を捕まえて教会から出ていった。
きっと見回りの騎士にでも引き渡しに行ったのだろう。
さっきまでの緊張がとけて、ほっと一安心…あれ?まだ手を繋いでたわ。
そっと隣の男の子を見ると、男の子は私を見つめていた。
目を見開いて、口をポカンとあけて。
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