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その先、異世界への扉が御座いますのでご注意下さい!  作者: チーム柑橘
第1章 深く眠り時を待つ、蒼き果実と共に
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第7話 月極スパイラル

血だらけの猿の着ぐるみを着た人物はモニターで月極 兎貸子を監視していた。


何故かエレベーターから降り残りをわざわざ階段で昇り始めた時も驚いたものだが、まさかその後何を思ったのか逆に降り始めるとは考えもしなかった。


何故?


一体どういう理由で?


考えれば考える程訳が分からなくなる。


そして考えている間に月極 兎貸子は旧電波塔を出て行ってしまった。


どこへ向かうというのだろうか?


思考を止め画面に釘付けになる。


しばらくすると月極 兎貸子は赤と金を基調として彩られた一軒の小さなお店へと入っていった。


「……弐本箸?」


頭の上に疑問符が出過ぎてつい呟いてしまう。


そこは日本橋にある"弐本箸"という箸専門店だった。


(……箸を買うのか?)


全く意味が分からない。


音声も拾ってみる。


ちょうど着物を着た女性店員に話し掛けているところだ。


『すいませーん!』


『はいお客様、どうなさいましたか?』


『方角が知りたくてー』


『? 左様で御座いますか、ではあちらが……』


『じゃなくてほらー、高いところに行くと方角ってー下界にいる時より分かりにくいじゃないですかー?』


『はぁ……まぁそう……で御座いますねぇ』


『だからー、お箸買いに来たんですー』


『???』


『でねーお勧めのお箸をー……』


『お客様少々お待ち頂いても? ちょっと私の理解が追い付いてなくて……』


『はぁー……』


『お客様は……方角が知りたいんですよね?』


『そうなんですー』


『で、お箸が欲しいと?』


『お姉さんの言う通りですー』


『……ますます分からなくなりましたねぇ……ですが』


『?』


『お箸を望んでいるお客様に、お箸を売らない理由はありません。さぁ弐本箸の名に賭けてお客様の満足するお箸を探してご覧にいれましょう!』


『わぁー、店員さんの鑑ですぅー』


『さぁこちらへ。まずはこれ……』


『へぇーすごーい、最近のお箸はこうなってるん……』


_


__


___


そんなこんなで3日が経った。


気に入った箸を手に入れたその後も三ツ星の高級フランス料理屋でコース料理のテイクアウトを頼んでみたりタクシーで秋田県の実家に帰ったりと好き放題している。


お金に糸目は付けないタイプの様で事あるごとに、


『大丈夫ですー! 経費最高ですー』


と叫んでいた。


自分達で縛ったあの上役も普段大変なんだろうなと心配になるほどである。


それはさておき。


(……俺は何を見せられてるんだ?)


簡単な仕事のはずだった。


対象の上役を縛り付け脅す。


その後対象の死を確認すれば大金が貰える。


ただそれだけだったはずなのに。


(もしこの任務が失敗したら……俺の家族が……)


思い出す。


人質に取られている家族を。


(だめだ……それは……こうなったら俺が直接殺しに行くしか……)


___


__


_


「はぁーやっと東京に戻って来れましたねー」


往復のタクシー代だけで50万円位かかっっている。


「ま、大丈夫でしょ。経費で落ちなくてもこのタピオカを異世界で売れば億万長者も夢じゃないですしねー」


そんなしょうもないことを呟いていると、


ズブリッ


と身体の内から異世界では聴きなれた音が鳴り響いた。


(さ、刺されたっ!? 誰に……)


振り返るとそこには見たこともない男が1人立っていた。


手には血みどろのアーミーナイフを持っている。


(……誰?)


「恨みはないが……俺の家族の為に死んでくれ」


薄れゆく意識の中、月極 兎貸子が思ったのは、


(これで……タピオカ億万長者計画は諦めるしかなさそうですね……)


とこれまたしょうもないことだった。


そして月極 兎貸子は旧電波塔の麓にて死亡が確認された。











そこへ


「ちょっとぉ、困るじゃんこんなとこで殺しちゃ」


小学生位の女の子が現れた。


急にだ。


「なっ!?」


男が持っていた筈の血みどろのアーミーナイフを何故かその手に持って。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()がここだけだったから頼んだのにー! なんでこんな簡単な依頼もこなせないのよー! 私が怒られちゃうじゃん! もぉーーーーー!」


と手に持ったナイフを振るう。


訳の分からない状況に一瞬驚いたが、この距離で当たる訳がないと男は安堵した。


子供が訳の分からないことを喚き散らしただおもちゃのナイフを振り回しているだけ、第三者が目撃すれば実に微笑ましい親子の一幕に見えるのだが、


「……かはっ!?」


男の首から下が一瞬で細切れになった。


首だけになったそれをナイフを持ってない方の左手で髪の毛を掴み持ち上げ優しく語り掛ける。


「……あースッキリした。あぁ安心してね。あんたの家族は解放するわ、興味ないし……あっ、相棒の方は殺すけどね」


返事はない。


当然だ。


「それにしても……あの天然転生体質娘を転生させずに確殺するならここしかなかったのに……逃がしちゃったかー……はぁ」


女の子は溜息を吐き空を見上げる。


その空は今にも雨が降りそうなほど曇っていた。











~グリゴレウス~


「やって参りましたグリゴレウスッ!」


と元気に大声で叫んでいるのは先程死んだ筈の月極 兎貸子である。


「でもおかしいですねー」


"希望の異世界"とも呼ばれているグリゴレウス。


しかし今月極 兎貸子が目にしている光景はどう見ても希望なんてちっとも感じられない荒廃した世界だった。


「なんか北〇の拳みたいですねー。20XX年ってやつですか?」


色々紆余曲折あったがかの英雄がなんとか辿り着いたその世界は滅び間近だった。


「タピオカドリンクを持ち込めなかったのだけがイタいですねー……まぁ、いつも通りちゃっちゃと救っちゃいますかっ!」


月極 兎貸子の意思を反映するかの様にグリゴレウスの空は快晴であった。

やっとグリゴレウス入りできた……。。

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