第3話 BOY meets BOY
ていうか、なんだこれ……あたり一面、雪景色じゃないか。
北海道旅行でもしているなら、これほどテンションが上がる光景はないだろうが、こと異世界において、この状況は絶望的だ。
見渡す限りの雪原に、一人佇む。
水平線を見ると、寝ているとき急にワープして、あそこに落とされたらどうなるのだろう、と意味のない妄想に恐怖するようなこともあったが、まさにこの状況はそれじゃないか?
「あああああああああああああああっっっっっ!!!!!」
叫んでみた。
虚しく響くだけ。
耳を澄ませてみた。
虫の鳴き声すら聞こえない
……いや、ダメだろこれ。
無理だ、やばい、寒いし腹も減ってきた。
どうする、どうするよ。
あてもなく彷徨う?
目印一つないこの場所で、方角もわからぬまま歩き出した先に何かあるのか?
体力を消耗するだけだろう。
空を飛ぶ?
もちろん羽は生えてないし、舞空術も使えない。
このままじっとしておく?
誰か助けてくれるのだろうか、一体どのくらいの時を待てばいいのだろうか……
気付くと、僕は雪を掘っていた。
横はダメ、上もダメなら、もう下しかない。
雪の中なら、かまくら的なノリで寒さも凌げるかもしれない。
もしかしたら町が埋まってしまっているのかもしれない。
既に正気ではないのだろう。
あるはずのない可能性に賭けている。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ
もうどれくらい掘り進んだだろうか。
確かに、寒さは凌ぐことができた。
ただ、やはりなにが見つかるわけでもない。
もうこのまま死を迎えるのかなぁ、春になったら、草木が芽吹くように僕の亡骸が発見されるのかなぁなんて思いながら、掘りすすめる。
すると、何かが顔にぶつかった。
いてっ、なんだ?
……それはよく見ると、“骨”のようなものだった。
なんだ、動物?の骨かな?
でもなんでこんな雪の中に……
それからも、次々と“骨”が見つかった。
なんだか人骨のようにも思え気味が悪いものまであった。
どういうことだ?
大雪に閉じ込められた動物の大群が全滅…?
いやいや、そんなことあるわけ…
まてよ……
よく考えたら、僕の体、濡れてなくない?
ここについて、寒かったし、真っ白だったから、雪だと思ってたけど……
これ、遺灰なんじゃないか……?
改めてその“白いもの”を触ってみると、さらさらとしている。溶ける様子もない。
遺灰……?
こんな規模で?
なんの骨だ?
一体何が起きているんだ?!
異世界グリゴレウスって、勇者と魔王が同盟を結び、人族と魔族が手を取り合い、争いがほとんどないんだよな……?
報告も捏造されていたということか?
やばいぞこのままじゃ……
全く理解できない状況に困惑しながら、掘り進めていると、ぽっかりと空いた穴に気付いた。
一縷の希望を胸にその穴に飛び込んだ。
なんだここ……?
異常な広さの空間がひろがっている。
暗くてよく見えないが、核シェルターかなにかだろうか……
あたりを少し歩いてみると、小さな看板があることに気がついた。
目を凝らして看板の文字をよく見てみる。
『神器 プロペラカウボーイ 搭乗口』
じ、神器……?
次の瞬間、一斉にライトがあたりを照らす。
そして目の前には、スカイツリーを遥かに越える大きさをもち、背中からプロペラを生やすカウボーイの像があった。
……え?なにこれ?
異世界でカウボーイ……?
全く意味がわからなかったが、どうやら馬の前足に入り口があるみたいだ。
いきなり動き出して踏み潰されたりしないよな……
正直、そのサイズ、威圧感から、近づくのをためらったが、ほかの選択肢もないので、前足へむかう。
中にはいると、コックピットへの直通エレベーターがあった。
どうやらカウボーイの頭まで行けるようだ。
もうどうにでもなれ、そんな投げやりな気持ちでボタンを押す。
体感したことのない速度で上昇し始めたエレベーターは、わずか10秒で到着した。
そこには、モニターが一つと、どこかで見たことのあるコントローラー、それと、取り扱い説明書がおいてあった。
『○ボタン:上昇
×ボタン:下降
左スティック上:前進
左スティック左右:方向転換
左スティック下:後退
R1ボタン:ロープ発射
L2ボタン:破壊光線
※プロペラカウボーイは、オリハルコンに特殊な加工を施しつくられていますので、外部による攻撃で損傷することはありません。どのような高度から落下しても、傷一つつきません。
※エンジンは大気中の成分を取り込み、特殊な方法にて変換し利用しています。
よって、エンジンの補給もいらず、間違っても爆発することはありません。水中では水を使用し、マグマ内では熱を利用し、宇宙空間では宇宙エネルギーをエンジンとすることが可能です。
※ロープはボタンの溜め方により、好きな距離へなげることができます。着地点にある物体を検出し、全て引っ捕らえます。
※破壊光線は、特殊な光線により、半径3kmにある物体を、内部から破壊することが可能です。なお、プロペラカウボーイ本体には一切無害です。
それでは、良き空の旅をお楽しみください。』
しゅ、しゅしゅしゅごい……!
しゅごしゅぎるうううううぅぅぅ!
僕はそう叫ぶと、大空へと羽ばたいていった。
ヒヒヒヒヒヒ、ヒ、ヒ、ヒ、ヒゥゥヒゥ!ヒィヒィーーーーーーーン!!
(離陸音うるせー!)