エピローグ 戦い終わって日が暮れて
戦いは終わった。だが、いくつも疑問が残っている。
「聞きたい事が山程ありすぎる」
戦いが終わり、誘導のママに金閣寺を元の場所へ収納し、車に乗せられて連れて行かれたのがなにやら秘密基地らしきところ。その一角の会議室で、俺は博士と玖美に対峙するように立っていた。
「ば、晩ご飯のメニューの事かなぁ?」
ギロリと玖美を睨みつける。玖美は黙る。
「あまり玖美君をいじめるな。代わりに私が何でも答えてあげよう」
博士が玖美の前にすっと庇うように立つ。玖美は博士の背に縋るように掴まる。
「じゃあまずは。あんたは誰だ?」
「自己紹介が遅れたな。私は西園寺公子。金閣寺ロボのメンテを担っている博士だ」
「金閣寺ロボ?」
「先ほど君が乗っていたそれだ。まあ、私も動くところは初めて見たがね」
淡々と答える西園寺博士。内容はともかく、嘘を吐いている様子はとりあえずない。吐くメリットも特にないだろう。
ムソウは質問を続ける。
「あのロボは何なんだ?」
「それを言えば長くなるが……まず、君は歴史は得意かね?」
思わぬ逆質問に、答えを窮する。
「……人並み程度だ」
「嘘つきー。ドベの癖にー」
玖美のチャチャを一睨みで黙らせる。玖美は「キャッ」と小さく悲鳴を上げて博士の背に隠れる。大体こういう時は懲りていない。
ムソウ達のやり取りを見て、溜息を吐きながら西園寺博士は話し始めた。
「分かった。歴史の勉強がドベの君にも分かるように話そう。
この金閣寺を作ったのは室町幕府三代将軍・足利義満様。この方は当時政争のただ中でね。いわゆる南北朝時代と言って、天皇が北の京都と南の吉野で擁立しあって、分裂していた時代があったの。これくらいは知ってるわね。……知ってるわよね?
その分裂を作った天皇は、吉野の地で京都奪還を夢見ながら死んでしまったの。その後義満様の政治力で南北朝は統一される訳なんだけど……」
「待て待て、本当にただの教科書の内容なら止めてくれ。さっぱり頭に入らない」
正直ムソウの歴史の点数は壊滅的である。何故高校に入れたかも不明である。そのムソウに、この急な情報量は酷というものであった。
しかし博士は大まじめな顔で言葉を続ける。
「大事な事よ。
南北朝を統一した義満様は考えたわ。あれだけ恨みの強い天皇だ、もしかしたら化けて出る事もあるかも知れない、と。
祀ったり、和解の証を立ててみたりしたけども、それでも尚不安だったの。万が一。万々が一、彼が祟りでもしたら……
その万が一に備えて建造されたのがこの金閣寺ロボなの」
……
さも当然のように言っているが、何もかもが一気にうさんくさくなった。
「ロボ……?」
「ロボ」
「現代技術でも作れないんじゃ?」
「バカね、ただのロストテクノロジーよ。幾つかは私の家系に口伝で残されているから、こうして整備を担当している訳」
「で、でも……」
「大事な事はそこじゃない、でしょ? あまり質問が多い男の子は嫌われちゃうわよ?
……本当に知りたい事は?」
そうだ。金閣寺ロボは既にそこにあるし、これ以上の回答は恐らくないだろう。そんな事よりも知りたい事は……
「じゃ、じゃあ、あの敵は何なんだ!? 黒いモヤのような……幽霊なのか!?」
そうだ。あのどうにもならなかった敵。あれは一体何だったのか、倒した今になってもさっぱり分からない。
博士は待ってましたとばかりににやりと笑い、答えた。
「そうね、幽霊の類と思っても間違いではないわ。600余年の時空を越えて現れた過去の亡霊とでも言おうかしら」
「……随分非科学的な話だな」
「あら、観測された客観的事実は十分科学的よ? 実際、あれを他にどう説明出来るかしら?」
言い返せない。というか、何と言い返した所で、簡単に言いくるめられそうだ。
「今回は無事撃退出来たわ。でも、これからもまだまだ彼らはやってくる。それに対抗出来るのは、金閣寺ロボと君だけなの」
「俺が?」
「そう! ムソウは選ばれたパイロットなの! そして町を救った! う~ん、素敵な事じゃない!」
ピョンと博士の背中から飛び出ながら、玖美が言う。
町を救った?そんな自覚は全くなかったが、冷静になって考えれば、確かにそうかもしれない。
何か。何か熱いものが、体の中に沸き上がる。その事に戸惑いながら、しかしムソウはそれを受け入れつつあった。
「……結局敵は誰なんだ? そして、何なんだ?」
ムソウは心の内をおくびにも出さず、質問を続けた。その問いに、西園寺博士は少し顔を強ばらせながら、答えた。
「敵は……南朝を作った天皇。鎌倉幕府を滅ぼした張本人。そして室町幕府を最も憎んだ存在。
後醍醐天皇よ」
ムソウは世の中がひっくり返りそうなとんでもない事態にすっかり巻き込まれてしまっていたが、その心の内には密かな喜びがあったのだった。
――俺は、満たされるかも知れない。
これからムソウ達の生活はどうなっていくのか…!?