窮地
ムソウ達は裏路地を抜けたが…?
のそり、と起きあがった黒い影の赤い目玉は、狂気に満ちていた。
「くはは……逃がすものか……あの方の為に……逃がすものかよっ!!」
叫びを上げた途端、黒い霧は爆発的に広がり始めた!
「俺の体に取り込まれてしまえぇぇっ!!」
みるみる上空まで拡大を続ける。20mほどまで到達し、そして再び人型に落ち着いた。赤い目玉が一つ、ギョロンと動く。胸の赤い玉は、ドクンドクンと激しく脈を打つ。
まるで一つの巨大な生命体がそこに現れたようであった。
何とかその霧から逃れたムソウ達だったが、見つかればどうなるものか。
今のところ追ってきている様子はない。
「男の人が路地から出てきて、『化け物!』って叫んでたからもしかしてと思ったけど、間に合って良かったよ!」
あの飛び蹴りはそう言う事だったのか。心の中で合点行きながら、しかし分からない事もある。
「あれは一体何だったんだ!? 玖美、お前何か事情を知っているんじゃないか?」
「……」
走りながらのムソウの問いかけに、玖美は沈黙でもって答える。少しだけ、動揺する。お互いに何でも話し、何も知らない事のない存在だと思っていただけに、自分の知らない事を知っている玖美に戸惑っているのだ。
「……今はボクを信じて」
玖美の絞り出すような声。それ以上ムソウは何も言えなかった。
と、後ろから黒い影が伸びる。
振り返ると、高さ20mほどの巨大なモヤ。いや、あれは……!
「さっきの奴か!」
あれだけ巨大なのに、風に流される様子は全くない。それに赤い目玉と心臓がはっきりと見えた。間違えようがない。
「どこだぁぁぁぁ!?」
手当たり次第に建物を壊し、俺たちを探している様子だ。あの野郎!と怒りを覚えつつも、あんなのと戦えるとも思えない。
歯がみする。もっと力があれば……あんな奴の好きにはさせないのに!
と、車が一台、エンジン音を唸らせながら乱暴な運転でムソウ達の所へ真っ直ぐ突っ込んでくる!
「うぉっ!?」
あまりの事に小さく悲鳴を上げると、その車はキィィィッとフルブレーキでムソウ達のギリギリ手前で止まった。
ムソウが不審そうに車を眺めていると、窓が開く。
「乗って! 早く!」
中から妙齢の女性の声がする。聞いた事のない声だ。
「博士! 良かった、助かります! ムソウ、乗って!」
玖美はその声の持ち主を知っているようだった。ならば、きっと信じるに足る人物だ。玖美が乗るのに合わせて、ムソウは車に乗り込んだ。
運転席にいたのは、声の通り妙齢の女性であった。特徴的なのが、白衣を着ている事。眼鏡を掛けている事も相まって、如何にも研究者といった風情である。
「飛ばすわよ! 舌噛まないでねぇぇ!!」
ギュン!と急加速して、車は走り出す!あまりの荒々しい運転に、ムソウの顔は引きつり、玖美は後部座席で悲鳴を上げ続けていた。
どこへ連れて行かれるというのか?!