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金閣寺  作者: 黒井羊太
5/9

打開

ムソウが取った打開策とは!?

 打開策を必死で考える。

 ……逃げるか?しかし最初に吹っ飛ばされた方向が不味かった。後ろは袋小路のどん詰まり。逃げ道はモヤの背後。完全に塞がれてしまっている。

 闘うか?触れもしない相手とどうやって?

 話を聞くか?どう考えても言葉が通じる風ではないだろう。

 助けを呼ぶか?冗談じゃない!誰がそんな格好悪い真似をするか!

 詰まるところ、状況は詰んでいた。

 そんな状況の中、ムソウの心は……むしろ昂っていた。

『勝てそうもない、珍妙な相手とどう戦うのか?』

 この事に、病的なまでに集中していた。

――人体を模している以上、モーションは同じ筈だ。こちらからの攻撃は当たらない。あちらの攻撃は当たる。……当たったあの瞬間のは、確かな感触だった。と言う事は、インパクトの瞬間は掴めるのか?

 にやりと笑い、モヤの動きを注意深く観察する。

 間合いを詰め、大きく振り上げた腕を、鞭のようにしならせて殴りつけてくる。

 ぶおん。

 確かに早い。が、モーションが大きいから簡単に躱せる!

 二撃目、三撃目とモヤは攻撃を繰り出してくるが、ムソウは体を反らし、潜り、その全てを躱す。

「アーー……?」

 急に当たらなくなった攻撃に、疑問の声を上げるモヤ。一応攻撃の意志はあるらしい。

 ムソウは攻撃を躱せるようになってから、冷静さを取り戻しつつあった。

――さて、攻撃は当たらなくなった。だが、こちらからの攻撃はどうだろうか。先程弾いて攻撃を躱そうともしたが、触れる感触は無かったが。

 これまで出会った事のない手合いだったので、最初こそ楽しんでいたムソウだが、攻撃出来ないのでは勝負にならない。

「アーー」

 考え事をしていると、黒いモヤが先に動きを見せた。

 右腕が、ずるりと伸びる。伸びて伸びて、止まった。1m弱の、何か意味のある形のようである。

 ムソウはそれを見て、全身の毛が逆立つのを感じた。

――あの野郎! もし想像通りなら……!

「アーー……」

 モヤの伸びた右腕が大きく振り上げられる。

 ピッ!

 これまでの音とは違い、空気を切り裂く鋭い音!ムソウはこれを転がりながら辛うじて躱す!

「くっ!?」

 起きあがりながら構える。モヤは空を切った空間を見つめている。

――っ躱しそびれた……!

 ムソウの右手には一筋の傷。そこから僅かに血が滲んでいた。

 この傷口。信じられない事だが、あれは想像通りモヤで出来た『刀』だ!そんな事も出来るなんて!

 焦る。これまでケンカは散々してきたが、こんなに明確に殺しに来ている相手と戦う事はなかった。ナイフをおもちゃ代わりに持っている不良とは訳が違う。明らかに刀を振る訓練を受けている。その鋭さはこれまでの経験にはなかった。

 しかも悪い事に、相手には一切の攻撃が通じない。逃げようにも、倒れたままの男性を置いて逃げる訳にもいかない。

――こりゃあ、さすがにやばいかな。

 冷や汗がダラダラと流れ続ける。

「ひ、ヒィィィィ!?」

 唐突に叫び声が響く。その声の主を探すと、倒れていたはずの男性だった。ようやく目を覚まし、ムソウが正体不明の化け物に襲われているこの状況を見て、悲鳴を上げたらしい。

「ば、化け物~~!」

 叫びながら、路地から抜け出していく。ムソウは唖然としていたが、同時にホッとしていた。これで自分に万一の事があっても、彼は助かるだろう。

 そんな思考が頭を支配していると、黒いモヤが動く!一瞬にして五歩分の間合いは詰められ、ムソウは右腕を掴まれる!ムソウは対応が遅れ、なされるがままとなる。

「しまった! こいつ、掴む事も出来るのか!?」

 必死に振り払おうとするが、モヤは絡み付いて取れそうもない。

「アー……?」

 ふいに、モヤの声に疑問が混じる。掴みが緩んだ瞬間に、ムソウは腕を引き抜き、間合いを取る。

「?」

 抜け出せたまではいいが、何故そうなったのかが分からない。対処もいまだ分かっていない。

――敵をよく観察するんだ。

 それが格闘の基本だと師匠が何度も言っていた。敵は何が出来るのか、得意なのか。それを少しでも情報を拾って、この状況を脱しなければ……!

 モヤはじっと右腕を見ている。そして、歪に笑った。

「ハハハハ……ミツケタ……ミツケタミツけた見つけたァァアァ!!」

 初めて明確な意志のある言葉を聞いた。その声はおぞましい物であった。

「ハハハ! これは僥倖! 俺は貴様を探していたのだ! あの方もお喜びになるぞ!」

 頭部の赤い玉がぎょろりとムソウを睨みつける!あれは、目玉なのか!?

 あの方?こいつは一体何を言っているんだ!?突然知性が戻ったようにも見える。

「貴様を殺せば、この都は終わりだ! ハハハ! このソンラ、長らく彷徨った甲斐がありましたぞ!」

 笑い声を上げるモヤ。その様子は、まさに驚喜であり、狂気であった。

 しかしムソウはそれどころではなかった。どうやったらこいつから、この状況から抜け出せるのか!

 必死で考える。打開策が思い浮かぶ前に、それは現れた。

「こぉぉぉのぉぉぉぉ!!」

 突如、少女の叫び声が響き渡る!この声は……玖美!?

 走り込んできた勢いそのままに、黒い影に跳び蹴りを放つ!しかしそれでは効果は……!?

 現実の結果は異なった。

 玖美の蹴りは見事に命中し、黒い影はうめき声と共に吹っ飛んでいった!

 ムソウが目を丸くしていると、慌てた様子で玖美はムソウの手を引きながら叫ぶ。

「ここにいた! 今の内に逃げるよ、ムソウ!」

「な、何がどうなってるんだ? このままお前が倒せるんじゃないのか?」

 事情がさっぱり分からない。しかし玖美の攻撃は確かにあのモヤに通じた。ならば、このまま倒せるんじゃないか?

 ムソウが疑問をぶつけると、玖美はもどかしそうにしながら、足をばたつかせながら答える。

「ん~~無理なの! ボクに出来るのは足止めくらい! 良いから、来て!」

 玖美の真剣な瞳。これは嘘や冗談なんかじゃない。

 状況は相変わらず分からない事だらけだ。だが、今は玖美を信じよう。

「分かった。どこへ向かえばいい?」

 ムソウの言葉に、玖美は一瞬ホッとした表情を浮かべ、すぐにまた真剣な表情で走り出す!

「こっちよ!」

 ムソウはそれに従い、走り出す。ようやく、暗い路地を抜けられる。


とりあえず危機を脱したムソウ達。だが…

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