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惑星調査隊 プラネット・ダイバー  作者: 〇たいちょー
第1章 ユニット結成編
7/8

爽やかな朝

翌朝、いつも通りの時間に目が覚める。

体内時計は調査員(ダイバー)の大事な指針だ。

惑星によって朝と夜がない惑星もあれば朝と夜の周期が違う。

開拓宇宙船団(ヴァリアント)では疑似惑星宇宙船(ステーションシップ)であるノアをはじめ、すべての宇宙船は大昔、初めて惑星から飛び出す前に住んでいた人の惑星、地球の周期を元に光度を設定している。

普段の時間がどれくらいの長さが分かっていないと、他惑星での任務のペース配分や、体調管理などに支障が出る。

自分の体の感覚が周りの環境によって変化しないように整えておくことが調査員ダイバーの基礎だ。

ベッドから体を起こす。

頭元の時計はアラーム付きだが、アラーム掛けていても鳴る一分前に起きるように体が覚えてしまっているので、アラームは一度も使っていない。

昨夜は結局しのぶをそのまま起動せずにシノブのバッテリーチェアベッドに運んだ。

一般人の腕力では到底持ち上げることはできないが、キュリフトによる強化を使えば、お姫様だっこで運ぶことができる。

いつも急速充電ばかりで済ましているので、たまにはゆっくり充電させてあげようと考えた次第だ。

パジャマから普段着兼仕事着のダイバースーツに着替え、シノブを起こしに向かう。

シノブは昨日と変わらずお手製チェアベットで眠っている。

チェアベットの素体は流線形の青い無地の物だが、シノブはかわいくないと言って、自分でその素体の上に布や飾りを縫い合わせて、私にはいつの時代に流行ったのか分からない白と紅と茶色ベースの派手で可愛らしい外装に仕上げた。

普段のシノブを見ているとこのベッドで寝ているシノブはとてもアンバランスだ。

自分は地味な恰好なのに周りの物はすごく派手。

それでも個人の趣味趣向には私は口出ししないことにしている。

なぜならそういうものがあるだけ幸せだからだ。

シノブの頭にそっと手を置きキュリフトを少し流す。

しばらくするとシノブの体の中で起動音が流れた。

個人が蓄積して使うキュリフトには他人と差異があり、波長や色、形が異なる。

このキュリフト認証は精度が極めて高いため、様々なところに使用されている。

レリクスも同様にこれによりマスターの登録を行なわれ、同時にキュリフトによりマスターの識別も行える。

仮に映像認識が出来なくてもマスターとそれ以外を識別し、命令の変更などが勝手にできないようになっている。

これはレリクスが普及し始めた時に、無理やり改造コードを流し、レリクスのマスター情報を上書きして盗む事件があったからだ。

その事件を担当した頃はまだシノブが私の所に来ていない。

今こうして自分がレリクスを持っていることが不思議でならない。

あの頃の自分が今の自分を見るときっと驚くに違いない。

シノブの寝顔を見ながら昔の事を思い出し感慨に浸る。

シノブのさらさらの黒髪を撫でながらこのゆっくりとした時間を過ごす。

優しい時間というのはこういう事をいうのだろうか。

シノブが立ち上がるまで少し時間が掛かる。

起きるまで傍にいようと思ったが、絶対に目を覚ましたら恥ずかしがって怒るのが目に見えている。

まだもう少し寝顔を見ていたい気持ちを抑え、朝食の飲み物でも作ろうとシノブの部屋から出てキッチンに向かう。

朝食はパンのときもあればご飯のときもある。

私は特に好みがないため、いつもシノブに任せている。

しかし、昨日の夕飯の残りがあるので、それを食べることにした。

そうすると飲み物はわかめスープが合いそうだ。

ケトルに水を入れて沸かし始める。

キッチンの道具は大体把握しているが、さすがに調味料などの場所は分からない。

自分のコップを用意するも肝心のスープの素が見当たらない。

第一このキッチンにスープの素があるのかさえも私は確信が持てていないことに気づいた。


「シノブに任せっきりなのが身に染みるわね。」


自分のだらしなさに思わず言葉がこぼれる。

シノブが来る前は買い物すら面倒で任務用の高栄養圧縮ブロックを調査班用に発注する際、別名義で自分の食事用にも発注することで一本あたりのコスト削減と買い物の手間を抑えていた。

毎日の3食の食事は高栄養圧縮ブロックとパックの牛乳で済ます。

食事に掛ける時間など1分にも満たないものだった。

しのぶが来てから、家に残っていた高栄養圧縮ブロックは全て調査班のストック行きとなり、彩のある食事に変化した。

今ではお昼に手作りのお弁当を持たせてくれる。

ゴソゴソと色々な棚や引き出しを開けては閉める。

どの引き出しを開けても調理道具や食器は綺麗に整頓されていた。


「マスター。そんな所を開けて何をしているのですか?」


シノブがキッチンの扉から姿を現わす。


「朝食の用意をしていたのよ。今はスープの素を探しているわ。」


「それでしたら、反対側の戸棚の右から2番目置いてあります。後は私がご用意しますのでマスターは座っていてください。」


シノブは怒るわけでもなく、呆れたようすでもなく、普段通りのおっとりした様子だ。


「いいのよ。家主がキッチンの食材の場所を知らなくて、お客様にお茶が出せないなんて恥さらしもいいところだわ。この際、基本的なものの配置を覚えておくわ。」


「そうですか。お茶やコーヒーなどの飲み物類は先ほどの戸棚に、乾物や粉ものは下段の引き出しに入っております。塩や砂糖などの粉末調味料は調理台の上の棚を開けるとあります。今開いていました引き出しは一番上が輪ゴムや真空パックの容器に調理鋏。2段目がしゃもじやお玉。3段目の大きい引き出しにはボウルや鍋が閉まってあります。包丁もこの扉の内側のホルダーに入っています」


シノブは一つ一つ場所を開けながら道具の場所を丁寧に私に教える。

キッチン側に備えられた棚に関して説明が終わったところでケトルの水が沸いたことを知らせる音が流れる。


「マスター。向かいの食器棚の左の引き出しにスプーン類が入っていますのでお好きなものを取り出していただけますか?」


そう言いながら、シノブは乾燥わかめと中華スープの素を私が用意していたコップに手際よく入れていた。


「ええ。分かったわ。」


さり気なくキッチンの道具の場所を教えるために頼み事をする辺りが実にシノブらしい。

何となくその横の引き出しを開けると、そこにはお弁当用のアルミカップやシリコンカップが色とりどりしまってあった。

私はその引き出しを閉め、スプーンが入った引き出しを開ける。

そこにはいつも使っているスプーンとフォークが並べられていた。

端の一本を取り出してシノブの元へ行くとシノブは私にお湯を入れたカップを渡した。


「温め直しは私がしておきますので、スープを飲んでお待ちしていてください。」


笑顔でシノブはそう言うと、冷蔵庫を開け、昨晩の料理を取り出す。私はこれ以上の自己満足はシノブの手間を増やすと判断し、リビングへ戻った。


リビングの椅子に腰かけ、携帯端末を開くとメッセージが来ていた。

件名はない。

本文は滅茶苦茶な0と1文字列。

恐らくバットマンの送ったものだ。

内容はやつの仲間の住所だろう。

あの晩口頭で教えずに後で送るといったのはこういう事だった。

やつのことだ、絶対に遊びでやっているに違いない。

とはいえ、この暗号を解けば、あのポンコツ翻訳機を使わなくて済む可能性があることを考えると無視するわけにもいかない。

最悪私の調査用補助装置ダイバーデバイスに何らかの不具合を生じているのであれば、検査しなくてはならない。

バットマンが言うには何も問題ないらしいが不安要素は排除することが望ましい。

仕方がないので料理が来るまでの暇つぶしに解読を試みる。

一般的に暗号というのは、伝えたい情報を特定の人だけが分かるように変換したものだ。

バットマンはある規則性に則って情報を暗号化した。

それを変換器というならば、私は暗号を作る際に使った変換器の逆を行う解読器を作る必要がある。

こういったときは先にも後にも情報をやり取りする同士で共通の暗号器と解読器を用意するのだが、私とバットマンの間にはそんなものはない。

よってこの携帯端末でできる何らかの方法で比較的簡単な変換をしたと考えるのが妥当だろう。

このメッセージから読み取れることを抜き出して見ることにした。

受信日時はやつがこの部屋を出て、2、3分といったところ。ここから考えるにしても

それほど複雑なものではないことが推測できる。

本文には0と1が無数に並んでいる。

しかしよく見ると一定間隔で空白が入っているのが分かる。

これを一塊として何か表わしていると考えられる。

これを一塊にしたところでいくつの塊になるかも想像できない。

丁度携帯端末の表示域と拡大率を変更するときれいに一塊ずつ、一行に表示させられることができたが、その量は莫大だ。

少なくともこれは文字の変換ではないと確信できる。

遠目に見てみると何か文字が見えるかと思い、さらに縮小して見てみる。

しかし、それでも何も見えてこない。

私はバットマンが昨日話していたことを思い出す。

そこに何か解読のヒントがあるのかもしれない。

彼があの時に言ったのは大まかに分けると贔屓に使っている開発部の人間を紹介してやる。

そいつなら原因解明できるかもしれない。場

所は後で送る。の3つのことだ。


「場所を送る。」


私はこの一言をつぶやいた瞬間、この暗号の解読方法が見えた。

私は無意識に住所が暗号に書いてあると思い込んでいた。

しかしバットマンが私に言った言葉はなんだ。

住所を送るではなく『場所を送る』だった。

私は送られてきたメッセージ全てに置換をかける。

0を白い四角の記号に、1を黒く塗りつぶされた四角の記号に。

そうして先ほどの要領で綺麗に一塊が映る大きさに縮小、拡大をかける。

正解だった。

そこには見たことがある建物のモノクロ画像が描かれていた。

ご丁寧に部屋の位置には明らかに不自然な丸の模様が付けられている。

私はその場所を見て愕然とする。

そう、私は昨日、名前も分からない彼に重要なことを話し損ねていたことを思い出したのだ。


「シノブ昨日作ったアップルパイってまだ残っているかしら?」


昨晩の料理を食べながら、隣に座るシノブに尋ねる。


「はい。まだ残っていますよ。お食べになりますか?」


「いいえ、残っているなら少しラッピングしておいてくれないかしら。」


「あら、誰かにプレゼントするのですか?」


シノブのテンションが目に見えて上がったのが分かる。


「ちょっと、謝りにいかないといけない所があるの。シノブの料理は周りの料理店よりおいしいから、お詫びの品に持っていくことにするわ。」


「褒めてもおかわりしか出しませんよ。」


「おかわりは要らないから、ラッピングをお願いね。私そういう事は不器用でできないからシノブが頼りよ」


「かしこまりました。マスター。私気合を入れて飾り付けますね」


そういってシノブは何やらウキウキでキッチンへと戻っていく。

昨晩起こさすに寝かせたままにしたことを怒っているかと思っていたのだが、どうやら取り越し苦労だったようだ。

食事を済ませ、朝支度を全てすませる。

いつも通りの時間だ。

出発の時間まではまだ余裕がある。

今日の予定を確認するため携帯端末を起動する。

まず情報部に顔を出して何か新たな問題が出たかどうか確認を済ませ、午前中にバットマンの仲間に調査用補助装置のチェックをしてもらう。

午後にエイドゥス語の彼と彼をスカウトしたオルニスと共に訓練施設で落ち合い、話を聞く。

できれば今日中に彼をユニットに引き入れるかどうかを総代に報告したいところだ。

やる事はそれ程多くはないが、一つの事がどれだけ時間が掛かるのかが全く読めないところが悩ましい。

情報部は基本、既定の勤務時間というのは存在しない。

ルール上はあるのだが、個人間で独立して動くことが多いため、出勤時間などは決められていない。

すべての評価は任せられた任務をいかに早く、完璧にこなすかだけ。

完全な実力主義だ。

仕事の割り振りは多少解析班で吟味はされているようだが、その解析班も同じ土俵に立っているのでその吟味は吟味とは言えないものかもしれない。


「シノブ。そろそろ家を出たいわ。ラッピングは出来ているの?」


洗い物や食器の片づけでキッチンへ向かったきり出てこないシノブに向かってリビングから問いかける。


「はい。仕上がっております。これでいかがでしょうか。」


シノブは何故か勿体ぶるように後ろ手にラッピングされたものを隠しながら私に近づいてサッと私の目の前に見せる。

赤とピンクの柄に、ハートマークが描かれたポップなイラストの包み紙。

さらにはその上から飾られた大きなリボン。

これを見て私は言葉が出なかった。


「これで、マスターの女子力の高さをアピール出来ると思います。これなら貰った相手もイチコロです。どうぞお受け取り下さい。あっ、くれぐれも私がやったって事は秘密にしてくださいよ」


どうしてこうなった。

私はシノブに何か誤った情報を伝えてしまったのだろうか。

いや、もしかしたら、実は昨晩の事を根に持っていて、怒っていないように油断させたところでこの仕返しをするという作戦だったのかもしれない。

悔しいがその作戦は大成功だ。

予想外の事に色々と思考が追いつかない。

ただ、結論として出たことはこれをはい、ありがとうと受け取れるわけがないことだ。


「シノブ。私、謝りに行く際の手土産にあなたのアップルパイを持って行くと言ったはずよね。なんでこんなにファンシーで可愛らしいラッピングなの?」


「マスターはエイドゥス語のお仲間さんと仲直りをするためにこれを渡すのではないのでしょうか?」


話が盛大にこじれていた。

いや、あのことを知らないシノブにはそう映るのは仕方のないような気がした。

彼のことを話した瞬間は食いつきが凄かった。

私が恋愛関係などではないということは、恐らく照れ隠しで言っていると解釈しているのかもしれない。


「マスターがメッセージを見て何やら失敗したことに気が付かれた様子でした。完璧主義のマスターがそのようなミスを起こすとなれば、昨日お話してくださったエイドゥス語のお仲間さんの関係だという可能性が極めて高いと推察致しました。コミュニケーション中に誤翻訳によって相手を知らず傷付けてしまった。そのことが分かるメッセージが送られてきたのではありませんか?」


さすが開発部の最先端を集結させた特級品。

一体どれだけ私の事を分析しているのか、どこまで私を見ているのか怖くなるほどのものだ。

シノブの性能でレリクスが量産された暁には解析班は全員レリクスに置き換わってしまいそうだ。

とにかくシノブは私に嫌がらせをするためにわざとしたわけではないこと安堵した。


「いいえ、違うわ。来ていたメッセージはバットマンのものよ。私は部下の不始末を謝らなくてはいけないの。謝りにいく相手にこんなラッピングのものは渡せないわ。まだいつもの出発の時間には時間があるからもっと落ち着いたシックなものにして頂戴」


「申し訳ありませんでした。マスター。すぐに作り変えてきますので、少しお待ちください。」


初めにラッピングを頼んだ時とは対照的にどんよりとした表情で足早に駆けていく。

どうやらキッチンにあるものはダメだと判断したらしく、シノブは自身の部屋に向かったようだ。


「少し強く言い過ぎたかしら。」


シノブは私の為を思ってラッピングしていることは痛いほど分かる。

しかも自分が出来ないことを頼んでいる身でもある。

もう少し労いの言葉を掛けながらやんわりと作り直しを命じるべきだったかもしれない。

言ってしまった後に毎回反省するのに、何故か実践では上手くいかない。

そんな自分が嫌になる。

しばらくするとドタドタとシノブが走る音が近づいてきた。


「すみません。マスター。これでいかがでしょうか。」


シノブは矢継ぎ早に両手に持った箱を私に差し出した。

包み紙は灰色がベースで、銀色の文字のような形の模様が描かれている。

色が似ている為それ程目立たない。

かけられているリボンは紺と赤の黄色のストライプで十字の形に掛けられている。

淡い包み紙と対照的に深く濃い色のリボンはワンポイントしてとても綺麗に映えている。


「さすがだわ。あなたの料理に見合うほどの高級感ね。これなら私も自信を持って渡せるわ。それでは留守をお願いね。お昼は外で食べてくるから夕飯だけ用意をお願いできるかしら」


「はい。承りました。お気を付けて行ってらっしゃいませ。」


シノブに見送られながら私は情報部本部へと歩みを進める。

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