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惑星調査隊 プラネット・ダイバー  作者: 〇たいちょー
第1章 ユニット結成編
5/8

邂逅

惑星調査用環境訓練施設。

ここは仮想映像と現実空間を組み合わせ、様々な環境を再現することが可能な施設だ。

温度差の激しい砂漠や湿度が高い沼地など、様々な惑星の気象データから再現する。

さすがに地面の砂や地形などはその星のものではないが、色々な星の環境に適応することにはさほど影響はない。

もっと大掛かりで大きい施設はノアにあるがここにあるのはノアにデータを送る前にここで一度再現して間違えがないかの確認や、過去の気象データから似た惑星があったときなどに調査前の体慣らしとして使用するくらいだ。

私はそれを目的とする棟にしか入ったことはないが、別棟にはキュリフトによる身体強化に耐えられる道具や機械でトレーニングもできる場所や、アントを想定した仮想防衛訓練施設もある。

そういえばエイジスの仮想訓練の設定レベルは同施設の中でも桁違いに高いとのことで、仮想防衛訓練通の間では噂になっているらしい。


 仮想防衛訓練では被ダメージや撃破スピード、撃破時の攻撃位置などを分析して戦闘スコアが出るそうで、それを張り合うスコアラーという人達がいるそうだ。

何やらゲームのようだが攻撃を受けるとそれに応じた痛覚の処理、施設内のキュリフト濃度の調整によって現実と差し変わりはないものになっており、遊びで行うものはいない。

もっとも死ぬ前には訓練終了にはなる作りになっているのだが、訓練での痛みや恐怖によって戦えなくなった人は何人もいるらしい。


「少し訪ねたいことがあるのだけど」


私は入場受付のレキウスに声をかける。


「惑星調査用仮想訓練施設プラネットレコードにようこそ。ヒビキさま。ご用件はなんでしょうか」



 ここのレキウスは入場者の顔を記録し、データベースから名前も取り出して対応する。

公的機関の建物ではこれが一般的だ。

訪れていれば必ず彼のデータがあるはずだ。


「ここにこの画像の男性が来ていると思うのだけど、どこにいるか分かるかしら。」


携帯端末に情報部のプロフィールから抜き出した彼の画像データを表示して受付に見せる。


「少しお待ちください。検索の間こちらに記入をお願いします。記入後お問い合わせいただいた事について回答させていただきます。」


受付から携帯端末に文書データが送られる。

情報取り扱いについてという見出しだ。

内容としては情報の悪用を防ぐための合意と情報を得たい側の自分の情報の開示。

残りは彼の情報を得たい理由などを記入するようだ。

人とは違いこういう事をしっかりするところはレキウスだ。

この記入内容によっては教えてもらえない可能性があるが、今どこにいる程度であれば上司と部下と関係だけで大丈夫だろう。


「これでいいかしら。」


打ち込み終わったデータを返信する。

受付はそれを受け取るや否や話し始める。


「ただいま、お探ししていらっしゃるお客様は別棟の仮想防衛訓練棟地下二階のお部屋で防衛訓練中でございます。ヒビキさま。入場致しますか?」


「ええ。お願い。」


「では入場コードを発行いたします。少しお待ちください……お待たせ致しました。仮想防衛訓練棟はこの先の道を直進後、突き当たりの分かれ道を左手に進んだ先にある赤い屋根の建物となっております。お気をつけて。」


ガラス越しにお辞儀をする受付の横目に仮想防衛訓練棟へ向かう。


 仮想防衛訓練棟に入るとすぐに何やら人だかりが出来ているのが見えた。

人が集まっているのはスコアボードのようだ。

ここに集まっている人がいわゆるスコアラー達なのだろう。

地下へ降りていく階段へ向かう途中でスコアボードに群がる人の声が耳に入ってくる。


「誰だ。このモポポってやつは。聞いたことがないぞ。俺のスコアがランク外に落ちてしまっているじゃないか!」


「おい、こっちを見ろ。こいつ歴代記録更新までしてやがる。なんなんだこりゃあ。昨日までこんな記録なかったぞ。開発部のいたずらか?」


表示されたスコアを見て悲痛と驚きが入り混じった表情を浮かべている。

この人達には一喜一憂するほどの出来事なのだろうが、私には到底理解はできない。


 スコアラー達の横を抜け、地下二階へと降りていく。

階段を降りると休憩スペースが用意された広間があり、ベンチや自販機などが置かれている。

そこを通りすぎ、通路からこっそりと訓練室内の様子を覗う。

小さな窓だが外から訓練中の人の動きを見ることができる。

中にいる人は集中しているので気づかないとは思うが、もしこちらに気が付いたことで記録を逃したとか言われたら困るので横目にさっと確認していく。

幸いにも訓練している人は多くないようだ。

起動している室内を回っていればいずれ見つけられるだろう。

ちょうど折り返し地点。

地下二階の訓練施設の半分の部屋を回ったが探している彼らしき姿は見えなかった。

階段を降りてすぐの広間とは反対側にも同じような広間があり、こっち側には階段の代わりにエレベーターが備え付けてあった。


 視線を次の個室のある通路に向けた時、広間の片隅に置いてあるベンチテーブルに座って展開したキュリフトアーツを見つめている人影が目に入る。

右頬から額にかけて広がる黒い紋様に、薄い紫がかった銀髪間違いない。

彼がスカウトされてやってきた謹慎中の調査隊員だ。


「ちょっといいかしら」


私は彼の向かい側のテーブルベンチに座った。

彼は驚いた様子であったが、展開していたキュリフトアーツを格納し、ゴソゴソと自分のポーチを漁り始めた。


「ねぇ、あなた聞いているの?」


彼は一向にこっちを見ずにポーチの中を一心不乱に探す。

こちらが問いかけることを止めてもなお、彼はこちらを向こうとはしなかったが、何やら探していたものを見つけたようで、それを掴み机に置いた。

置かれたものは何かのクッションか何かのマスコットのように見える。

手足が極端に短いヤギのような羊のような白い物体だ。

彼はこれを取り出して机に置いてからはこちらを真っすぐ見つめている。

何やらこちらの反応を窺っているようだ。


「これは一体なにかしら?」


私は率直な疑問を彼にぶつけてみた。

彼はこちらの言葉に反応するのだろうか。

しかし、この問いの答えは意外なところから返ってきた。


「わたしはエイドゥス語外部翻訳ツール。モポポ。会話を確認。起動します。」


喋ったのは机に置かれたマスコット人形だった。

驚いてそちらに目を向けると机に置かれた時には、ぺったりと俯けになっていた白い物体は二足歩行で動いていた。 


「 $B;d$K2?$+8fMQ$G$7$g$&$+!)(B" 」


彼は人形を掴み、頭の部分を押しながらなにやら喋り始めた。

その言葉は全く聞いたこともない言語。

喋り終わると同時に彼は握っていたマスコットを机に置いた。

少し間を置いて翻訳機械の目が青い光から赤い光に変わる。


「翻訳終了。再生します。何の用だ。」


なるほど。

まだ彼の使う言語が調査用補助装置に入っていないため、別の翻訳機械を使う必要があったようだ。

調査し終わった惑星のデータはノアによってデータが管理されている。

言語プログラムなどは自動的に調査用補助装置(ダイバーデバイス)に更新され、自動的に翻訳されるようになる。

まだ彼の出身惑星の言語プログラムは出来ていないようだ。

恐らく応急手段として彼の言語専用の翻訳機械を開発部に作らせたのだろう。

だからこれを起動する前の私の言葉は全く意味が分からなかったようだ。

私は彼と同じようにその翻訳機械を握り、自己紹介から始める。


「私、情報部、調査班、リーダー、ヒビキ。あなたの上司。」


あまり長い言葉だと翻訳ができないと考え、最低限の単語で切るように話す。


「"$B$o$?$7!!$J$+$^!!%R%S%-!!$"$J$?$h$j$($i$$(B"」


彼が話したような言語を翻訳機械が喋りだす。

それを聞いた彼は何やら考えこみ始めた。

上手く翻訳がされていないようだ。

確かに私の名前などの固有名詞は彼の言語には存在しない。

それが翻訳の妨げになってしまったかもしれない。

こんなアナログな手法の翻訳機械だ。

これは意思疎通が難儀になりそうだ。


 会話を始めて数時間が経った。

互いにモコモコのクッションを握っては置いてを幾度もなく繰り返し、何となくだが、お互いに情報部の人間であり、私が謹慎になった原因の任務について話してほしいことは伝わったと思う。

ただ確信できたのは支給された翻訳機械がどうしようもないポンコツだということ。

翻訳5回目で、私はこの翻訳機のデータベースにない言葉は全部モポポになることを悟った。

また、ポンコツ機械が喋る中でこちらの翻訳をさせた時に何度も耳にする単語は恐らくこちらで言うモポポに値するものだとも分かった。

相手が分かったという返事をするまで同じような意味をひたすら言葉を変えて翻訳を繰り返さなければまともな会話にならなかったため、全く進展することはなかった。


 しかし分かったこともある。

仮想防衛訓練のスコアボードを騒がせている謎の人物、モポポが彼だということだ。

記録達成時に名前を入力する際、こちらの文字が分からない彼は音声認識で自分の名前を名乗ったが、機械は反応せず、仕方なくこのポンコツ羊を使い自分の名前を翻訳させたが、このポンコツ羊は彼の名前を翻訳できずモポポと返したのだろう。

その音声の通り、登録機械は彼のIDと同時にその記録者の名前としてモポポとスコアボードに載せてしまった。

スコアボードの記録は実名でなくてもよいことから起こった些細な事故だった。

私はこの長く、生産性のない会話からそう結論づけた。


 気が付くと時刻は夕食時になってしまっていた。

彼とは明日もう一度ここで会うことを約束して別れた。

分かったと彼は返したので伝わっているとは思うのだが如何せん心配になる。

もし上手く伝わっていなければ自宅を訪ねることにしよう。

残念ながら彼の適正は判断できなかったが、強さは文句のいいようがないだろう。

あのランキングには情報部だけではなく防衛部の記録も入っていた。

恐らくこのエイジスにわざわざやってきたスコアラーと思われる人達の記録だ。

今日行っていた訓練は3つ。

しかもその日のうちにどれもスコアがランキング入り、つまり10位以内。

指定対象防衛任務訓練においてはトップだ。

コミュニケーションの問題はあるとはいえ、それは調査用補助装置によって解決することだ。

今はまだ更新されていないだけで、ノアに着けば彼の惑星言語も自動翻訳できるように更新されるだろう。

さらに明日は彼の監査役でもありスカウトしてきたオルニスにもこの場に同席してもらい話を聞くことが出来るように手配もした。

想定よりも時間が掛かってしまいそうだが、部外の人間を入れることは確定しているので問題はない。

なぜなら一度エイジスを離れ、ユニットメンバーと合流するためメインステーションシップであるノアに行かなくてはならないはずだからだ。

その手配にも数日かかるだろう。

それまでに彼を見極める。

そう考えれば時間は十分にある。


「思ったより遅くなりましたね。シノブを待たせてしまっているかもしれません」


 訓練施設を出て、家路を走りながら携帯端末で時間を確認する。

何だかんだ言って、結局はいつもの仕事帰りより少し早いくらいの時間になってしまっている。

割烹着姿のシノブがお玉を持って玄関先で立って待っているかもしれない。

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