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惑星調査隊 プラネット・ダイバー  作者: 〇たいちょー
第1章 ユニット結成編
4/8

候補者の痕跡

 情報部の受付員に会釈を返しながらオフィスへ入ると、情報部のオフィスは閑散としていた。

等間隔に並べられたデスクは情報部の中での大まかな分野事に班分けされている。

自分が所属する諜報・調査班は一人もいない。

管理班は送られてきた情報をまとめ、形にする。

解析班がそのデータを見て、次にどのようなデータが必要か、そのデータから有力な情報を取り出し、調査班に指示をする役割。

普段は大人数の管理班の凄まじいまでのタイプが繰り広げられているが、今は疎らで空席が目立つ。

なにしろ人手が足りないため、管理班が直接情報をとりに行っている状況だ。

これも惑星カルデの被害で疑似惑星宇宙船ステーションシップの防衛部の人員が減ったことによる影響だ。惑星探査調査船ダイバーズシップエイジスに乗る隊員はキュリフトを扱う中でもトップクラスの適正を持つものばかり。カルデの戦闘で失った防衛部の補填には最適といえる。

自分のデスクの大型機械端末を起動し、今の情報部の人の動きを確認する。

未確認原生生物の出現報告における調査や小型惑星の衛星の調査などの普段見慣れた仕事よりもやはりカルデがらみの出向が大部分を占めていた。

解析班の中からも調査に出ているようだ。

こんなことは初めてのことだ。


「想像以上の人手不足ね。総代が外部から人を引っ張ってくると言ったのも頷けるわ」


 外部の調査員より、エイジス内の調査員で揃えれば話も早いし手間がない。

実際このスケジュールを見るまでは全員情報部の人間でユニットを作るつもりでいた。

長期に渡る遠征となればそれ相応の経験と知識。

そして強さが求められる。

しかしベテランや中堅と言われる情報部の調査員はノアやその周辺船団や惑星の中でも重要なポジションを任されており、当分は動けない。

解析班や管理班にも腕が立つものもいるが、長期遠征となれば腕が立つよりも慣れない環境での任務遂行能力の方が問われる。

身一つで惑星に降り立つにはそれなりの経験と覚悟がいる。

短期間の調査しかしたことがない解析班や管理班では総代が指定した条件を満たせる者がいない。


「任務終わりで手の空いた人で長期間遠征に出られる人なんて……」


各配属者の今日前後のスケジュールを流し目に追っていく。


「……いた!」


この二週間前から全く任務スケジュールがなく、この先も全くスケジュールが入っていない情報部員が一人。

しかも所属班は調査班。

名前は何故か文字化けしていて読み取れないが、スケジュール表にぽっかりと穴の空いた人物はどこかの惑星からヘッドハンティングされてきた元傭兵だと聞いている。

その惑星に調査に行って、彼を連れてきたのは情報部幹部のオルニス。

情報部の鬼軍曹と呼ばれる巨漢のダイバーで防衛部の幹部に畏怖されるほどの猛者だ。

大きな巨体を感じさせない俊敏さと本人の熱い気持ちが現れる仕事ぶりは調査班だけでなく、情報部全体でも尊敬や憧れを持つ者が多い。

防衛部の総代とも仲が良く、模擬戦闘では互角と言えないが十分にわたりあえるほどの実力との情報もある。

しかしそれは昔の話。

年齢を重ね、今は情報部の中でも古株の中の古株。

50歳を超えて惑星調査に降り立つのはやはり厳しいらしく、それゆえ大半は防衛部との折衝や協力時の陣頭指揮などをよく任されている。

それほどの人が見惚れる程の実力の持ち主なら経験も強さも保証されているだろう。

ユニットを組んでの長期遠征も数回行っている経験もある。

人手不足の今では喉から手が出る程欲しい人材だ。


「今、彼は一体何処にいるの?」


彼の席を見てもそこは空席。

デスクには仕事の資料すらない。

スケジュールがなくても出勤はしているはず。

彼の任務スケジュールの一番最近の任務報告を調べると惑星セルギアにおける原生生物アント大量浸食化における調査と書かれていた。

この調査について調べるとすぐに情報は出てきた。

今日から三週間前に行われた緊急討伐調査だ。


---------惑星セルギアにおける原生生物のアント大量浸食化における調査について---------


防衛部所属の警邏中の調査員より、生活部管轄の採掘場の水場において高濃度のキュリフト反応を確認。情報部が緊急で駆け付け、情報を収集。

同日解析班は惑星の地殻内に蓄積したキュリフトが何らかの拍子で地下水脈を通り、その地点へ流れ出たと推測。

発見時周辺には何もおらず、異常なし。

付近の水場とその周辺を立ち入り調査するも異常なし。

同日採掘場の非戦闘員を開発都市へ移送完了。

後日、もう一度調査隊が水場付近に向かうと多数のアントが出現。

応戦するも数が多く、一時撤退。同日防衛部に共同での一帯のアントの殲滅を要請し、受諾。10ユニットが作戦にあたり殲滅作戦は成功。

後日突如アントが大量発生した原因を探るため、情報部と開発部で水場付近の地中の調査を開始。

調査開始すぐにアントに浸食されたセルギア原生生物を多数確認。

解析班は討伐作戦前の一時撤退後にその付近を住処にしていた原生生物とアントが戦闘を行ったと仮定。浸食はすでに広まったと判断し開発部の非戦闘員の避難の指示。

および今回の地中調査を行っていた調査班1ユニットを調査任務から討伐任務に移行。

キュリフトルアーにより地中内のアント浸食個体を地表へ誘きよせ、浸食拡大を防ぐことを第一目的とする。

周辺域の生物情報から、計算し400体程度のカルサイトワームと20体程度のシリマナイトモールの生息が予測された。

この数を最低目標とし、周辺にいるアント浸食生物および現存アント討伐を開始。

交戦中に突如1人がユニットから離脱。

作戦域を離れユニットとの通信およびユニット指揮官の再三にわたる戦闘継続の指示・戦闘復帰の警告の通信を無視。

討伐作戦は継続。

浸食されていない原生生物は徐々に調査範囲外へ撤退。

採掘場周辺のアント浸食生物は目標値を超えなかったものの、確認できた浸食個体はすべて討伐を確認。ユニットを離れた一人は通信途絶状態。

位置情報デバイスのみ作戦領域外で発見。

戦闘により疲弊していることからここで探索を打ち切り、同日調査再開可能と判断し討伐の任を解き帰還命令を出す。

後日別のユニットによりアント発生の調査を再開するが原因不明のまま調査終了。

途中ユニット離脱者がアント発生調査場所へ合流。

その後調査ユニットと共に帰還。

先に帰還したユニットメンバーからの報告を受け、離脱者を召喚およびその時の音声情報を上層部へ提出。

離脱者の討伐数は離脱前ではトップであったにも関わらず、途中から任務遂行の意思は見られなかったこと。

本人が注意勧告などを拒絶および無視したことを認めた。

情報部上層の判断は情報部では珍しい緊急討伐であったこと。

最低限の討伐数は超えていたこと。

幸いユニットに被害がなかったことを踏まえ2ヶ月の謹慎処分とした。

これを持って惑星セルギアにおける原生生物のアント大量浸食化における調査についての最終報告とする。

---------------------------------------------------------------------------


「2ヶ月の謹慎処分…ね」


 スケジュールに何も書かれていない理由が謹慎だとは予想外だった。

これを見て頭に浮かんだのは2つの道筋だ。

『あきらめて他を当たる』か『謹慎を総代に解いてもらう』かだ。

何より今回の突発的な長期惑星調査において勝手がきく人手を確保することは難しいこと。

長期惑星調査は防衛部でも経験者は居るだろうが数は少ないだろう。

総代がわざわざ私を指名して潜入調査に送り込むということは漏らしたくない情報がある可能性が極めて高い。

そうなるとできるだけ部外の調査員に関与させたくない。

同じ部内の人間ならば作戦中もその後もこの件に対しては心配はいらない。

最悪どんな対処をしても問題にはならないからだ。

後者を選択することによるメリットは多い。

一番のネックはこの謹慎の問題だ。

といってもこの謹慎自体は特段問題ではない。

謹慎程度であれば失敗したことをここで取り返すようにとチャンスを与える口実で参加させることもできれば、失敗をした罰としてこの任務の参加を命じさせることもできる。

あと数週間で終わる謹慎程度ならこの忙しい時に細かく指図する隊員もいないだろう。

問題となるかは彼を起用するに値するかだ。

連携や協力ができないと大きな被害やリスクを生むことは容易に想像がつく。

ましてや勝手もしらない惑星で位置情報デバイスを置いて単独行動するというのは地図もコンパスすらもない状態である。

歩いて帰ってきたということは転移陣球すら持っていなかったということ。

それは命を投げ出すに等しい行為と言われてもおかしくはない。

それでなくても、ユニットの人手が減るというのはユニット全体の負担が増える。

さらには採れる選択肢が少なくなる。

今回の討伐任務のような短期間ではさほど影響は出ないが、その負担や影響は時間が長ければ長いほど蓄積していく。

長期惑星調査において行動しようにもできない状況になったとき、それは全滅を意味する。

ユニットというのは全員が互いに命を預けて成り立つ。

この報告書から彼に命を預けられるかといえば預けられない。

しかしこの報告書では分からないことがあることも事実。

これも選考の材料の一つとして、決心する。


「百聞は一見に如かずね」


情報部の情報だとしても、それは書き手によるフィルターがかかったものであるのは確かだ。

直にあって確認したほうが手っ取り早い。

至急の仕事だ。

無駄なく完璧に。

昔から教えられてきたことだ。

デスクの通信端末をたたき情報部管理管轄へ連絡を取る。


「調査班のヒビキです。謹慎中の彼文字化けしていてなんて呼ぶのかわからない彼の監査を総代より受けましたので、彼の自宅はどこか教えてください。」


「少々お持ちください。えーと、監査はオルニスさんが担当となっていますが……」


「すみません。語弊がありましたね。監査の手伝いを命じられました。オルニスさんと連絡がつかないので、きっと謹慎中の彼の自宅で話し込んでいると思うのですが」


「そうでしたか、えっと、お待ちください。彼の住所は-----居住区エリア7‐12 305号ですね」


「ありがとうございます。では失礼します」


幹部になってから情報部の人間の個人情報が容易に知れるようになった気がする。総代の名前を使ったこともあるが、ある程度信用はされているようだ。

といってもこの船の居住区なら丸一日あればすべて見て回れるほどの大きさしかない。

教えてもらえなければシラミ潰しに歩くところだったが、電話一本ですぐにわかるならそれに越したことはない。彼の部屋に向かうことにする。


 居住区エリア7‐12に着いた。

彼の住む宿舎はよくある普通の宿舎だった。

近所には食料品店も電気屋も立ち並び、非番の調査員もちらほらと見受けられる。

平凡な造りのよくあるマンションだ。

エレベータはなく、階段で上へあがっていく。

彼の部屋のインターホンを押すが、一向に反応がない。

しばらく待ってから再度押しても部屋の中から何かが動く音も気配もない。

謹慎中とはいえ食料を買いに行っている可能性はないわけではない。

悩みながらももう一度インターホンを鳴らすと、隣の部屋のドアが勢いよく開いた。

出てきたのは髪がぼさぼさの中年男性だった。

彼は怒っているわけでもないが不機嫌そうな顔でインターホンを押し込む私に喋りかける。


「一体何回鳴らしたら気が済むんだ。一回で出なければ留守だってわかるだろう。隣のやつなら訓練施設に行ったよ。いい加減寝かせてくれないか。君に悪気はないとは思うが迷惑なんだよ」


「それは失礼いたしました。しかし何故彼が訓練施設へ行ったとご存知なのでしょうか?あなたと彼は出かける先を教える程仲が良いとは思えないのですか」


明らかに寝起きであろう隣の部屋の主は戦闘ができるようには見えない。

おそらく開発部の人間だ。

情報部の船だからといって、情報部だけがいるわけではない。

船本体のメンテナンスを担当する開発部の人間も当然住んでいる。

爪の隙間は黒ずんでいるのは機械油か煤によるものだと推測できる。


「あぁ、それなら俺が運動するなら訓練施設に行けって苦情を入れたからだよ。ブンブン、ドスドス、ミシミシと時間も構わずやかましいったらありゃしない。うるさいってことを伝えようにもこっちの言葉を分かっているのか分かってないのか微妙な反応だし、だからといって下手に注意して怒らせると確実にこっちに勝ち目はないからな。」


隣の住人はぐったりとした疲れた顔で語り始める。

どうやら寝不足になってそうとう気が滅入っているようだ。

ドアから顔を出しながらではなく、自分の部屋のドアを閉めて私に話し出す。


「今日は非番だったから、一日かけて寝ようと意気込んでいたんだが、どうにも隣の音が気になって眠れなかったんだ。そこで運動不足の改善のためにお偉いさんから毎月渡される訓練施設のチケットの事を思い出して、そいつにこれを持ってチケットの場所に行けって渡したんだ。あいつ俺に向けて手を振って外に歩いていったからまだ帰ってきてなければそこにいるだろうよ。なぁ姉ちゃん。あいつの知り合いなら夜中の筋トレは止めるように説得しておいてくれないか。エイジスは情報部のエースシップ。いわば情報部の本丸だ。部外の俺が部屋を変えてくれなんておいそれと文句が言えないんだ。頼むよ。」


見るのも痛々しいほどにできた目元の隈に涙が流れる。

よほどつらかったのだろう。

彼はいまや寝間着に服を羽織った状態で両膝をついて俯き泣いていた。

私の倍は歳を取っている人がこうしている姿は異質であるとしかいいようがない。

もしシノブがこの場面を見ていたら、何か事件性を感じて即刻通報しているだろう。

しかし私は曲がりなりにも情報部の幹部。

調査班のリーダーだ。

任務外のことではではあるが部下の行動で迷惑を掛けてしまった手前。

この方には誠心誠意謝らなければならない。

人の上に立つとはそういう事だ。

こんなことが幹部初めての謝罪になるなんて想像していなかった。

心の準備もできていない。

きちんと謝れるだろうか。


「この度は私の出来損ないの部下が御迷惑をかけたようで誠に申し訳ありません。私の方からも彼に夜間は静かにするように注意を致しますので、どうかこの場でお泣きになるのはお止めいただいてもよろしいでしょうか。確かにエイジスは情報部の人間が大半を占めておりますが、ヴァリアントの一員として皆働いています。何か問題があればここの居住区の管理者にお伝えください。決して部の違いから不平等な対応は取ることはありません。それと私の軽率な行動でさらにあなたの貴重な睡眠時間を奪ってしまったことも重ねてお詫び申し上げます。今回の件をすぐに彼に伝えあなたの長く安らかな休息をとれるよう対処いたしますので、失礼ですがこの場を離れさせていただこうかと思います。この度は部下が本当にご迷惑をお掛け致しました。それでは良い夢をご覧になってください」


拙いながらもなんとか噛まずに思ったことを言いきることができた。

相手の反応を見ずにさっさと立ち去るのは悪いと思ったが、謝った後この場から離れられるタイミングが分からないプレッシャーに耐え兼ねて言ってしまった。

しかも言ってしまった手前、実行に移さざるを得ない。

それほど悪い人ではなさそうだったので、逆切れで絡んでくることもないだろう。

涙を流し俯く中年を背に歩いてきた道を戻っていく。

走って離れたい衝動を抑え、呼び止められないか心配をしながら歩いた10mほどの距離は生まれて感じたことがないほどに長く感じた。

大きく早く脈打つ鼓動を感じながら、彼の宿舎を後にする。私はどうしても後ろを振り向くことができなかった。

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