惑星コロキウス任務進捗状況調査
司令からの連絡が入ったのは惑星コロキウスの森林部のアント頻発発生地周辺に、アントによる汚染を浄化する機械とアントを撃退用の兵器を設置する規模の大きな計画の進捗状況の確認を始める直後だった。
この計画はコロキウスの原生生物の保護とここで暮らす人間をアントの脅威から保護することだ。
惑星カルデでの大量のアント襲来により、カルデはもはや人が住める惑星ではなくなってしまった。
惑星遺棄という未曽有の損失を負った開拓宇宙船団は、再びカルデのようなことが起こらないようにこの計画に乗り出した。
カルデは惑星探査用宇宙船の補給基地の存在ではあったが、航路の最前線ではなかったため、未開の宇宙の最前線を行く惑星探査用宇宙船エイジスが進む航路には影響は少なかったが、エイジスを追いかける他の惑星探査用宇宙船や周辺の惑星間移動船、強いては疑似惑星宇宙船であるノアは他の惑星で補給しなければならないために合流が遅れることになる。
次なる人が住める補給惑星を求めて進むには十分な物資補給が必要で、このコロキウスはその最前線の補給惑星である。
今、エイジスにいる調査隊がノアから受けた指令は、コロキウスの防衛と次なる旅への補給。
ここを失った場合一つ後ろの補給惑星まで撤退し、新しく補給惑星を探すところからになってしまう。
そうなれば数十年の苦労が水の泡だ。
それにしても各惑星の文明速度を守るために、開拓宇宙船団は惑星内にキュリフト技術を伴う機械を導入することは禁止していたが、カルデの一件により開拓宇宙船団の上層部連中もアントに対して堅実な策を取らざる得ない状況になったに違いない。
開拓宇宙船団は、防衛部、情報部、開発部、生活部と4つの管轄部で構成され、主な役割は非戦闘人員をアントから守る防衛部。
惑星の調査・研究をする情報部。
アントの研究や新たな技術を生み出す開発部。
惑星や船の食料や補給を担当する生活部となっている。
今回のこの計画は生活部が提案し、全部署の共同作戦という形で進められている。
この惑星コロキウスの生物は翼竜が生物の頂点に立つ惑星で、私たちのような知的生命体は確認されていない弱肉強食の世界だ。
だからこそ今回のような高度な文明技術の持ち込みを許可したのだろうと思われる。
すでに補給惑星となっているコロキウスの惑星データはすでに得られているので、私達情報部の仕事は終わっている。
今は防衛部と開発部が要所に対アント兵器の設営を行っているところだ。
全部署の共同作戦だが、今や情報部にできる仕事はない。そうなると、情報部に詳細な情報が流れてこないので、現地状況を直接確認しにきた次第だ。
勿論これは生活部主導の計画で情報部に経過報告など必要なく、こちらもこの計画に対してこれ以上何も進言することもない。
この現地調査は開拓宇宙船団全体の動きを把握するために情報部が行う情報収集。
忙しい時期が偏る情報部はこうして部外の人員調整を行ない、時には指揮することもある。
計画は当初のスケジュールより早めに開始されたが、今の進捗状況を見るにスケジュールより少し遅れているようだった。
「おかしい…。少なすぎる。」
周辺状況を見渡すため高台に情報部の所有する高環境用小型停泊船を停めて、作業現場の観察した際に感じたのは配備されている戦闘機と輸送機の少なさだった。
たしかに計画で聞いていた数字だと、この辺りの何処を見ても機械が飛んでいる光景が目に入る位の数だったはずだ。
各機一台につきパイロット2人が必要だが、生活部と開発部で十分なパイロットの人数を確保できなかったのだろうか。
私はこのような事態になっている原因を知るために戦闘機が整備されている開発部の作戦拠点へ向かうことに決めた。
辺りの見渡せる高台を着陸地点に選んだため、開発部の作戦拠点との距離は情報部で管理しているナビゲーションMAPを見ると30ブロックほど離れていた。
この高台からでも作戦拠点らしい一画は確認できるが、ナビゲーションMAPはずいぶんと大回りする道を示している。
もっぱらこのナビゲーションMAPは物資の輸送などを前提にしたもの。
この辺りは山や谷も含め川が多く、輸送を考慮した通行が可能な道は限られている。
今いるこの場所も切り立った山の崖際で数百m下はそのまま谷となっていて川が流れている。
「直線距離で12ブロック程度ね」
おおよその距離と目印となりそうな地形を確認し目の前の崖から一歩踏み出す。
荒く脆いのり面を蹴りながら、通れそうなルートを一瞬の間に判断し駆け下りていく。
崖にある窪みや生えた木を避けながら落下に近いが決して宙には浮かず、足をつけることでスピードと方向性を調整する。
第一目標である突き出た巨石が近づく。ここからある程度スピードを維持して飛び出せば川幅を飛び越えて平地へ着地できる。
「っ!」
目標としていた岩盤の前に巨木が生えていた。幹は太く折れそうもない。
(スピードを落とせば距離が足りなくなる。かといってこのスピードでは避けた後からルート復帰ができない。それなら…)
体勢を低くし崖面を抉る跳躍。
崖面から足は離れ、もう止まることはできない。
左右の腰に提げた2本の短剣を抜き、構える。
短剣のキュリフトと空気中のキュリフトが淡く発光し、揺らめく。
「風刃烈破」
短剣から数多の斬撃が放たれる。
狙うのは幹の左側の枝が細いルート。
枝と刃が擦れる。
枝は折れることはなく振り放った太刀筋で裁断され、キュリフトを帯びた体に風の刃に断ち切られた枝々が襲い掛かる。
その刹那、スピードはそのままに二つの獲物を正面に重ね渦巻く風をイメージする。
「螺旋風壁」
体の周囲に暴風が吹き荒れる。
仄かに緑色に光る竜巻の防壁によって迫りくる枝は吹き飛ばされる。
幹を通り過ぎると同時に、生み出した風の回転により左に逸れたルートを右に戻す。
枝の雨を抜けると幹のほぼ真裏に出た。
目標の岩盤まではあまり距離がない。
体を起こし、足先に全神経を集中させる。
のり面を削りながらも足裏はしっかりと斜面をとらえた。
速度を維持したまま突き出た岩盤を発射台代わりに平地へと向かい全力で跳ぶ。
風を全身に感じて空から先の風景を見る。
自由を象徴する鳥のようになれるこの瞬間が心地よい。
「脚甲月花、展開」
キュリフトが両足に集まる感覚と共にソルレットが現れる。
黒を基調とした流線形のフォルムに花のデザインがあしらわれた脚甲。
これが私のキュリフトアーツ『月花』だ。
勢いよく飛び出しながら落ちていくはずの体は、展開と同時に高さを維持したまま緩やかに前進している。
空を蹴りながらまるで飛び石をわたるように徐々に下降し、森林地帯の前で着地する。
MAPをみると拠点まで残りは9ブロックほどの距離。
ここ一帯はアントの発生が頻発しているという報告があったエリアだ。
月花を解き、森林地帯へ入る。
2ブロックほど道なき道を走り抜けていると、風切り音に交じり、大きく木が軋む音や爆発音が耳に入ると同時にキュリフトの揺らぎを感じる。
「近くで戦闘が起こっている。アントかしら」
木々の合間をすり抜けながら通信受信をONにする。
広域全体に変更するとノイズと共に通信音声が入る。
「創術班は上空の敵の排除を優先すること。周りの獣共は創体班に任せて戦闘機を援護!力任せの脳筋どもはネクタルをがぶ飲みしてでも創術班に近づけさせるなよ」
「おい、輸送機から煙が上がっているぞ!早く敵を引き剝がせ」
「輸送機と敵との位置が近すぎます!まともに創術を行えば輸送機を巻き込んでしまいます」
「こちら輸送機コックピット。片翼およびフロー用ブースターに損傷、自動機体重心制御困難です!今は手動モードで何とか保てていますが、このままでは持ちません」
「輸送機に括り付けた創射班はどうした!」
「通信返答なし。ストームバードの群れに襲われて気絶したかと思われます」
「ちぃ。そこから安全に着陸できる場所はどこだ。輸送機が黒焦げになるのはいいが創射班が丸焼きにされるのは勘弁だ」
「着陸地点にマーカーを打ちました。一旦高度を下げて敵と距離をとりますので張り付いているストームバードを撃墜してください」
「創術班聞こえたな。創術を構えろ。距離がひらくのは一瞬だ。これ以上飛べない輸送機が増えるとこの作業いつまで経っても終わらないぞ」
輸送機付近では複数パーティーで輸送機の防衛を行っているようだ。
キュリフト圧縮砲を持った戦闘機が左舷方向からストームバード群れの攻撃を受けて煙を上げているのがここからでも見える。
ストームバードはコロキウスの翼竜。
3mを超える体躯に見合わず縦横無尽に飛び回る姿から生きる嵐と言われている。
他の惑星の中でも珍しいキュリフトを扱うことができる生物だ。
風を纏い、操ることでアクロバットな飛行を行う。
元々の外皮は硬く、衝撃に強いことに加え、キュリフトによる防護効果により、地上から倒すことは難しい。
しかし熱に弱いことが分かっていて、高温になった部分のキュリフトはなくなり、外皮も柔らかくなる。ストームバードが群れで行動することはあまり確認されていなかったが、5体も近くに集まったとなると、おそらくこの辺りにはストームバードの巣があるのだろう。
遅れている原因を掴むには時間がかかると思っていたが、この通信を聞く限り、輸送機の故障や原生種による攻撃による破損や墜落らしい。
それにストームバードの巣や生息域を情報部、もしくは下見をしている開発部も防衛部も見逃すことは到底考えられない。
おそらくアントの出現により生息域が現在進行形で変化しているのかもしれない。
またコロキウスの原生生物がいつもより多く確認されていることに加え、原生生物達の凶暴性は増していることは、初めてこの地に降り立った時と比べると、火を見るよりも明らかだった。
それはアントの浸食によるものなのか、もしくは私たちを含め、自らの居場所を守ろうとする原生生物達の野生の本能なのだろうか。
突然の殺気。
振り向くとすぐ目の前に赤い目と鋭い牙が左首筋を狙って飛び掛かっていた。
体を捻り、間一髪で牙は空を捉えた。
転がりながら両脇から獲物を抜き、1本を地面に突き刺してすぐに臨戦態勢をとる。
襲ってきたのは原生生物のベルファング。
今も数匹が弧を描きながら次の攻撃のタイミングを計っている。
数匹はその後ろで空を仰ぎ吠えたてる。
ベルファングは名の通り、遠吠えが鈴を鳴らしたような音であることから名づけられた。
肉食で凶暴。
エサの取り方は死骸漁りか他の動物が仕留めたものを横取りする。
その独特な鳴き声は、集団行動でのみ敵に襲い掛かるこいつらのやり方から、遠くにいても聞き分けられるように進化したと言われている。
おそらくストームバードの鳴き声や爆発音からこっちに釣られてきたのだろう。
ベルファングは全部で6体。
そのうち1匹はアントに浸食されている。右目周辺に掛けてピンク色に爛れ、気味の悪い器官が躰からはみ出している。
浸食されても、なお自らの意思を持っているのか、ただ本能のままに動いている傀儡なのかは分からないが、しっかりと他のベルファングと動きの統制が取れている。
アントに浸食されている生物の危険性は高い。
アントは周囲のキュリフトを吸収するため、キュリフトによって身体強化を行っていたとしても、ただの原生生物の攻撃と違い大けがを負う事になる。
さらに厄介なのが、その攻撃を食らったことによる体内キュリフトの減少だ。
アントはキュリフトでのみ倒すことができる。ただがむしゃらに攻撃したとしても、ベルファングの体を捨て、こちらのキュリフトを吸収しようと向かってくる。
物理攻撃でいくらアントを攻撃したとしてもやつらは再生してしまう。
アントやアントに浸食された生物の攻撃はこちらの命を狙うだけでなく、こちらが倒す手段さえ奪うのだ。
「集中しないと」
呟きに似た声出して頭の中に浮かんだ雑念を一蹴する。
初撃は完全に思考に神経を回していたため、攻撃への対応が遅れた。
もし躱せていなければ治療で数分は時間をとられる事になっていたかもしれない。
ベルファングは唸り声をあげながら再度こちらに突進を繰り出す。
1匹に続き次々とこちらに飛び掛かる。
意識しないといけない個体は1体。
浸食されている個体のみ。
連続とはいえ、正面からのぶつかり合いだ。
後ろに小さく跳躍し距離を稼ぎつつ、両の短剣で肉に噛みつかんとする口を突き刺し、切り裂き、蹴り飛ばす。
4匹目。
これが浸食されていた個体だった。振り下ろされた爪を避け、左目を切る。
浅い切り付けだが、これでよい。
切り付けた動きで回し蹴りを浴びせ、後ろから続いてきていた5匹目と6匹目にぶつける。
武器を右側に構え、キュリフトを手元に集中させる。短剣は青白く光を帯び、一瞬でベルファングの周囲も同じように発光する。
「蒼雷閃-」
両腕から振るわれた一閃は轟音と共に3匹のベルファングを焼き切り、骸は骨も残らず塵となった。
アントの体液も有害で、キュリフトを吸収しようとする。
アントは倒すと溶けて消滅するが、その媒介していた器は消えない。
一応は無害となっているが、その器は汚染されていると判断し、消却することが通例である。
もし倒したと思っていたとアントが生き残っていた場合、このベルファングのように死骸を食する動物が器を食べることによって新たな依代を得てしまうからだ。
今回のように襲い掛かってきた獣に関して、殺処分することは認められているが、惑星の保護は私達の使命の一つ。
アントに汚染されていなかったベルファングは私たちが保護すべき命であったことは事実だ。
目の前の動かなくなった3つ骸を見てちょっとした罪悪感が募る。
小さく森を駈ける音が近づいてくる。戦闘前のベルファングの鳴き声に同調した仲間か、あるいは血の匂いに誘われた他の原生生物か。
高めの足場になりそうな木に移動し、身を隠す。
迫ってきていたのはベルファングだった。仲間だったものに群がる仲間達。
今の彼らの目には私は映らない。
足早にその場を離れ、目的地へと向かうことにした。
木々を足場にしばらく進むと駆け抜けてきた森とは明らかに違う整備された道路が現れた。
おそらくすぐ先に見える建造物が開発部の作戦拠点だ。
周りは透明性のある塀で覆われ、出入り口には原生生物の侵入を防ぐレーザー防壁やレーザー砲が配備されている。
出入り口に検問担当が3人、輸送機の離着陸のポートには5人巡回している。
ここはアント発生地帯から離れているからか、警邏している部隊員には緊張感や覇気はなく、警備は杜撰で簡単に潜入できた。
もっとも月花の空中歩行を使ったからでもある。
だれとして全く反応しなかったことに関してはこちらには都合が良かったが練度が低いと感じた。
輸送機の離着陸を行う拠点には無人の輸送機がいくつも並んでおり、修理工場と思われる工場では開発部のメカニック達が忙しく動いている。
工場のすぐ外には退屈そうな顔の防衛部史上初かつ最年少女幹部エトナが確認できた。
幹部の中では同性かつ歳が近いからという理由にたまに引き合いに出される。
戦闘能力はずば抜けて高いが、精神面はまだまだお子様。
お転婆なんてレベルではない短絡的な思考に、自分の欲求にすぐに流されるわがまま少女。
防衛部内部では手が付けられないから責任感を養わせるために役職を与えたんじゃないかと囁かれる始末だ。
今回の計画でも作業開始3日目くらいで退屈しのぎに警邏の部隊員に指導という名目で勝手に模擬戦を行って数名のけが人、整備中の輸送機2機を大破させたことによって開発部総代にこっぴどく叱られたという情報が入っている。
エトナの方でも私が引き合いに出されているようで、エトナは私を敵視していることも情報として入っている。
情報だけではなく、初めて顔を合わせた時の彼女の表情や言動からそのことは容易に察することができた。
彼女には絶対に見つからないように気を付けないといけない。
無理やり勝負を吹っ掛けられるのが目に見えている。
しかし、あれだけのことをしでかしたにも関わらず、この任から外さないことを鑑みると、防衛部は開発部の非戦闘員の安全確保のことをしっかり考えているのだろう。
そんなことを考えつつ、足早に人が居そうにない格納倉庫の中の一つへ入ると、そこは燃料と機械油の独特な匂いが立ち込めていた。
ここに並べて置かれているのは外部装甲が壊れている輸送機やら一部が焼けて真っ黒になった輸送機。
輸送機だけでなく機銃をそなえた戦闘機も数台置かれていた。
しかしこちらは壊れた跡はなく、恐らく使われていないようだ。
もしかすると転用できる内部部品を戦闘機から取り外して使っていたりするのかもしれない。
ざっと台数を数え、同じ造りの倉庫を順番に回っていく。
2つほどは人の出入りと常駐があったため、確認できなかったが、この倉庫に入る台数からおよその数は推測できる。
仮に確認できなかった倉庫の輸送機が全て稼働していたとしても、この計画初期のデータのおよそ3割程度の輸送機が動いていない計算だ。
開発部作戦拠点の中で最も大きく、修理工場があるのはここだけだ。
ここでこれだけしか動いていないとなると他の作戦拠点ではもっと数が少ない可能性が極めて高い。
階段を降りる足音が静かな倉庫に響く。
巡回の部隊員のようだ。
ここは機体も工具棚もあり身を隠すには困らない。
見回りも広い歩行通路を歩くだけで何かを探すような素ぶりはなく、2分もかからずこの倉庫を出て行った。
総代にこの計画の終了予想を立てられるくらいの情報はすでに入手できた。
最後に近づけない修理工場の映像を遠いながらも撮影保存し、足早にもと来た道を戻って拠点から出る。
撮影時のエトナは妙にそわそわして落ち着きがなく、開発部の工場の出入口を歩き回っていたのは野生の感というやつなのであろうか。
いや、ただの手持無沙汰からの行動だろう。
自分の乗ってきた高環境用小型停泊船へ瞬間移動できる転送陣球を草陰で起動する。
原理はよく分かっていないが、歴代の開発部総代が作ったこれは、対となる転送陣球に転移する優れもの。
この発明により、調査隊の帰還率と情報収集速度が飛躍的に向上した。
便利だが、転送可能人数は1人で起動時間は短時間。
キュリフトを込めて、陣が透けて見えるその水晶玉を砕くと起動し、片方が起動するともう一方の球体も自動的に砕かれ、転送陣が繋がるという仕組みだ。
そのため使い捨てであり、その割には結構な値段がする。
自分は何も知らず無駄に使用していたわけではないが、上の立場になってこの道具の値段を知ると使うことに抵抗を感じる。
調査隊の命や調査時間を天秤にかければ安いものなのだが、知らなければ良いことというのはきっとこういう事なのだろうと思う。
ただ今回は総代の指令があるからという理由で自分を納得させた。
もっとも、今回の任務はただの現場の進捗確認。
担当部門の人間ではないが情報部として大袖を振って正面から入っても何も支障はなかったのだが、手続きで手待ちの時間が出ることや自由に行動出来ないこと、エトナというイレギュラーで時間を取られるリスクもあったこともあるが、自分以外の関係ないことを考えなくて良いのが楽で落ち着くというのが本心だ。
これではエトナと変わらない気がするが、迷惑さえかけなければそれでいい。
抜き打ちの検査で情報操作の無いしっかりとした情報を手に入れるための措置だとか理由を並べれば咎められることはない。
情報部というものはそういうものだ。
転送陣に入った瞬間、目の前には眩い光と共にどこに向かって進んでいるのか落ちているのか分からない転送空間が広がる。
入口も出口も見えないその空間は瞬きすると抜けていて、自分は高環境用小型停泊船の中に立っていた。
端末からを転送陣球一セット補充の要請をして、エイジスへ座標を合わせ、高環境用小型停泊船を発進させる。
高環境用小型停泊船はオートパイロットになっている。
一般的には小型船の入艦と出艦を管理する管理官が各船にはついており、管理官が到着座標やルートを決めて大型船へ帰還させる。
惑星探査用宇宙船は基本的に情報部の人間のみ搭乗している。搭乗員数が少ないため、収容や手配などは個人で行う。
到着予定時刻を見るとしばらく時間があった。
この時間に先ほどの調査報告書を作ることにしよう。