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ヘリオス英雄譚  作者: ユウ
第2章~冒険編~
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4話:始まりとゴブリン

 -アルシア城郭都市の外の世界。いつも高原に寝に行ったのとは違い、全く違った緊張感や高揚感が湧き上がる。メランはしばらく辺りを見ながら歩いている。


(はぁ……なんか…すげぇな…)


 メラン自身、感情の高ぶりを自覚しているようだ。しばらくして、背嚢リュックから地図を取り出す。指先でなぞりながら、位置と次の目標地点を確認する。


「えーと、次の街は……アニュー市街地か」

(とりあえず情報収集と、仲間集めだな…)


 メランは地図をしまい、なだらかな道を歩いて行く。


 -穏やかに流れる小川。川には小魚が悠々と泳いでおり、水が底まで澄んでいる。メランは空き瓶を取り出して、水を採取している。水は薬などの材料となるので必需品だ。ついでに、近くに生えていた薬草も採取した。


(腹減ったな…早く次の街に行くか…)


 背嚢リュックを背負い、その場を離れようとすると、


「ぎぃやぁぁぁぁぁ!」


 小川を挟んだ林から、耳を突き刺すような悲鳴が聞こえて来た。木々が若干揺れているのが分かる。メランはかなり気に掛かるようで、体が自然と林へ向かって行った。


 青々とした葉の胡榎ゴカの木が群生する。木漏れ日が地面に光の斑点を作り出す。先ほどの悲鳴の聞こえた辺りまで来てみたが、一切気配は感じられない。ただ小鳥のさえずりが木霊するだけだ。


「この辺りだった気がするんだけどな…」


 地面に足がめり込むほど柔らかい。さらに防具の重みで、やや足取りが制限されている。メランはまだ、防具を着ながら自分の体をコントロールするのに慣れていない様子だ。


「ここら辺にしておくか…」


 安定しない足取りで引き返そうとする。だがその時、激しく草木の擦れる音がした。メランはその音の方向へ目をやる。すると、その方向から一人のゴブリンが走って来た。


「ゴブリン…!」


 メランは背嚢リュックを置いて剣を抜き、攻撃に備えて構える。だが走って来たゴブリンは、メランの事を気にもせず、メランの側を全力疾走で駆け抜けて行った。予想外の出来事に、メランはしばらくゴブリンを目で追っている。すると、ゴブリンの来た方向から、とてつもない地響きが-


「!!!!」


 目の前から巨大な猛獣、丸太大豚マルタオオブタが突進してきている。メランは急いで剣を納め、背嚢リュックを背負い逃げる。

 丸太大豚マルタオオブタは大きな体躯を持った、獰猛な生物だ。縄張りに入ったものは視界から消えるまで追い立て、その突進力は軍用車両をもひっくり返す。


(やばいやばいやばいやばい‼いきなりこいつかよ‼)


 メランはその防具の重さを気にもせず、必死に逃げ続ける。一応、ジーザスから様々な脅威への対応を教わってはいたが、いきなりこんな危機的状況に陥るとは、やはり、外の世界は常に危険と隣り合わせだ。気が付けば、メランはゴブリンと一緒に逃げていた。


(くそっ!どうする…!てか完全にこれ巻き込まれ-)


 そんな事を思ってゴブリンに目をやると、彼の背嚢リュックが目に入る。メランは、何か良い策を思いついたようだ。


「……お、おっおい…ゴ、ゴブリン」


 ゴブリンに話しかけたこともないため、どう呼べばいいか一瞬迷った様子だ。ゴブリンも話しかけられるとは思わず、一瞬ギクッとした。


「…お前のその爆弾、ちょっと貸してくれないか?」

「こ…これでやんすか?」

(やんす……!)

「あ、あぁ、それだ」


 ゴブリンは自分の背嚢リュックの横ポケットから、爆弾を取り出して渡した。なんとも手作り感満載な、木の実でできた爆弾だ。中に爆発させるための材料が入っている。


「そ、それをどうするんでやんすか?」

「…こうするに、決まってんだろー」


 メランは走りながら振り返り、木の実爆弾を投げる。それは丸太大豚マルタオオブタ目がけて飛んでいき、額に命中して爆発した。衝撃によって、丸太大豚マルタオオブタは怯んでいる様子だ。


「っしゃ…!」


 メランは怯んだ隙を突いて剣を抜き、咄嗟に丸太大豚マルタオオブタの懐へ入って喉元へ突き刺した。途端に傷口から出血し、徐々に衰弱していった。メランは息を荒げ、様子を窺っている。

 丸太大豚マルタオオブタは高い運動量により、血循環の勢いが凄まじい。よって、一度傷口が開けば、大量出血という状態となる。

 衰弱の末、丸太大豚マルタオオブタは地響きを立てて倒れ込んだ。メランは大きく胸を撫で下ろし、剣を納めて背嚢リュックを漁る。すると、ゴブリンが恐る恐ると近づいてきた。


「あ、あのっ…ありがとうでやんした」

「あ、あぁいや、お互い様だ」


 メランは背嚢リュックから小刀を取り出し、刃を肉に差し込む。どうやら肉を採取するようだ。


(これぐらいでいいか)

「…おいらも、採ってもいいでやんすか?」

「あ、あぁもちろんだ」


 ゴブリンも胸元の鞘から小刀を取り出し、肉を採取する。二人共黙々と作業を行っている。メランがその場を去ろうと立ち上がると、


「あ、あの!……ちょっと、お話でもしないでやんすか?」

「(は!?な…何を話すつもりだ…)あぁ…悪い。俺、先を急がなくちゃー」


 ゴブリンの誘いを断ろうとしたが、それを遮るように腹が鳴った。防具を着ていてもお構いなしのようだ。二人の間を、独特の沈黙が流れる。そして-


「ははっ‼飯にするでやんすね‼」


 -こうして、二人は共に食事をする流れとなった。林の小さな広場で石を並べ、着火石ちゃっかせきで火を起こす。火の上に平らな石を乗せ、石焼きで肉を炙る。メランはこうなった流れに違和感を感じつつも、石焼きした肉を食べるのは初めてのようで、やや興奮している様子だ。


「おいら石焼きした肉が大好物なんでやんすよ!まさか今日食べれるなんて思わなかったでやんす!」


 ようやく出来上がった焼肉を、薬草で包んで勢いよく食らいつく。丸太大豚マルタオオブタの肉は高級食材で、かなりの弾力がある。焦げた匂いが鼻をそそり、さらに食欲を増進させられる。大きな口を開けて頬張るゴブリンを見て、


(……ゴブリンと、食事…。ゴブリンと、会話…。外の世界ってすげぇんだな…)


 と、肉を噛み千切りながら思うメランであった。

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