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ヘリオス英雄譚  作者: ユウ
第1章~旅立ち編~
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2話:襲撃と喪失

 舞い上がる塵埃。辺りは霞みがかっている。どうやら食堂の天井が崩れ落ち、二人共瓦礫の下敷きになってしまったようだ。天井の穴は二階を貫き、夜空が顔を出している。宿屋に宿泊していた客達は、一斉に階段を下り、外に飛び出して行った。

 -すると、瓦礫の山が形を崩し、メランが瓦礫を掻き分けて出てきた。噴き出した塵埃が、メランをむせ返らせる。ひどく頭を打ったらしく、視界がぼやけ、やや足取りがおぼつかない様子。朦朧とした意識の中、周囲の状況を確認しようと、辺りを見渡す。-そこに見えたのは、瓦礫からはみ出た、タヴルタと思わしき腕だった。


「タヴ…!?」


 メランは必死に瓦礫をどかし、タヴルタをやや強引に引きずり出す。


「タヴ!タヴ!タヴ!」


 大きく体を揺さぶるも、全く反応はない。不幸にも頭の打ちどころが悪かったようで、頭部から血が滴ている。天井の穴から警鐘の鳴り響く音が聞こえ、入り込んできた煙の臭いが鼻をそそる。


「タヴさん家がやられた‼」

「こっちもよ!」

「急いで!逃げて!」


 外から悲鳴や叫び声が一斉に飛び交う。次々に爆発音や喚声が鼓膜を打つ。



「ハ~ハッハッハッハッハッハッハ~~~~~~~!」


 城壁の上でけたたましい声を上げる謎の人物。おぞましい仮面から覗く、狡猾な眼差し。高貴な外套を身に纏い、両腕を大きく広げて快楽を感じている。正体は一切不明だが、人間に強い敵意を持っていることは確かだろう。その人物は次々と恐ろしい怪物を召喚し、町を破壊し尽している。

 人々は混乱し、狂ったように逃げ惑う。兵士や戦士達は対応に追われ、思うように連携が取れていない様子だ。その中でも、熟練と見られる戦士達が次々と立ち向かっている。


「もっとだ~!もっとやれぇぇぇ‼ゴミを、ぶっ潰せぇぇぇぇぇぇぇ‼‼」


 とてつもなく大きく瞳孔を開き、狂ったように叫び声を上げる。怪物達は勢いを増し、次々に苦戦する者が現れる。だがそんな中、灰色の外套を纏った何者かが、屋根を飛び移り、怪物に対抗している。まるで、雷を操っているように見える―



 なんとかタヴルタを救出できたメランだが、相変わらず呼び声に反応しない。首に力が入ってないようで、ぐったりしている。

 すると、開きっぱなしの入り口から、勢いよくフェアが入って来た。


「メラン!」

「フェア!」


 フェアが食堂に入り、メランの元へ駆け寄る。どうやらメランのことを心配して、わざわざ駆けつけて来たようだ。かなり息が上がっている。


「大丈夫!?」

「俺は大丈夫だ。けどタヴが…」

「頭から出血してる…。布か何かある?止血する」

「分かった!」


 こんな緊急事態にも拘らず、他人を一番に心配しているフェア。途中で転んだ際に負ったとされる膝の怪我など、全く気にしていないようだ。日頃医療の知識を勉強しているため、こういう時でも冷静に対応している。

 メランが早々に布を持ってきて、フェアが手早く布を締め、止血を施した。


「とりあえずは大丈夫かな、安静にしてれば」

「…くそっ、なんでタヴが…」


 一緒の空間にいた身として、タヴルタが大きな被害を受けたのが悔しいのだろう。険しい表情で、タヴルタの顔を見つめる。


「で―」


 とてつもなく激しい破壊音。それは一瞬でフェアの言葉を掻き消し、宿屋の半分を消し飛ばした。目の前を濃い煙と塵が舞い、メラン達はむせ返る。


(一体何なんだ…)


 ようやく視界が開けたと目を開くと、そこにあったのは-。絶望的な街並みと、、巨大な一つ目の怪物の姿。ギロリとこちらを睨みつけながら、低い声で唸り続けている。怪物の背景には、多くの煙が立ち上がり、夜にも拘らず燃え上がった炎で明るくなっている。


「なん…だ…」

「ひ……」


 フェアは恐怖に怯え、失神してしまう。そんなフェアの姿を見て、メランの頭はさらに混沌とする。


(どうする…どうする…!倒す逃げる倒す逃げる倒す…!)


 徐々に思考回路が、脳が停止していくのが分かる。

 さらにはもう一匹の怪物が、右手の方から強靭な尻尾で壁を剥し飛ばして来た。鋭い歯が目に焼き付く。どんどん窮地に陥るメランは、無意識に後ずさりしてしまう。二匹の怪物達は徐々にメランに近づき、喰らおうと襲い掛かる-。


(くそっ!)

「待て」


 中性的で透き通った声だ。その言葉に二匹の怪物達は行動を止め、大人しく引っ込んでいる。襲われると感じて目を閉じていたメランは、ゆっくりと目を見開く。すると、そこには-


「やぁやぁ」

「…なんだ、お前…!」


 馴れ馴れしく話しかけてきたその人物は、まるで友達にでも挨拶するように手を上げ、ゆっくり近づいてきた。見慣れない格好に、メランの警戒度は高まる。頬を嫌な汗が一筋流れる。


「ようやく見つけた」

「!?」

「君を、探していたんだよ」


 メランは一瞬固まる。その人物はメランの反応を見て、不気味な笑みを浮かべる。


「…どういう、ことだ?」

「フフッ」

「答えろ-」

「おや?…君の”それ”、まだ眠ってるみたいだねぇ」


 メランの胸の辺りを指さし、卑しむように言う。メランはさっきから何を言っているのか全く理解できず、強く眉をひそめている。


「なんだよ、”それ”って…」

「フフッ。眠ってるならぁ、無理に起こさなくてもねぇ…」


 相変わらず見下すような態度のその人物は、失神しているフェアに目をやる。笑みを浮かべて「いいこと考えた」と言うと、フェアの元に近づく。


「おいフェアに近づくな!」

「黙れよ」


 その瞬間、メランは腹に強烈な蹴りを食らい、脆くなった壁に激突する。衝撃により、メランの体はかなり麻痺している。その人物は、少しずれた仮面をクイッと修正し、フェアの顔を確認する。


「いいね」

「なに…がだ…」


 ゆっくりとフェアを持ち上げると、手に持っていた小さな装置から、別空間への入り口を作り出した。メランは抵抗して体を動かそうとするも、立ち上がらることすらできない。そんなメランをよそにそっと空間へ歩みだす。


「おい……フェア…を…どうする気だ…!」

「彼女は君の”餌”にするよ。彼女を助けたければ…ちゃんと”それ”、起こしてから来てね」


  そう言うと、その人物は別空間へと姿を消した。同時に全ての怪物達も別空間に消え、襲撃は嵐のように過ぎ去っていった。兵士や戦士たちは、市民の救援と消火活動に追われ、外は未だ人々が入り乱れている状態だ。


 -遠くの方から誰かの声が聞こえてくる。全身に力が入らない。視界が、徐々に薄れていく。誰か来た…。

あぁ…なんだか…眠気が-


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