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駄犬と化猫  作者: たうざー
第一章
5/7

第四話

編集履歴

*1月29日_章と話の使い方が逆だったので修正しました。



o(さっき別な場所ではオービタル・ストライクがされてたけど、あんまり意味なかったんだなー──)   

ヴィヴィスは岩陰から気づかれないよう慎重に頭を出し、様子を伺う。

敵はぱっと見6人……墜落船の中や仲間の死体を調べていた。

墜落し、激しく損傷している船体にかろうじて見える所属エンブレム。「Belge 25」さっきまで俺が乗っていた船だ。

数名生き残っていた仲間がSSU兵士達に墜落船から引きずり出され、一列に並ばされて地面に屈まされ、尋問のような事をされているようだった。

声が聞こえるか聞こえないほど距離のため、何を言われているのか分かり難かったが、どうやらこちらの作戦情報を引き出そうとしているようだった。

恐らく重傷を負っており、血や焼け焦げたような跡で、本来の軍服の色がわからない程に汚れているファルーシア兵に対し、SSU兵士は足蹴にしてみたり、銃床で殴りつけたりして痛めつけていた。


「酷い……あんな重傷者を……」


「クソ……武器さえ有れば……」


そう呟くが、実際には武器が有ったところでどうしようも無い状況だった。1対6人。それ以上居るかもしれない。

しかもこっちは負傷者が居る上に自分は新兵でまだヒトを撃ったことすら無い……そんなヤツに何が出来る?

数ヶ月間、苦しい訓練を共にした仲間が、目の前で同じ隊の戦友達が弄ばれているのを何も出来す、ただ見守ることしか出来ない

悔しさと不甲斐なさが入り交じる。

改めて耳を澄ますと、SSU兵(ヤツラ)の会話が薄っすらと聞こえる。


「何かあったか?情報は?」


「ダメだ。パイロットもコックピットも死体もみんなグチャグチャで情報は拾えねえよ」


「こいつらもダメだ。下っ端過ぎてロクな情報も持って無い」


「無駄足か……しゃあねえ。ヤツラが来ても面倒だ。始末してズラがるぞ」


SSU兵達はそんな話をした後に、数人がファルーシア兵に銃口を向けた。


「……ま、待ってくれ!殺さないでくれ!!」


銃口を向けられた兵士達が命乞いをするが、SSU兵士はそれを無視し、引き金を引いた。

激しい銃声が響き渡り、ファルーシアの兵士達は悲鳴を上げ血を吹き出し、倒れた。


「ああっ!」

「っ!バッカ!」


目の前で起きた容赦の無い残虐な光景に、つい声を発してしまっエリンの口を慌てて塞いだがSSUの兵士達は聞き逃さなかった。


「おい!声が聞こえたぞ!?まだ近くに居る、探せ!」


彼らの鋭い音感センサーにしっかりと捉えられてしまったエリンの悲鳴で、SSU兵士が叫び一斉にヴィヴィス達を探し始めた。

ヤバイ、今見つかれば確実に彼らと同じ末路じゃないか……!


「ご……ゴメンナサイ!私……」

「謝罪よりも一刻も早くここから逃げましょう!」


後悔しても始まらない、とにかくここを離れなければと思い、自分の脇に居たエリンを再びラビオリに載せるとコソコソと逃げ始めたが……


「居やがったぞ!!こっちだ!!」


早速見つかってしまった。

音感センサーは方向や距離もバッチリ補足していたようだ。

それともラビオリの巨体が仇になったのかもしれない。


「走れ!!」


エリンを載せたラビオリとヴィヴィスは一気にダッシュした。とにかく逃げなければ!!


「止まれ!!止まりやがれ!」


後ろでSSU兵士が叫んでいるが、お構いなしに走り続ける。

後ろで銃声が響き、パシッ!パチン!と耳元で銃弾が、高速で空気を切り裂く音が恐ろしく響く。

ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!!死ぬ!殺される……!!

ヴィヴィスは恐怖で泣き出しそうになりながら、必死に逃げた。

すぐ横を、エリンを載せたラビオリが並走している。

ラビオリは本来ならばもっと早く走れるが、おそらくヴィヴィスの事を心配しているのだろう。

だがこの状況ではむしろ危険だ。


「ラビ!お前のほうが脚が速いんだ!行け!俺のことは良いから!!」

「エリン!俺のことは構うな!!逃げろ!!!」


そう叫んだ瞬間にエリンを載せたラビオリは軽く頷き、一気にスピードを上げて走った。

エリンが何か叫んだような気がしたが、必死に走っているせいと以外に大きなラビオリの疾走音やその他もろもろにかき消された。

そしてヴィヴィスは”しまった”と後悔した。

──デカイんだから俺も乗れたんじゃないのか?

そう思った時には、ラビオリははるか3~40m先を突っ走っていた。


「クッソ!とにかく走って!死ぬまで走って逃げるしかねえ!!」

「幸いウェントウックはヒューマンより足は早いからなんとか……!」


そう自分に言い聞かせながら全力で走った。考えるのではなく、口に出して"言い聞かせないと"、あまりの恐怖に足がすくんでしまいそうだったからだ。

後ろからは銃声が、空気を切り裂く弾丸の飛翔音が追いかけてくる。

心臓は今まで感じたことがないほどに激しい鼓動を打ち鳴らし、激しい呼吸で喉が痛む。

数分間逃げ回った後、大きな岩場の側まで来たところで『ブスッ』という何かが刺さる感覚が背中に感じたと思った瞬間、強烈な電撃がヴィヴィスを襲った。


「あがぐががあ"あ"あ"あ"っ!!?」


全身を貫くように駆け抜ける電流に悲鳴をあげる。

射出式スタンガン……古くから有るスタンガンの一種で、バッテリーを内蔵した長さ約3cm、直径約1cmくらいの大きさの、乾電池のような電極を発射し、対象を離れた場所から感電させ無力化する装備だ。

基本、対象を行動不能にするための道具として市販されている物や、警察用と違い、捕殺両用の軍用は電撃の威力が数倍から数十倍強く、死人すら生き返らんばかりの……いや、殺さんばかりのショックを受ける。

電極を打ち込まれ、感電したヴィヴィスは全身の筋肉が硬直してしまい、走っていた勢いで前方向に激しく倒れた。

ゴロゴロと草地を転がり、全く体が動かせなくなった。

強烈な電撃で体毛が焦げる臭があたりに漂う。


「手間かけさせやがってこのクソ犬め」

「さっきのラビオリはどうする?なんか乗っけてたぞ?」

「デカ兎は見た目以上に足が速いから追いかけるのは無駄だろ、放っとけ」


感電の凄まじいショックで半ば意識は飛び、口から泡を吹いてビクビクと痙攣しているヴィヴィスの周りにはゾロゾロとSSU兵士が7人ほど集まってきた。

全速力で走っていたにも関わらず、ヴィヴィスは全く逃げ切れなかった。

それはそうだ、SSU兵士たちもエクソスーツで身体能力のサポートを受けていたのだ。

両腕を掴み上げられ、うつ伏せになった体をムリヤリ起こされる。

無理な体制で引き起こされる体が悲鳴を上げるが、痛みで叫ぶことも出来ない。

首をだらりと項垂れたままのヴィヴィスの前にファルーシア兵とは違い、全身を硬質な素材で出来た装甲服で身を固めたSSU兵士が近づく。


「さぁーて、このワン公は何を持っているのかな~?」


そう言うと、ヴィヴィスのPDA端末を取り外し、いじりだした。

しかし直ぐに壊れていると分かるとポイと放り投げ、次は服のポケットを漁り始めた。

バラバラと持ち物が地面にバラまかれ、それを手荒に漁り始める。

このSSU兵士共は何を探しているんだ?ただ作戦情報を知りたいだけなのか?

意識があまりはっきりせず考えがまとまらないが、コレだけは強く感じた。

俺はワン公でもクソ犬でもねえぞクソッタレ!


「おい、お前何のために来た?作戦くらい覚えてるんだろ?」


もう一人がヴィヴィスの前にしゃがみ込み、彼の頭の毛を掴み上げながら訪ねた。

無理矢理に掴み上げられる髪の毛がギリギリと痛む。


「……くそったれ……」


泡だらけで唾液まみれ、ろれつの回らない舌で精一杯の抵抗を試みるヴィヴィスだったが、SSU兵に装甲で覆われたしこたま硬い拳で思いきり殴られ再び意識が遠のく。

強化スーツで全力で殴られ、口や額が切れた。強烈な衝撃に悲鳴も上げられない。目の焦点も合なくなった、顎の骨も逝ったかもしれない。

唾液と共に血が流れる感覚を顔の毛が伝えている。

畜生め……なんだよ。。こんな所でオシマイなのか?俺は……

もっと……何か出来たはずなのに……

様々な思いがヴィヴィスの頭を駆け巡った。

走馬灯……ってヤツなのかな……

エリンは、無事に逃げ切れただろうか……?


「お、こりゃ何だ?オメーの家族か?それともツガイの相手かぁ?」


そう言って、所持品を漁っていた兵士が手帳に挟んであった写真の1枚を見せてきた。

ぼうっと霞む視界に入ったサリーの顔……俺の恋人と一緒に撮った写真……

そこで虚ろだった意識が急激に引き戻される。


「その写真に…………触るんじゃ……ねえ……!」


精一杯絞り出した声をかき消すように、SSU兵士達は騒ぎ出した。


「犬のクセになかなか美犬じゃねえか?おい」


「マジかよ、お前ベステア愛好家だったのか?」


「バカだな、ペットにするなら美犬の方が良いに決まってるだろうが」


「美犬でおバカな犬ほど可愛いってな!」


「「ギャハハハ!」」


クソッタレ共め……

SSUと言う国はヒューマンが統治する国家であり、ヒューマン至上主義。つまりヒューマン以外の種族にはほとんど権利が無いような国だ。

この兵士達がヴィヴィスの恋人をペットと言うのは、ベステア達の身分の低さを表している。

元々は銀河を統一した国家で「銀河連邦」と呼ばれた超国家で、それなりに成功はしていたらしいがベステアや"アビト"(亜人)とヒューマンとの間での差別や貧富格差が大きく、

過去、ヒューマン達の横暴な振る舞いを逃れるために多くのアビトやベステア達がヒューマンに対し抵抗してきたが、その全てが徒労に終わっていた。

その結果滅ぼされた種族、根絶やしは免れたが故郷の惑星を犠牲にされた種族などは少なくない。

その後にファルーシニアン達がベステア達の差別を無くすためにファルーシア自治政権を銀河連邦に提案し、成功するはずは無いと決めつけていた連邦は馬鹿にするつもりと、ユートピアを夢見るアビト達の心をくじくためにそれを承諾。

現在のファルーシア惑星系同盟を樹立し、多くの種族達がファルーシアへ移住した。

その結果連邦内での低賃金労働力のベステア、アビトが想定外なほどに不足し経済不安が激しくなり、銀河連邦は崩壊し現在のSSUへと変わった。

その時の恨みなのか、ファルーシアとベステアに対して非常に険悪な姿勢を取っていた。


SSU兵士達は一通り盛り上がった後に、目の前の兵士が笑いながら銃を手に取った。


「おい、もしお前の故郷に行って覚えてたら、俺がお前の嫁さん可愛がってやるよ。もちろん、俺のペットとしてなぁ」


そう言いながら、ヴィヴィスの額に銃を突きつけた。


「だからお前は安心して死んで良いぜ~?、どうせコイツだっていずれ死ぬんだ。先に行って待ってな」


ここまでなのか……こんなゲスいヤツラなんかに殺されるなんて…まっぴらゴメンだぞ、畜生!

心で思っても、スタンガンのせいでまだ体が動かなく、精一杯睨みつけてウウッと唸る以外何の抵抗も出来ないヴィヴィスには、最後の時をただ待つしか出来なかった。


が、彼は撃たなかった。

それどころではなくなったのだ

地響きを轟かせながらラビオリたちがヴィヴィス達に向かって突っ込んできた。

ラビオリの群れの中に、エリンを載せたヤツも居た。


なんで戻ってきたんだ!?


「ヴィヴィスさん!今助けます!!行けー!ラビちゃん達!!」


エリンがラビオリの群れを引き連れて戻ってきてしまったのだ。

俺を助けるために…?

つか、これ俺も巻き込まれないか??


猛烈なラビオリ達の駆け寄る足音と折り重なるように聞こえる独特の鳴き声には恐怖を覚える。

困惑するヴィヴィスだったが、SSU兵士たちは至って冷静だった。

一人がサッと手で合図をすると数名が無言で素早く並び銃を構え、ラビオリの群れに向けて容赦なく発砲した。

激しい銃撃にラビオリの巨体が次々と撃ち抜かれ、真っ白な毛皮を朱く染めた。

数丁のアサルトライフルから吐き出される熱い薬莢が草の上に次々と降り注ぐ。

先頭のラビオリが銃撃により脱落したせいで後続のラビオリ達も撃たれたり、倒れたラビオリにぶつかったり足を取られた。

次々と将棋倒しのようにゴロゴロと転げ、とうとう攻撃目標へとは届かなかった。

エリンを乗せたヤツも例に漏れずに思い切り蹴躓いて転がったため、エリンはSSU兵士の前に投げ出されるようになってしまった。

SSU兵士達はざわついた。


「おいおい、今日はツイてるじゃねえか?ラファニアンだ」


一人が嬉しそうな声で言った。



オウシット!テ○ザー!!

この世界のヒューマン、特にSSU側の人たちはゲスが多いです。



【用語】

・アビト。亜人の総称。

・オービタル・ストライク(OS)。惑星の衛星軌道上からの宇宙船、攻撃用衛生等による軌道上砲、爆撃の事。

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