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駄犬と化猫  作者: たうざー
第一章
2/7

第一話

*当作品ではオリジナル性を出すためにファルーシア軍の使うフォネティックコードをオリジナルの物にしております。NATOコードに慣れている方々には違和感を感じると思いますが、ご容赦下さい。コード表は別に投稿致します*

*また、数字はファルーシア国の公用語が日本語メインとサブドイツ語と言う設定のため、基本日本語読み、またはドイツ語読みとなりますので、脳内補完してあげて下さい*


*後書きにて当作で出てくる用語や設定を記載しています*


編集履歴

*1月29日_章と話の使い方が逆だったので修正しました。


第一章 『初陣』 第一話



銀河基準2956年。14月──           

ファルーシア惑星系同盟領内、惑星ダルク奪還作戦開始から約13時間。

惑星時間、14時丁度。


上空約500kmより降下作戦中の降下船内。

初めまして、俺はヴィヴィシュラコフ・スウルガ……皆からはヴィヴィスと呼ばれている、惑星アクラス出身の"ベステア"で31歳……ちなみにベステアってのは今の時代の獣人の総称。

今は軍の最新鋭の装備で身を固めている俺だけど、つい数年前まではスーツとケータイ電話、営業鞄が俺の装備だったんだ……

3年ほど前に、俺の住んでいる国が……ああ、『ファルーシア惑星系同盟』って言うのが俺の国ね。『ファルーシア』とか、『FPSA(エフピーエスエイ)』とか言われてる。

その俺の国が、隣国の『太陽系連合』と言う、またの名を『SSU(エスエスユー)』と呼ばれて居る大国と戦争になった。

当時の俺は出張の多いサラリーマンやってて、戦争が始まる時には故郷から遠く離れた惑星に出張中だった。

故郷のアクラスはSSUとの国境と近かったため早々にSSUに占領されてしまい、早速俺は戦時難民になってしまった……

それから2年間、次々に蹂躙されていくファルーシアのニュースを見つつ、先行きの不安と苛立ちの中ボランティアや日雇いの仕事で食いつなぎながら過ごしてきた。

我が国は軍隊を持たない、平和主義のお国柄だったおかげでSSUの連中に良いようにされ続けていたが、俺が入隊する1年くらい前、ついに国家を守る正規軍が設立された。

それから1年たって軍隊がようやく組織され、SSUを叩きのめしに行ったんだが……

何せ全くの平和主義で、軍組織や戦闘のノウハウの全くない上に、兵士達はたったの1年チョイの訓練しかしてない、民兵に毛が生えたような連中ばっかりだった。

元々ファルーシアは科学技術とかそう言うのでは銀河一だったから、装備や兵器は高水準で当たりさえすればSSU軍なんて屁でも無い……のだが、扱うニンゲンがヘナチョコで、その性能を生かし切れてなかった。

おかげで敵を叩き出す役目のはずの正規軍が逆にSSUの精鋭さん達にフルボッコにされてるってため息の出る状況。

こんなんじゃあいつまでたっても故郷に帰れない。んじゃあしょうが無い俺もお国のために……ってワケだ。

ちなみに初期戦力があまりにもやられまくるんで俺たちなんかは入隊してほんの数ヶ月しか訓練してないほぼほぼ「一般人」が武器持ってるような状態。

軽率だって?そんな事は百も承知だよ。

だけど、何にもしなくたってヤツらに殺される未来しか待ってないんじゃあ、せめて一矢報いるため……一歩でも家に近づくためにと思って志願したってワケ。

俺たちベステアは、ヒューマンにとっ捕まったら良くてペット、悪くて奴隷。

最悪なのはヒューマンからはベステアは人権ナシとみなされてるから……ヤツラのオモチャにされて……なぶり殺し……最低だよマジ。

何にしても生きて家に帰れるか、死んで帰るかはその時の運しだ……


『降下目標地点まで約10分、総員戦闘準備!!』


おっと、俺の解説はここまでだ……へへ……初めての戦場か……キンチョウ……するね。


……どうか……生き残れますように──


薄暗い降下船の室内灯が点灯し、薄暗かった船内に光が灯る。

先ほどのアナウンスと共に乗船してた兵士達、30人ほどがシートを立ち上がった。

座る者が居なくなったシートは自動的に床や壁に収納され、船内にはエンジンの奏でる強力な咆哮音と風を切り裂くが響き渡っている。

外壁が多少軽減してくれてはいるが、それでも通信機を使わなければ大声で叫ぶように喋らなければ相手に聴こえないくらいに煩い。


「総員、装備点検。およびシステムをチェックしろ!」


隊長の指示が全員のヘッドセットに響き渡り、みなゴソゴソと互いの装備のチェックを始める。

ファルーシア軍一般歩兵。通称「軽歩兵」部隊はこれから惑星奪還作戦のために目標へと飛行する船の腹の中にすし詰めにされていた。

胴体のバイタルパーツを護るように硬質とも軟質とも言い難い特殊な素材でできたアーマーと脚部と腕部、それを繋ぐ背部の強化外骨格。(エクソスーツ)

背面には様々な装備や戦闘やサバイバルに必要な必需品がぎゅうぎゅう詰めになったバックパックと、彼らの一番の相棒であるG-11A6アサルトライフルがずっしりと肩に食い込む。

胸部には万が一の脱出用のパラシュートが加わり、兵士たちの体をより窮屈に圧迫していた。

兵士たちの耳に付いたヘッドセットのイヤホンから大声が漏れる。


「全員、チェックしつつ聞け!俺たちの任務はまず、後続部隊のための降下地点およびその周辺の確保だ!」

「SSUのクソッタレ共は俺も含めファルーシア兵の何倍も練度が高く、非常に手強い!」

「だが、俺たちにはヤツラをも凌駕する最高のテクノロジーに支えられてる!ビビるな!!お前達のタマを見せてやれ!!」


隊長はそんなありきたりの煽り文句で全員を激励し、士気を盛り上げた。

しかし大戦初期から従軍している数少ない古参兵はともかく、大多数の新兵たちはみなその怒号も右から左でほぼ聞いていなかった。

と言うより、聞き取る余裕がなかったのだ。

今の時代の兵士というのは、様々な環境による行軍が想定されるために、数年をかけて「一般人」から「殺人マシン」へとゆっくり「教育」して行くと教わったが、先にヴィヴィシュラコフが説明したとおり、ファルーシアは大国であったにも関わらず軍隊を持たない非戦主義の国家だったために「軍人」は一人も存在しなかった。

ファルーシアの兵士たちは皆志願兵だったために士気は高いものの、精神的な所は一般人とあまり変わらないのが現状だ。

戦場に蔓延する多くのストレスに耐えられないものも少なくない。

そして今、彼らは死の待つ地獄へと赴こうとしている。

緊張しない訳がない。

荒い息遣いや、激しい緊張のあまりこみ上げる嘔吐感を抑える呻き声が時たま聞こえる。

ヴィヴィスも例外ではなかった。

犬系ベステアである彼は体の大部分に汗腺を持たないために汗はかかない。

その代わりに体中の体毛が緊張に合わせて膨れ上がり、服や装備を余計に窮屈に感じさせている。

呼吸も犬がする「パンティング」のように荒く、激しい。

唯一汗をかくのは手のひらと足の裏などの体毛が生えていない部分のみ。

握りしめた手の中に汗が溢れ、手の甲の毛に染み込んでいく。


「おい、大丈夫かルーキー?」


ヴィヴィスの後ろの兵士が心配して声をかけた。


「あ、ああ!緊張で体毛が逆立ってゴワゴワするけどな!」

「ハハ、ベステアは大変だな。大丈夫だ、もっとリラックスしろ」

「あ、ああ。サンキュー」


その兵士はいくつか戦場を渡ってきた兵士なのだろう、ヴィヴィスの肩に手をかけ、彼をゆすり励ました。

彼は確か、最近この部隊に下士官として転属された経験豊富な兵士だった。

ええっと……ヴィヴィスはまだ彼の名前を覚えていない。


『3分前、降下ハッチを開けるぞ』


アナウンスと共に降下船の後部ハッチが開き、屋内灯の明かりよりもずっと強烈な眩しい光と共に惑星ダルクの景色が目に飛び込んできた。

ヴィヴィスは降下ハッチのほぼ目の前、最前列付近に居たために急に差し込む光に目がくらみ、強力な風圧によろめき更に体毛が逆立った。

生まれ故郷のアクラスはかなり都市開発されており、あまり豊かな「手付かずの自然」は残っていなかった。

そんな故郷とは違う大地の深緑と空の蒼さの美しいコントラスト。

戦争が無ければ良い保養地として来たいような、自然豊かな景色。

だが、上空の味方艦隊からの砲撃の影響なのか、立ち上る黒煙の幾つもの束。

遠くの空域で行われている制空権争いの空中戦と思しき飛行機雲や爆発した何かの雲……

その全てが「ここは戦場なんだ」と皆に伝えている。

全員が緊張し、呼吸が更に荒くなる。

堪らずに嘔吐する者も居るようで、後ろの方で汚い音が聞こえた気がした。


「よぉーし!お前ら出番だ!じゅn……」


隊長が言いかけたその時、一瞬何かが焦げるように「ジュッ」と言う音が聞こえた気がした。その直後に大きな爆発音が耳を劈き、それと共に機体が大きく揺れ、傾き、その時の衝撃で多くの兵士がバランスを崩し、倒れた。


「うおぁああっ!!」


その中でも一番ハデにころげたヴィヴィスが跳ね上げられ、そのままハッチから転がり落ちてしまった。

隊員たちはみなエクソスーツの靴底にある電磁石により機体に吸着していたために倒れたり、よろけるだけだったが、ヴィヴィスは初陣の緊張によりうっかり磁石を作動させることを忘れていたのだった。

目の前に手を伸ばすが届かなかった隊長と仲間たちの顔が、さっきまで乗っていた降下船が、エンジンと機体から黒煙と炎を上げているのが見えた。

もの凄い速度で飛行している降下船は被弾の影響でふらついてはいるがあっという間に100m以上彼方に飛んで行ってしまう。


「ま、マジかよ!?ふざけんな!!」

「なんで俺が…」


悪態をつくヴィヴィスの目の前で、降下船がレーザーのような、ず太い光線に貫かれ大爆発し、錐揉み回転しつつ墜落していく。

脱出する仲間が見えない……機体が回転している影響で脱出出来ないのだろうか。


「……みんな……!」


他の降下船や護衛機は様々な方向にさっと回避行動を取ったが、他の船も次々に光線に貫かれ撃墜されて行く。

ヘッドセットからは他の被弾した降下船の救難通信などがノイズ混じりに飛び交っていた。


『こちらファルケ44!"デルベ"へ降下中のシュラウヒ24から27が撃墜された!!敵は強力な対空兵器を展開させているもよう!』

『また、護衛のファルケ42と47もロスト!僚機のベイル・アウトを確認!救助を要請する!繰り返す──』


機動力が降下船よりも遙かに高い護衛の戦闘機もいくらか撃墜されたらしい。

まあ、レーザーならばいくら機動力が良くても文字通り光速で打ち込まれる高エネルギーなのだから致し方がないのだが……

突然の緊急事態に、あたふたともがく以外何も出来ず落下するヴィヴィス。彼のエクソスーツのAIが、自動的に緊急用パラシュートを開くが、運悪くバックパックに絡まり、上手く開かなかった。

通常のパラシュート降下任務で有ればパラシュートは後ろに背負うのだが、ヴィヴィス達は降下船が地上に着陸し、展開する予定だったため、背中では無く前側に万一の時用の緊急パラシュートが付いていた。

通常落下するであろう仰向けや伏せ向きでの実験では問題は無かったが、ヴィヴィスの場合は投げ出された関係上、不規則な動きで落下していたためにパラシュートが開くときに絡まってしまったのである。

バランス悪く開かれたパラシュートの影響で、ヴィヴィスの体はぐるぐると回り出す。


「クソっ!悪いことは連続かよぉっ!!」


ものすごいスピードで地面が近づいてくる中、ヴィヴィスは必死に引っかかった部分を外そうと試みる。


「クソっ!クソっ!! 開け!開け開け!!」

「墜落死とか、そんなアホな死に方してたまるか!!」


必死にもがくが、パラシュートは外れない。迫る地面に、次第にパニックを起こし始める。

センサーが安全高度を超えたことを知らせるアラームを鳴らした。


o(──そうだ、バックパックに引っかかってるならバックパックを外せば良いじゃないか!)


思いついた妙案を直ぐに実行に移し、バックパックのホックを外した。

風圧とパラシュートの開く圧力で重いバックパックと相棒のライフルが何処かへと吹き飛んでいった。

パラシュートが開き、急減速する『G』を受け、一瞬ホッとしたが、遅かった。

減速するには高度が低すぎたのだ。

勢いの早いまま大木の上に落下したヴィヴィスの体は、バキバキと木の枝を次々に折りながら落下。

だがパラシュート部分が木の上まで届いた瞬間にがくっと落下が止まり、その時の衝撃でパラシュートと体を繋いでいたフックが壊れて外れ、勢いよく地面に叩き付けられた。


「がっ……!」


地面に落下した衝撃で思わず漏れた悲鳴の後、ヴィヴィスは動かなくなった。

惑星ダルクの豊かな自然を背に、撃墜された味方機の煙が遠くに揺らめいていた。






ヴィヴィス君の運命やいかに!?





駄犬と化猫:用語、設定集


【設定】

・銀河基準。各惑星による暦や時間の違いを適応しない暦の事で、1年が24ヵ月とされている。


【用語】

・ベステア。獣人の総称


強化外骨格(エクソスーツ)。ヒトの活動支援をする機械で、名前の通り四肢と体をつなげた骨組みのような物。身体能力の限界を超える動きや力をサポートすることも可能で、軍民問わずこの機械のお陰でヒトの出来うる可能性を大きく向上させている。近年のSF作品の映画やゲームではよく見られる機械。


・G-11A6アサルトライフル。現実世界のH&K社製G-11…では無く、オリジナルのブルパップ式ライフル銃。11.7mmの大型弾を使用するがリコイル反動は軽く扱いやすくして有るが、弾薬の大型化のせいで装弾数は25発。

 連射速度もそこまで早くはないが、その分精度に優れている。弾頭が大きいために、弾頭内に炸薬が少量ながら入っており、殺傷能力を高めている。


降下船ドロップシップ)。衛星軌道の宇宙艦隊から惑星制圧用の部隊や兵装の行き来を担当する大型の輸送機。単体での大気圏突入、離脱が可能な強力なエンジンを積んでいる。

 敵地への強行着陸等も想定されているために通常の飛行機よりも重装甲で頑丈な作りになっているのが一般。

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