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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§3.アリエラ6歳、念願の初外出
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魔女っ子になります!

とりあえず書けた分を投下。幼女が可愛い子ぶりっ子している。





「うわわ……重たっ……」


 おじいさまからの厳重注意を受けた後、リチャード様からのお呼び出し。もちろん、ここの主人であるウォルター様も同席です。

 きな臭いものを感じられたのか、おじいさまも合流。


 見物と監視の中で、フォースター家の遮光装備を渡されます。

 で、第一声が「重たい」です。

 そりゃあ、覚悟はしていましたよ? 光を通さないためには、網の目を密にするのが基本でしょう。たとえそれで、通気性が犠牲になるとしても。重くもなるでしょうとも。

 しかし私が6歳児であるという現実を鑑みても、相当な重量です。


「軍人の装備故、文弱にはちと荷が重かったかな、わははは」

「こっ、この程度、すぐに元気になって着こなしてみせるのです!」


 リチャード様のあからさまな挑発に、ホイホイ乗っかる程度には、私はお子さまです。元気になる方向なのですから、お目こぼしくださいまし、おじいさま。


 もたもたしながら、布を広げていきます。

 重い道理です。三層構造。

 多分、一番内側が衛生面を考慮した肌着を兼ね、二番目が冬用の断熱層、一番外側が遮光機能を最も重視した層、と推定。ぱっと見何に似ているかというと、暗幕ですね。


 灼熱のユリゼン大陸で、冬用の断熱層なんて……と一瞬思ったわけですが。

 ユリゼン大陸北部は、中緯度高圧帯に位置します。つまり、年間を通じて亜熱帯高圧帯にかかっているため、どうあがいても砂漠気候。そして砂漠といえば、灼熱の昼と極寒の夜。日較差の地獄です。

 つまりこれも必要だからついてきたのですね。


 手間取りながらも、装備を羽織ります。

 羽織りながら、魔女みたいだなぁ、と思いました。


 ただでさえ赤毛のアルビノア人の女子なんて、大陸の人々からすれば魔女扱いされる要素たっぷりなのに、さらに光線過敏症かつ黒い外套なんて、もはや存在が自殺行為の領域ですよ。東部アーソナ地域の迷信深い人々に近づいたら、私刑待ったなし。


 殺されかけたらさすがに殺す。うん。正当防衛ですよ仕方ない。

 もしも襲われたなら、サーマス大陸より渡来せし激辛唐辛子をもって、暴漢どもの目と鼻と口に、生存を後悔するほどの苦痛を与えてやりましょう。素手で触っただけなのに皮膚が痛いらしいです。うちの料理人いわく。もはや完全に劇物ですね。


 とりあえず、袖が長すぎるし、裾も長すぎるし、私のサイズには合っていません。

 軍人用装備のサイズそのまんまを渡されたのですね……重いわけですよ! シーツお化けならぬ暗幕お化け状態。ついでにフードもかぶってみます。


「……おうふ」


 前が見えない、なんてレベルじゃありません。幼児の小さめサイズな頭は、まるで風呂敷に包まれたスイカのように、くるみこまれてしまいました。

 しかし、気配だけでも十分に分かりますよ……今、リチャード様とウォルター様が、必死に笑いをかみ殺そうとしているのは……!


「今後の成長に合わせて、ある程度は融通が利くように丈直しだな」


 リチャード様、声から笑いが全く隠せておりませんよ。

 ウォルター様も、同罪ったら同罪です!

 まだ幼いだけなのです。今後は大きく育つ予定なのです!




 寸法直しのため、袖や裾に待ち針を打たれつつ、むすっと膨れています。台の上に乗せらせて、あっちこっちを測られております。


 しかし、私の膨れ顔など、肝の太い実戦派軍功貴族にとっては、子猫のパンチほどの効果もない様子。グヌヌ……ふしゃーっ!

 口を尖らせれば尖らせるほど、おじさま方のニヤニヤが深まります。おのれぇ……


「アリエラ様、両手を高い高いして下さいませ」


 エクセター伯爵家の使用人か、ドーヴァー侯爵家の使用人か、それとも職業針子さんかは知りませんが、私をお子さま扱いしないでください。少なくともそこまでのお子さまではないですよ!

 あとウォルター様、もう笑っているのを隠す気、完全にありませんよね!


 指示されたとおりにバンザイ状態になると、すぽっとマント(仮)を脱がされます。


「それでは、可及的速やかに仕立て直して参ります。切った布は、今後の寸法直しで必要ですから、あわせてお付けしておきますね」


 くるくるっ、と手際よくマントを畳んで、針子のお姉さんはにこやかに微笑みながら、滑らかなお辞儀とともに部屋を出ていきました。裾捌きも鮮やかで……って、そうじゃない!


「リチャード様と、ウォルター様の、いじわる!!」


 使用人の前では吐けない暴言を、ようやく吐き出せました。

 しかし、私の抗議に返ってきたのは、大笑いの三重奏。

 ……おじいさまの裏切り者ーっ!


「好きで小さいのではないのです!」

「いや、いや……その可愛さは今だけの特権だと思うぞ、わしは?」

「好きでぶかぶかだったのではないのですからね!」

「実に愛らしかったですよ、アリエラ嬢」

「そんなことを仰ったって、私は丸め込まれませんからね!」

「諦めろ、チビ」


 ふしゃーっ!!

 さながら歴戦の獅子と子猫。リチャード様とは勝負にすらならない……

 まったくもう。チビにチビと言ったらチビは傷つくんですよ。

 収まらない腹立たしさを、クッションをべんべん叩いてぶつけます。


「ぐぇっほ、げほっ、がほっ……」


 叩き出された埃が、呼吸器にダイレクトアタック。アッ……


「馬鹿者。何をしておるんだ」

「もっ、申し訳……げほっ、げほっ……」


 おじいさまが、すぐに肩をさすって下さいます。

 あと、この期に及んで、まだお腹を抱えて笑っているリチャード様……許しませんよ。


「ほら、ゆっくりと息をして、はい」


 ウォルター様が、コップに水を注いで、渡して下さいます。

 イケメンなお姉さまのお父さまは、やはりイケメンなのですか。

 レモンの味がほんのりとするお水を、ゆっくり、ゆっくり飲んで、喉を落ち着けます。


「大人びているようでいても、やはりまだまだ6歳ですね」


 ウォルター様のお言葉に、ええ、返す言葉もございません。

 前世より頑丈な体になっていたので、油断しました。あと、常日頃の自分が、どれだけ入念に整えられた衛生環境にいたのかも、改めて痛感しましたよ。




 そのまま寝オチして起きたら、仮縫いが終わっていました。

 さすがプロフェッショナル。仕事が早い。


「体が動かしにくいとか、気になる点はございますか?」

「今、確かめていまーす」


 腕を上げて、ぐるぐる回して、歩いて、足を上げて、下ろす。

 両腕を上げて、右ひじを左手でつかんで、正面を向いたまま、体を左へ倒す。

 立位体前屈から、状態を後ろにそらして、そらして……

 そのままブリッジは、さすがに無理か……いえ、服ではなく、私の柔軟性の問題で。


「問題ありません」

「では、本縫いにかかりますね。明日の昼前には仕上がるでしょう」

「早い……」

「ミシンという文明の利器がございますので」

「なるほど」


 最後の仕上げに、フードをかぶってみます。

 おお……今度は視界もバッチリです。

 脱ぐ前に、姿見の前でくるくる回ってみます。うふふ。

 ついに、フォースター家の遮光装備を、手に入れましたよ!


 魔女っ子感が大変なことになっているのですが、まぁそれはそれ。

 いっそ占い師っぽくしてみましょうかね……おじいさまに商売上の恨みを持っているであろう人々を、なんか石の神秘的パワー信じています感を演出することで、煙に巻k……

 いや、どうしようがこうしようが、私が赤毛という事実は揺らがないのでした。


 でもまぁ、面白いので、占い師コスプレ的な、アクセサリーのデザインは起こしてみましょうか。ジュエリーまでは別にいいでしょう。アクセサリーで十分です。

 月の満ち欠けとか天体モチーフとか突っ込んで……まぁ天文学については、まるっきり無知なんですけれども、私。ここは地球じゃないから、仕方ありませんよね。


 うーんと、たしか、この恒星系の惑星は、8つぐらいあるはずです。

 太陽系では、ハーシェルの天王星発見が1781年。

 今は王国暦804年。推定1800年代半ばだから、天王星ぐらいの距離の惑星なら発見済みでしょうか。海王星の発見は1846年だから、発見されているかどうかは結構ギリギリの線。


 その外側の天体となると、これはもう無理でしょう。あったとしても、機器の観測能力的に。

 この星を地球的な環境にするために、木星的な惑星と、土星的な惑星を設定して、共鳴や何やで、微惑星や原始惑星を散々に振り回した記憶はありますが、外縁部の天体についてはあんまり手を入れませんでした。さて、どうなっているのやら。


 いえ、適当なのは仕方のない話ですよ。細かい演算はコンピュータでやりましたもの。

 むしろ恒星系の形成から惑星の誕生、地殻変動から生命の進化まで、コンピュータなしで計算できたら、もはやその人は、ジョン・フォン・ノイマンよりも人間を卒業していますよ。宇宙人だからノーベル賞の対象外なんだ、といわれたあの大天才。

 ウェンディなんて、所詮飛び級ができる程度の秀才。


 中の女子大生は別に天才ではありませぬ。

 だからこそ、このアルビノアで「学術貴族」の地位を確固たるものとするためには、できる限りの実地調査フィールドワークを含む研究業績を積まねば……手を抜いていて何とかなるほど、学術貴族の世界は甘くない!


 遮光装備はゴールではありません。スタートなのです。





いわゆる「地学」の、ほぼ全ジャンルを網羅する予定のこの話は、もちろん天文学だって範囲に含んでおります。


すなわち、地質学・地史学・古生物学・層序学・堆積学・構造地質学・岩石学・鉱物学・宝石学・鉱床学・地震学・火山学・海洋学・気象学・自然地理学・地形学・水文学・気候学・測地学・土壌学・雪氷学・天文学。

隣接分野として、人文地理学・文化人類学・考古学・歴史学・民俗学・言語学を含みます。そして話の展開として、政治学と経済学をごく微量。

……改めて書き出してみるに、狂気の沙汰の領域ですな。


でもみんな根はつながっているので、そんな困難ということはない。多分。

世界の歴史が違うので、宗教学と哲学は控えめでいく予定ですが、まぁ倫理学は出てくるので、理科と社会科のほぼすべてを突っ込むことになるかと思います。

MAXでも大学の一般教養レベルの予定だから、まぁ何とかなる。きっと。


ところでこの星というか世界の名前が、いまだに不明であるという楽しい現実。

固有名詞的な世界名なんかあるわけないんやで。

だって「ここの他に世界がある」と思うから、識別のための固有名詞が必要になるのであって、唯一神教のイスラームでの「アッラー」が実は普通名詞である感じに、世界は世界でしかないんやで。


アッラーといえば、イスタンブルのモスクの中で礼拝を茶化している日本人観光客を見かけて、引きずり出して警備員に突き出したろうかと、どれほど思ったか知れない。

海外に行くというのはだな、自分の一挙手一投足が、自分にパスポートを発給した国家のイメージになる! というぐらいのつもりでかかるべき案件なんだぜ。

あれでトルコの対日感情が悪化したらどうしたんだろう、連中……


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