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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§2.いよいよ6歳のアリエラ、波乱のお誕生日会
53/102

お兄さまとお姉さまと





 パーティーの夜が明けて、私はいつもより寝坊しました。

 だって、昨日はあまりお昼寝できなかったんですもの。


 ムニャムニャごねていましたが、やがてばあやに起きていることを見破られ、お風呂に引きずられました。

 はーっ、本日の精油はラヴェンダーですね。


「お疲れでしょうから、今日はゆっくりお休みしましょう……」

「はぁい」

「と、申し上げたいところですけれども」


 えっ?!


「おはようございます、おじいさま、お兄さま……お姉さま」


 まさか、まさかの。

 エレンお姉さま、クライルエン滞在延長。


「おはよう、アリエラ」


 三者三様の声で、にこやかに挨拶を返されます。

 お兄さまが、見るからにご機嫌斜め。


「昨日は、非常に興味深い発表を聞かせていただき、良い経験になりました」


 お姉さまが、優雅な手つきでパンにマーマレードを塗りながら、そう仰います。

 お兄さまが、ふん、と不満げに鼻を鳴らされました。


「エレン嬢にも、理解できたのですね」

「ええ。アリエラ嬢が私の指導教官なら、学校の成績はもっと良くなるだろうと思われるほど、非常に分かりやすい説明でしたよ。それとも、アラン殿は、妹君の発表を、それほどまでに拙い出来だったとお感じで? いや、学術貴族の世界というのは、我々軍功貴族には推し量れないほどに厳しいのですね」


 チクチクやり合わないで下さいまし! お兄さまも、お姉さまも、大人げないですよ!!


「いつの間にか妹の『相棒』になっているなんて……」

「学術貴族同士での『二人一組ツーマンセル』は、法律で認められていないのですから、軍功貴族の私が指名されるのは当然のことでしょう?」


「私の可愛い妹に……」

「私にとっても、可愛い妹になるのですがね。あと、あなたも私を『お姉さま』と呼んだって構わないのですよ?」

「願い下げだ」


 この、お子さま同士め。

 私はわざと、バァンと音をたてて、食卓を叩きました。


「お兄さまも、お姉さまも、喧嘩をなさったら、嫌いになります!」


 幼女特権を発動!

 ぷっくり頬を膨らませて、不服の図。


「いや、すまない、アリエラ……だが、エレン嬢が……」

「悪かったね。アランが冷たいものだから……」

「お兄さま? お姉さま?」


 二人揃って、すみませんでした、と幼女に頭を下げる、の図。

 幼くて可愛いは正義なのです。ふふん!




 真面目に食事を再開したところで、おじいさまが口を開かれました。


「ところで、エレン。ジェラードは息災のようだな」

「ああ、大叔父上ですか。ええ、お元気です。いまだに子どもたちの戦争ごっこで、指揮官の座を取り合いしていますよ」


 大叔父ということは、おじいさまぐらいの年というわけで。

 それで子どもと戦争ごっこでやり合っているというのは、元気を通り越して、もはや大人げないような気もするのですけれども。


「えっと、その方は、おじいさまのお知り合いですか?」


「ああ。ジェラード・ラトウィッジ・ベッラ=カエラフォルカ。私の二代目の『相棒』だった男だ」


「二代目?」


「うっかり者でな。気のいい男なのは認めるが、やや突出しすぎる癖があって、エスターライヒでの仕事の最中に、少々厄介事が起きたのだ」


 もう聞かなくても分かりましたよ。ええ、分かりました。

 それで三代目になった、というわけですね。


「初代はエレンの……祖父の従兄だな。すでに故人だ。三代目は、アミカ=カエラフォルカ家の人間で、それでわしの国外活動の『相棒』は全員だ。以後、わしは国外に出ることは、原則的に禁止されている」


 えっ?!

 それは初耳なのですが……本当に?


「アルビノア王国にとって、欠くべからざる人材になったと判断されすぎると、国外に出ることもできなくなるのだ。昨日、お前やリテラ=チェンバレンのロイドが言っていたように、アルビノアの宝飾品取引は、一度の取引が高額になる、非常に信用が重要な産業だ。わしは、存在そのものが、アルビノアのジュエリーの『信用』だと見なされたのだよ」


 なるほど。だから、軽々に海外に出ることもできない、と。

 学術功績を上げすぎるのも問題なのですね。


「たしかに、わしは宝石を金銭的価値だけで見るのを好かない。だが、宝石がその希少さ故に高価であるのは理解しているし、だからこそ重要な取引品目になっていることも分かっている。この地位になってしまうと、関係各所の顔をつぶさないよう、個人的な発言をすることも憚られる……『クロード・ダイアモンド』のこともそうだ。ジルコンだと言いたいが、この名前の方が売れると言われれば、産業の観点から何も言えない」


 首を傾げていると、おじいさまが、そっと微笑みを向けられました。


「だから、昨日のお前の発表は、わしの言いたいことを言ってくれた部分もあって、とても嬉しく思った。ありがとう、アリエラ」


 とんでもない!

 だって、ジルコンはジルコンとして美しいですし、スピネルがスピネルとして美しいのは、当然の事実ではありませんか。


「手が止まっている。食べなさい」

「はい」




 確認したところ、『相棒』というのは、アルビノアの貴族社会の重要なしきたりのようです。

 なので、学期中でも『相棒休暇』なる休みが取れるようで、エレンお姉さまはそれを使って、学期中なのにこちらへ来られたとのこと。


「学術貴族が国の要であることを、我々はよく理解しているさ。少なくとも、私は分かっているつもりだ。ジェラード大叔父上は、うっかり者で、間抜けな所のある、そそっかしい粗忽者だが、それでもクロード・アルステラ教授のことは、心から尊敬しているんだ。その孫娘の『相棒』に指名されたというので、喜んで送り出してくれたよ」


 ジェラード様、その、ボロカスに言われ過ぎではありませんか?

 似たような形容が並ぶあたりに、どういう系統のポンコツさんなのかが、よく伝わってきますけれども。


「国土が狭く、資源が限られたアルビノアを、強国たらしめているのは、アルス家系を中心とした学術貴族たちの、血のにじむような努力によって積み上げられた業績だよ。植民都市からもたらされる富も、貿易の益も、アルビノアに強みがあるからこそだ。そして、アルビノアの強みとは、人材であり、その人材とは、つまりは学術貴族だ。幼いころから聞かされてきた」


 滔々と、エレンお姉さまは語られます。


「『ウェルスフォルカの悪夢』の時、学術貴族は一家系も王家に反抗しなかった。王家に刃向った軍功貴族はすべて没落したけれど、アルビノアの繁栄は曇らなかった……つまり、軍功貴族の替えなんて、いくらでもいるということさ。だが、優秀な頭脳は、そう易々と替えは利かない。頭を守るのが、我々手足である軍功貴族の任務さ」


 お家の任務を理解し、気負うでもなく淡々と、口の端にソースをつけたまま語られる姿に、お兄さまも矛を引っ込められました。

 右、右です……もうちょっと下……


「守る頭は可愛らしいほど、頑張る気になれるというものだね」


 ソースを拭きながら、さらっと爆弾発言をなさるお姉さま。

 発言の女たらしっぷりが、昨日から止まりませんね。


「……おじいさま、私の『相棒』候補は、決まっているのでしょうか?」


 ワナワナふるえながら、お兄さまが確認されます。

 お姉さまの関係者だと、何か不都合があるのでしょうか?


「いや。男の軍功貴族は、通常は軍人になるからな。まだお前の『相棒』については、検討を進めていない」


 女性で軍人になる人材は希少なので、お姉さまを優先確保した、と。

 なんだか、お兄さまを差し置いたようで、申し訳なく思います。


「……今後、私も『相棒』を探しても、よろしいでしょうか?」

「候補については連絡するように」

「分かっています」


 一族の代表は、今はお父さまですが、お父さまが長期海外出張中なのですから、おじいさまの意見が重要になるのは、当然ですね。

 そういえば、海外出張している、ということは、お父さまにもどなたか『相棒』の軍功貴族がいらっしゃる、ということですよね?


「おじいさま、お父さまの『相棒』は、どちらの家の方なのです?」

「アルマ=チェンバレンだ」

「では、お母さまの『相棒』は?」

「ルビーナには、正式な『相棒』はいない。あれは基本的には国内の調査にしか従事しないからな」


 うわぁお……お兄さまどころか、お母さままで差し置いていました。





エレンは、イケメンソウルが女体に宿った存在だと思っている。

ただし、ちゃんと自分が女子だという認識はあるし、武人女子として生きているけれど、ゆくゆく誰かの嫁になるというつもりはある。

でも絶対、自分に武術で負ける男に嫁ぐ気はない。

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