表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§2.いよいよ6歳のアリエラ、波乱のお誕生日会
51/102

カエラフォルカの麗人

逆ハーレムもどきを加速。あくまでも「もどき」であり、モテモテにはならない。





 スタンフォード商会の未来の幹部候補生と、キャアキャア盛り上がっていたら、やはりそれなりに人目に付いたようで。

 にこにこ笑顔に、まったく笑っていない目を光らせて、お兄さまが。


「アリエラ、あまり一人の方とばかり、お話をするものではないよ?」


 シスコンの気配を察知しますが、仰ることはごもっとも。

 なので、丁寧に礼をして、ユージーンとの会話を切り上げます。


「彼は、スタンフォード一族なのです」

「知っているよ。ユージーン・スタンフォード……将来は、技術部門を統括する存在になるだろうね」

「ご存じでしたの?」


 びっくりしていると、もちろんだとも、とお兄さまは頷かれました。


「お前に危険な者が近づいてはいけないからね。身の上は全員調べてあるし、顔と名前と経歴は、すべて一致させているよ」


 警備上の理由とも言えるけれど、素晴らしくシスコン!

 いえ、私には、シスコンなぐらいのお兄さまで、ちょうど良いのです。

 だって大陸に行ったら、魔女狩りされてしまうんでしょう?

 警戒心の強い兄がいるというのは、身の安全を守るためにも重要ですよ!


「……どうした、アリエラ?」

「あの……私が日光に当たれないのを、お兄さまはご存知でしょう?」

「まさか、それを人に言ったのか?」


 アッ、やっぱりしゃべってはいけない話だったのですね。

 私は冷や汗再び状態になりつつ、コクリと頷きました。


「ユージーンも、よそでは話さないように、と。非科学的な大陸諸国では、『魔女狩り』の標的にされるから、と」


 そう伝えると、思い当たる話もあるようで、ああ、と苦い顔をされました。


「もしアルビノアに、そんな無知蒙昧な愚か者がいたら、この兄が排除してやるから、安心しなさい。学校はロンディニウムではなくて、カーディフにするし、お前のためなら寮に入らなくったって良い」


「いえ、それは!」


 中等教育学校は、7年も続く人脈づくり。

 それを、妹一人のために放棄させるわけにはいきませんよ。だって、お兄さまは800年続く学術貴族、アルステラ家の跡取りなのですよ?!


「そのぐらいのつもりで、私はお前を大切に思っているということだ」

「お兄さま……」


 お化粧ついちゃうかもしれませんけど、抱きついたっていいですよね?

 ぎゅーっとお兄さまに抱きついたら、優しく背中をとんとんと叩かれました。

 お兄さま、大好きですよ!


「よし、挨拶回りに行ってきなさい」

「ありがとうございます!」


 元気100倍なのですよ!

 スキップしそうに幸せな気分。もうドン引きする顔も警戒する目も怖くない!

 ……どんと来いとは思いませんけども。


 とりあえず、トマトスープ煮込みのショートパスタ、美味しいです。




「リンゴジュースがお好きで?」


 主役のはずなのにちょっと遠巻きにされて、ちょっと涙目の私に声。

 思わずキラッキラの笑顔で振り返ってしまいました。


「あ、えっと……」


 申し訳ありません。お顔と名前が一致していない、不束者です。

 しかし、とんでもない美形……お兄さまもファーガス様も、貴公子然としたイケメンですし、ユージーンも平均よりは整った顔でしたが……

 ……この方とは比較になりません。貴公子というか、騎士様って感じ!


 ゆるやかに波打つ金色の髪、青空色の目。

 物語の中に出てくる理想の美形が、そのまま現実に出てきたようです。


「ああ、今日はたくさん招待客の方がいらっしゃるからね」


 私の戸惑いに気づいて、優しげに微笑みながらフォロー。

 イケメン……完璧すぎるほどにイケメンです……!


「私はエレン。エレン・ケリー・ベッラ=カエラフォルカだ」


 んっ?

 エレンって……えーと、エリニカの伝説的な美女ヘレーネが由来の、女性名ですよ、ね? ケリーって、シムスの女神の名前、ですよ、ね?

 と、いうことは……


「女性?」

「性別は女だが、これでも軍功貴族家の一員だ」

「ベッラ=カエラフォルカ家、の」


 えーと、ブラッドフォード侯爵、アミカ=カエラフォルカ家の分家で、同じくダイアモンドが家系の石で……あれ、領地と爵位は……


「エクセター伯爵家だ。王国南西部の守りの要……のつもりだよ」

「大変失礼しました」


 つまり、このカーマーゼン子爵領も、もちろんのこと、ベッラ=カエラフォルカ家の「守備」範囲内、というわけで……ああ、やってしまった。


「気にしていないよ。あんなレポートを6歳の誕生日に発表させられるぐらいだ。学術貴族家はまだしも、軍功貴族家までは手が回らなかったんだろう?」


 いたずらっぽいウィンクは、どこからどう見てもイケメンです。

 女性ですが。


「えっと、その……はい、アミカ=カエラフォルカ家の石が、ダイアモンドだというのは存じ上げているのですが……すみません……あと、その、失礼ですが、軍功貴族家では、女性もそのような装いをされるので?」


「ああ、うん。軍功貴族家の娘は、初等教育学校を卒業したら、武人として生きるかどうかを選択するんだ。それで、武人として生きると決めたのなら、男子と同じ教育を施される。で、私は武の道を選んだ」


 私は昔から、馬に乗って野山を駆け巡る方が好きだし、ダンスも嫌いじゃないが、剣や弓や銃の方が、性に合ってね。

 と、エレン様は、カラカラ笑って仰います。


「それにしても、アルス家系の学術貴族というのは、本当に大変だね。私が6歳の時なんて、毎日のように、同じ年頃の一門の兄弟たちと、戦争ごっこで遊んでいたというのに」


 それは軍功貴族としては、実に当たり前の教育のような気もしますが。

 むしろアルス家系の教育が、おかしいのだと思いますが。




 エレン様は中等教育学校4年生。つまり今年で14歳。

 現代地球なら、思春期真っ盛りで、女性としての感覚が芽生えるなど、色々と微妙なお年頃のはずなのですが、びっくりするほどサバサバしておいでです。

 これも軍功貴族の家系だからでしょうかね?


「前期課程を修了されたら、どうされるのですか?」


「士官学校に入学するよ。中等教育学校の前期課程は、基本的には就職狙いの実務屋向けだけれど、私たち軍功貴族は、また別枠扱いでね」


 陸軍士官学校ミリタリー・アカデミー……うーん、無菌室から出なかったとはいえ、日本生まれ、幼少期は日本育ちだった私には、縁遠いにもほどがあった語の一つですね。

 改めて、アルビノアという国に生きているのだなぁ、と感じます。


「教授からのご指名もあったし、あなたは可愛い頑張り屋さんだし、ぐっとやる気が出たね。士官学校に入ったら、男どもを蹴散らして、最優秀のメダルを取ってみせるよ」


「……指名?」


「『二人一組ツーマンセル』の相方さ。こんなに早くに指名がかかるのは、アルス家系でも珍しいんだけどね。教授はあなたがよっぽど可愛いらしい。武人の道を選ぶ女子は多くはないから、予約は早めにと思われたんだろう」


 と、いうことは、お互いにそれなりに学業なり何なりを修めたら、国外に出ることができる、ということですか。


 学術貴族の海外渡航には、必ず相棒の軍功貴族がついていないといけないのが、アルビノアの決まりです。

 つまり、私が今後、国外の鉱山などに興味を持っても、相棒がいなければ、国を出る許可がおりません。


 そのうえ、珍しい女性の相棒候補を探しておいてくださるなんて……

 おじいさま、アリエラは頑張りますよ。頑張って、正式な学術貴族の一員になります!


「えっと、よろしくお願いします、エレン様!」


「エレンでいい……が、もし嫌でないなら、姉と呼んでくれるとうれしいね」


「エレンお姉さま!」


 アランお兄さまに、エレンお姉さまって、なんか響きが似ていますね。

 私には、優しいお兄さまに、格好良いお姉さままでできたのですね!


「よしよし、国外出張の許可が下りたら、是非とも各地を回ろうじゃないか。それまでに、私は士官学校で表彰されるだけの成績を収めてみせよう。アリエラは何を成し遂げてくれる?」


 ウッ。いきなり……いきなりの、ハードル!

 私は目を泳がせ、ぐるぐると思考をめぐらして、答えを探しました。


「え、と……新しい石を見つけて、エレンお姉さまの名前をつけます!」


 おじいさまと、お兄さまの石を見つけたら、その次はお姉さまで!


「宝石だと、なお嬉しいね。そうしたら、お揃いのジュエリーを注文できる」


 さらっと、何という発言をなさるのですか。

 世間知らずの女の子は舞い上がっちゃいますよ、お姉さま!


「頑張ります……」





男の娘ならぬ、女の漢。だが、百合の花は咲かない。

エレンの名前がアランと似たのは、偶然の産物であり、わざとではありません。

なんかこう、戦闘的な感じが似合う名前を色々と考えていたら、脳内で「駆逐してやる」っていう声が一瞬響いた。正直、魔が差した。


ちなみに「ベッラ(bella)」は、ラテン語の「bellus(素晴らしい・美しい)」と「bellum(戦争)」が合体事故を起こした、大変なネーミング。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ