アルビノア王国の地理
マクロな視点で、ブラ○モリ。
「ウェンディ」は、惑星一つまるごとを、精密に妄想しました。精密に妄想しましたが、だからといって何もかもすべてを理解しているわけではありません。
特に、恐竜を滅ぼした後は、大陸移動の基礎はおさえつつも、人類の発生条件を整えることに注力していました。
地球の人類は、アフリカで誕生しました。
そして、南北アメリカ大陸のサルは、類人猿にも進化せず。
……つまり、何が言いたいかというと。
この世界での「南北アメリカ大陸」に該当する「サーマス大陸」について、「ウェンディ」の設定はろくに固まっていない、ということです。
うわぁ、設定ツメ切れなかった部分が、フォローつきで現実に?
そりゃ見たいでしょう。何もかも細密に、地殻変動のタイミングから河川の動きまで、細かく設定した地域よりも、基本法則以外は放ったらかした地域の方が、この目で見たいというものです。
お父さまのお帰りを、アリエラは首を長くしてお待ちしております!
うーん、地質学・鉱物学がご専門のお父さまに、宝石学がご専門のおじいさまに……ん? まさか「学術貴族」って、女はダメだったりする?!
「ねぇ、ばあや」
「何でしょうか?」
「私も地質のことを学びたいのだけど、女は学者になれなかったり、する?」
ここの文化水準は、19世紀ヴィクトリア朝時代イギリス。
地球の場合は、上流階級の女性が働くなんてありえない、とされていました。
……だからナイチンゲールは目立つわけですね。
しかし、ばあやは笑いました。
何をばかなことを、とでもいうふうに、優しく。
「アリエラ様のお母上は、火山学者でらっしゃいますよ」
えっ?!
お母さまも学者? しかも、地質系?!
しかし、なんだか恐ろしい語も聞こえてきたような……
「火山?」
「揺れて火を噴く山でございます。アルビノア北部に多うございますね」
なんですって? アルビノアは火山国?!
「噴火するの?」
「することもございます。アリエラ様のお母上は、古い時代の噴火の痕跡を調べて、今後起こりうる『最悪の事態』に備える研究をしておいでです」
うわぁ物騒な……でも、戦争よりもマシか。いや、全然マシじゃないんですけど、大自然が相手な分、諦めがつきますよね。
しかし、まさか……まさかすると、アルビノアの名前の由来になった「白い崖」って、まさか凝灰岩? 火山灰が圧力で固まって岩になった……
……とりあえず、火山の位置を確認しないと!
「ばあや、あの地図で、火山はどこにあるの?」
「大きなものだと、ここと、ここと、ここと、ここと、ここと、ここです」
あああ~!!
すっごい数出てきた……
しかも、私、気付いてしまいました……
アルビノアの火山は、ほぼ一列に並んでいます。
そう! プレート境界面の特徴です!!
やばい……ほぼ間違いなく、この国には活断層がいっぱいある!!
この世界に生まれて5年。まともに意識があるのは2年ほどですが、今のところ、地震に遭った記憶はありません。
プレートのずれ、ため込まれているんじゃないかしら?
もしや生きている間に、大地震が起きる??
いえ、大地の営みに感動する身としては、大昔の地震の痕跡にときめいておいて、自分が地震に遭うのはごめんこうむるなんて、きっと筋が通りません。
世界は人間の力でどうにもならないから、畏敬すべきなのです。
地震が起きたら、しっかり記録を残しましょう。生き残れたらですが。
おっと、その前に、ばあやに確認。
「この国で、前に大きな地震があったのって、いつ?」
「30年前ですね。あれは恐ろしゅうございました」
えっ? 意外と最近にプレートのずれ消えてた?!
ていうか、そうか……30年前の地震の、ばあやは生き証人なんだなぁ。
「津波とか来たの?」
「いえ、被害は都市部だけでしたから」
んっ?!
「……津波が来るような地震って、起きたことある?」
「直近だと、300年ほど前でしょうかね」
あああ~!! ばあやが体験したのはプレート地震じゃなかった!!
多分、活断層が動いたことによる、直下型地震!
「小さな地震なら、あちこちで頻繁に起きますので、この国の者は皆、揺れには慣れっこですが、さすがに津波は、私も怖しゅうございますね」
日本人の発想ですよ、それ。
「ところで、アリエラ様、いつの間に津波という語を?」
……うっ。
ちなみに私が言ったのは「tsunami」ではありません。
英語で「seismic sea wave」です。意味は「地震の海の波」。実は「tsunami」という表現が一般化する前に、英語圏で使われていた言い回しです。
だってここは異世界。日本語はまず通じないでしょうし。
しかし、5歳児には高度すぎました、よ、ね……あはは……
……よし!
「わっ、私だって、アルステラ家の一員ですもの!」
ふん、と得意げに胸をそらしてみます。
「まさに! さすがでございます!」
良かった。ばあやはごまかされてくれましたよ。
よし、今後もこの手でいきましょう。
並みの5歳児では知らないことを知っていても、800年続く「学術貴族」のアルステラ家の人間なら、まぁありえるかなと思われるはず!
「ばあや、この国の、最新の地図はあるかしら?」
「それは……図書室に行かねばなりませんね。それに、大旦那様から、許可をいただかねばなりません」
「え? 地図って、アルステラ家が作っているのでしょう?」
自分の家で作ったものなのに、自由に見られないの??
「たしかに、今でも地図は、アルステラ家のお抱え測量士たちが作っております。けれど、アリエラ様……地図は同時に、国家機密です」
アッ。そういえばそうですね。
アルステラ家の初代、メネス様は、地図の軍事利用で爵位を授かりました。
地球でも、某ネット地図に苦情申し立てする政府もありました。
「『地形を制するものは、全てを制する』……ね」
なるほど、メネス様のお言葉が身にしみます。
5歳児に国家機密を見せてくれるわけは、ありませんよね!
では、最新版の地図はあきらめるとして、今はこの、ご先祖様が作らせたという、200年前の地図で遊びましょう。
少なくとも、アルビノアの地形は、かなり正確に描かれています。
アルビノア語はほぼ英語ですが、地形はイギリスとは異なっています。
ていうか、イギリスには、ほとんど地震はありません。
北西部に、たんこぶができたような半島があります。
たんこぶとの境に、大きな山地ができており、そしてその山地には火山が大量にあるので……これは、ほぼ間違いなく、プレートがぶつかってできたものでしょう。
どことなく、ピレネー山脈とイベリア半島を想起させる形です。
プレートのぶつかっている部分に向けて、全体的に標高が高くなっています。
うん、これは……きれいな褶曲が見られそうな予感……
その山地から、何本も何本も川が流れ出ていて、もっとも大きな川は、島の南東部へ向けて流れています。そしてその一帯が、おそらく堆積作用によって、広大な平野になっており、王都はそこに置かれています。
この館があるのは、島の西側で、小さな山地を挟んで、王都の反対側。
でも、海の気配はないので、ちょっと山寄りにあるのでしょう。
ばあやによると、海沿いにはお父さまが本拠にしている、子爵領の領地本邸があるそうです。
で、海を渡って少しすると、例の火山の線の、南側の延長上にぶつかりまして……で、結構大きな火山島があります。
「この島はアルステラ家の領地?」
「いえ、王室の直轄領でございます。ただ、アルステラ家の研究施設もおかれております」
「火山島を直轄地に?」
災害が多そうで、わざわざ支配するメリットが思いつかないのですが。
それに火山灰土壌じゃ、あまり農作物の収穫も期待できないような……
「この島は、宝石が取れるのです」
んっ?! 宝石?
それなら、ちょっとわかるかも。おじいさまのご専門でもあります。
ばあやは私を、一つの標本の前に案内しました。
「これです。この緑色の部分が、原石でございます」
……ペリドットだ、これ!!
アルビノアの国土面積 < 北海道+本州
……ぐらいの想定です。緯度は北日本ぐらいですが、西岸海洋性気候。
私が一番こだわったのは、プレート境界近辺の火山は基本的に安山岩質なのに、どうやったら合理的に玄武岩の地質を同じ国内に配置できるのか、という点です。