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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§2.いよいよ6歳のアリエラ、波乱のお誕生日会
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お兄さまと一緒!

お兄さまと作業を進める。キャッキャウフフ。

ゴハンの描写に力を入れるためだけに、自分が食べられないゴハンの作り方の本を買おうかな、と血迷っている。アレルギーがあるのは作者です。





 この年にして、すでに理系に特化していらっしゃるお兄さまは、計測装置の扱いも手慣れたものでした。さすが私の倍の年月、アルステラ家の英才教育を受けていらっしゃるだけのことはある。


 今回のレポートのための鑑別は、コランダムではあるか・ないか、という基準だけで判断していた、最初のものとは違います。

 何をどれだけ混入させたか統計を取り、それがコランダムとはどのような特性の違いを持っており、どの段階で気づく可能性があったのか、をまとめます。


 たとえば、スピネルやガーネットは、偏光器ですぐに判別可能です。

 そういった基本的なチェックすら怠って、「サファイア」「ルビー」と称して、石を売っていたのだとすれば、もはやそれは詐欺です。


 日本と違い、消費者契約法なんて親切な法律は定められていないような気はするので、性悪商人に言わせれば「気づかない方がまぬけ」なのでしょうが、それは詐欺を許す理由にはならないのですよ。


 そういえば、ばあやの孫である私の乳兄弟、ロイ・ヴィッカー君は、法律屋の家系出身でしたよね。お近づきになって、法務現場の実情とか、現在施行されている法律とか、そのうちとっくり聞くのもアリですね。


 おじいさまの権威をもってすれば、大先生からお話を聞くことも容易いのかもしれません。しかし、それだと親ならぬ祖父の七光りで、私自身の業績とカウントするのは気がひけます。

 それに、ロイ君だって、学術貴族に叙せられる気はなくたって、学術騎士になることは、多分、家系的に求められていることでしょうし。

 どうです? 円滑な流通のための消費者保護に関する諸法、みたいな研究テーマは?

 味方に引き込みましょう。その分野に強い人間を、是非とも戦力に!


 ……うん。ファーガス様が、6歳にしてすでに政治的でいらしたように、私も6歳にして政治的になってきておりますね。

 家業を継ぐのに問題を抱えた……医療家系なのに血が見られないとか、フィールドワーカーなのに外に出られないとか……そういう子どもは、自分の居場所を確かなものにするために、功績を積むべく立ち回りに腐心するのでしょう。

 だって「落伍者アウトキャスト」になりたくない。

 落伍者になったら、国家予算で研究に打ち込めない!


 研究に打ち込む気がない人は、さっさと脱落を選択するそうですけどね。

 頭が良くなれる可能性が多少は高まるとして、中級以上の市民が、婚姻相手に臨むケースが結構あるそうです。

 政治的権力のない学術貴族の存在意義は、国民全体の知的水準の維持。

 まさか、そんな競走馬みたいな血統主義がと、知った時には驚いたものです。


 とすると、ますます「軍功貴族」が、対外問題のお飾りに思える。

 本当に、見た目と立ち居振舞いしか求められていませんよね。


 こんな二種類の貴族を用意するのも、国の宝である「学術貴族」を、むやみに国外に出さないための小細工です。

 二人一組で動くというのを大原則にするのも、うっかり一人で攫われてしまわないように、という耳を疑うような理由がありました。

 ということは、誰か攫われかけたのでしょうねぇ。


 番号別に計測結果をまとめます。すごい。この調子だったら、明日は顕微鏡での、インクルージョンの確認に入れるかもしれません。

 あ、あと、それぞれの石の図面を、もっとちゃんと起こして、キャビテーションとかフェザーとか……

 ……ぐぅ。




 目覚めるとソファの上でした。お日さまはまだ高いです。昼食が!

 見ると、お兄さまは安楽椅子に座り、ノートに何やらペンを走らせています。


「何を書いていらっしゃるのですか?」

「……ああ、アリエラ! ちゃんと疲れは抜けたかな? 昼食はこの部屋に運んでもらうことにしたからね。計測を続けたいだろう? この季節、よく晴れた日は、光学的分析にとても貴重だ」


 さすがお兄さま。よく分かっていらっしゃる!


「計測は?」

「単屈折鉱物で、プリズム分光計の計測を進めたよ。少し休憩していたんだけれど、ちょうどいい。お昼にしよう」


 チリンチリン、と呼び鈴を鳴らして合図します。

 大急ぎでテーブルを片づけ、食事をするスペースを用意しようとすると、やんわりと遮られました。お兄さま?


「この方が効率的だろう?」

「なるほど!」


 組み立て式の簡易テーブル! 私が寝オチしている間に、持ってきて下さったのでしょう。なんてお優しいのでしょう!

 これなら、実験途中で食事になっても、いちいち片づける必要はありませんし、食事が終わっても収納すれば、作業の邪魔になりません。


 支柱にまるい天板を載せます。天板の真ん中には大きなナットが、支柱にはボルトがついていて、お兄さまと二人で天板をくるくる回せば、あっという間に、机の組み立ての完了です!


 昼食は、食べやすい一口サイズのサンドウィッチ。鶏肉と葉物野菜に、香草のソースが最高に合います。そしてマグカップに入ったトマトスープに、ヴィネガーなどで味付けされた野菜のペーストとクラッカー、刻み野菜と挽肉を入れたオムレツ。それから、一口サイズに切られたリンゴ。

 卵とリンゴは、前世の私のアレルゲンで、今生の私のエネルギー源。


「美味しいねぇ」

「美味しいですぅ」


 アルステラ家お雇いの料理人の中で、一番の腕利きは、このクライルエンの屋敷にいるのです。病弱な私を健康にするために。

 一番美味しい料理を独り占めして、すみません、お兄さま。

 クライルエンにいらっしゃる間は、最高のお料理をともに堪能しましょう。


「レポートの方針には、私は一切口出ししないから、どんな指示でもしてくれて構わないからね」

「……それはつまり、助言もなしということですね」

「助言をしたら、アリエラ単独の功績だと言えなくなるだろう?」


 ええ。ご配慮ありがとうございます。


「ところで、アーガイル子爵のご子息、ファーガス様から、お兄さまは理科などを得意分野にしていらっしゃる、と伺ったのですけれど……」


 共通の知人であるはずの、ファーガス様の名前を口にすると、お兄さまの笑顔から、笑みが消えました。正確には、目だけが笑っていません。


「アリエラ」

「はい?」

「次の冬の、私の試験休みには、私とも蛍石の実験をするんだよ。いいね?」


 アッ。先にファーガス様と親しくなったこと、拗ねてらっしゃる!

 やはりお兄さまは、少々シスコンさんのようです。


 計測結果の分類をしたところで、再び私はお昼寝です。

 私がこの目で見ないと判断できないものはさておいて、数値で結果が出るものについては、お兄さまが進めて下さるそうです。




 目を覚ますと、夕暮れの空が見えます。日を追うごとに日が短くなる、秋のアルビノア。もうこの光量では、色の判別はできませんね。

 お兄さまと、より正確な図面を描き起こします。

 ……速い。上手い。


「お兄さまは、絵がお得意なのですね」

「うん。アルステラ家は、地理の家系だからね。今は写真でも記録を残せるけれども、任意の範囲を任意の倍率で描くなら、やはり絵が上回るよ。写真に彩色するよりも、彩色画を描いた方が綺麗だしね」


 技術過渡期ならではのお言葉です。

 でも、なるほど。フィールドワークをするのなら、絵が上手い方がたしかに良いはずです。あるいは、体の丈夫なお兄さまには、実地測量も視野に入れた、実技訓練などが課されているのかもしれません。

 アアア、私との格差……


 いえ、羨んでいる暇があるなら、知識を磨いて、いつの日か自分が外に出た時に慌てることがないように、じっくり準備するのです!

 負けじと、ペンを動かします。


「カットの稜線が正確だね、お前の図面は」


 私の描いている図を覗き込んで、お兄さまがそう言って下さいました。

 やった! お兄さまに褒められた!


「おじいさまと、たくさんの石を見てきましたからね!」

「頼もしい妹だね。兄として実に嬉しいよ。いずれおじいさまを超える、アルビノアの宝石学の権威になるのかな?」

「ああ、えーと……それは努力を重ねま、す?」


 はい、と即答できない程度には、自分に自信はありません。

 幼女なのだから、もっと身の程知らずにふるまうべきなのでしょうけれども、中身が女子大生(仮)なので……

 分別が付きすぎていても、まぁ、伝家の宝刀「アルス家系の娘だから」で、なんとか誤魔化せるとは思うのですけどね。


 ふと、ペンを動かす手を止めて、お兄さまが私に微笑まれました。


「お兄さま?」

「気を悪くしないで、聞いてもらえるかな?」

「はい?」

「私はフィールドワークが得意だ」


 それは、外出できない私に対して、申し訳ないという心でしょうか?

 でも、外出できない方が家業としては問題ですよね!


「地図を作る家系なのですから、当然のことなのでは?」

「そうか……お前はちゃんと分かっているのだね」


 私の妹はやはり最高に賢くて可愛い、という発言は、生温く聞き流します。


「お前が実地で見られないもの、お前が見たいと思うものは、全て私が計測し、正確な図に起こしてあげよう。お前はお前に出来ることに打ち込みなさい」


 ちょっと、うるっときました。

 おじいさまは何も仰らなかったけれど、ちゃんと私が「学術貴族」でいられるように、知識を身につけさせて下さいました。

 そしてお兄さまは、この体質も含めて、私を受け入れて下さるのですね。


「ありがとうございます」


 とりあえず、まずはバークス商会を吊し上げますね。





実は作者も病気がひどかった一時期には、本当に日光の下にちょいと出たら、肌が水ぶくれしてヤバかった。首が辛いんです。手も辛いけど、首が本当につらい……


ストック尽きたので、またしばらく間が空くんではないかという気がするのです。

ムーンストーンの修正がまだ出来ておりません。頑張ります。


May 07, 2017. ムーンストーンの記述、いくらか修正しておきました。

 ……あんまりディープにつっこんでも、なので、ふんわりさせてますけども。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >頭が良くなれる可能性が多少は高まるとして、中級以上の市民が、婚姻相手に臨むケースが結構あるそうです。 婚姻相手に望む では?
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