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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§1.転生令嬢アリエラ5歳、子爵家令息ファーガスと友誼を結ぶ
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現在は歴史の上にある

もうちょっと掘り下げてみる、アルビノア王国の政治体制と歴史。

ところで、本日3月14日は、数学の日ですね! 数学の日ったら数学の日です。






「初期アルビノア王家と中期アルビノア王家の相違は、建国者であるウィリアム1世征服王の血を、男系で継承しているか、女系で継承しているかの差ですね。男系血統が続いているのが、初期王家です。その男系子孫が断絶して、女系子孫が王家を継承する時の内乱が、中世の混乱期です」


 アルバート様が、すらすらアルビノアの歴史を解説してくださいます。

 医師でらっしゃるアルバート様も、基本は理系のはずなのですが。これこそが、学術貴族当主の見識、でしょうか。


 ノヴァ=アルスメディカ家の未来の当主として、やはりファーガス様も歴史の知識を大切にすべきですね。

 そっくりそのまま、現在の私にはブーメランとして刺さってきますが。

 ……こっ、これから頑張るんです!!


「では、宗教改革期の内乱とは?」

「大陸教会からの扇動教唆インスティゲーションがありましてね……」


 今、めちゃくちゃ物騒な語が聞こえたのですが?!


扇動教唆インスティゲーション?」

「『賢女王』オリヴィア陛下の治世は、大陸教会との干渉の戦いですよ。我々アルス家系の学術貴族は、あの内乱の時に、一家系も王家に反逆していないという点で、軍功貴族とは違う信頼を得ているのです」


 軍功貴族というのは、つまりいわゆる「ただの貴族」です。先祖の功績に応じて領地を与えられ、恩給を受けていますが、本人によほどの過失がない限り御家は存続します。

 なので、軍功貴族の名門というのは、特にアルス家系の学術貴族からは「自分は努力を何もしなくても、失敗さえしなければ安泰のお気楽な連中」という、格下扱いをされています。


 本人の能力と先祖の軍功は、良くも悪くも関係ないので、たしかに先祖の優秀さを誇るだけのおバカさんは、見下げ果てられるでしょうが。

 逆もあると思うのですよ。逆も。

 軍功貴族の知り合いなんかいませんけど。

 というか、私の世界は、おじいさまとアルバート様と、このクライルエンの屋敷の使用人以外には、ファーガス様しかいないのですけれども。


 アルバート様は、アルス家系当主の誇り高い方のようです。

 話と興味の合う方なら、軍功貴族の方でもお友達になりたいですが。

 ファーガス様の「野望」では、軍功貴族は範囲内なのでしょうか?


「あの、つかぬことを伺いますが……」


 おそるおそる、答えて下さるならどなたでも良いので、挙手。


「軍功貴族の方々は、学問についてはどうお考えなのでしょう?」

「バカと努力家の二極分解ですよ」


 アルバート様、バッサリ切り捨てちゃいますね!


「研鑽を積んで『学術騎士』に叙せられるものもいるが、まぁお気楽なバカが少なくないのは事実だな。自尊心だけが一人前の愚か者になると、学術貴族を目の敵にする者もある」


 うわぁ。おじいさまもバッサリです。何かあるのでしょうね。

 それにしても、いやな話をきいてしまいましたよ……


 ちなみに「学術騎士」は、学術貴族家系以外の出身者への、学問的功績に対する、一代限りの名誉称号です。


 特に法律系の実務家系では、もう家に爵位を与えても良いのでは? と思うほどに、代々「学術騎士」になる家系もあるそうですが、アルビノアの特殊な政治制度のため、子孫に受け継げる爵位を望む人は、まずいません。


 そう、庶民院議員に、立候補できなくなるのですよ!




 アルビノアでは、貴族になってしまうと、政治的な実権を失います。政治は庶民院と、その議員からなる内閣が動かすもので、貴族は関係できません。

 ちなみに貴族院議員は、学術貴族と学術騎士が立候補資格者。


「そういえば、軍功貴族の政治的権限って、どうなっているのです?」


 私の問いに、おじいさまとアルバート様が、揃って「ハンッ」と鼻を鳴らして笑われました。さすが師弟。息ぴったり。


「軍人に権力を持たせると、すべからく戦争が始まるのが、世の摂理だ」

「ですから軍功貴族は、どれだけ優秀であろうとも、政治に関与することは禁じられています。もちろん『助言』という抜け道はありますけれど」


 立憲君主制、かつ文民統制。それがアルビノア王国のようです。

 貴族と庶民が、それぞれ違う形で人権の制限を受けているのも、アルビノアの体制の大きな特徴でしょう。

 貴族は生活の保障を受けるかわりに、政治への参加に制限があり、庶民は生活の保障がないかわりに、政治を動かす権限を得られます。


 ……アレ? これって、生活の保障もなければ、政治を動かす権限も不十分な人にとっては、何一つできないということです、ね??

 それに、実は軍功貴族の人にも、案外と厳しい制度のような……


 だってどれだけ努力しても、軍功貴族出身というだけで、政治への関与が許されないんですよね? 本人がどれだけ軍と距離を置いていても。

 学術貴族は実務経験を積めば、庶民院議員にも立候補できるはずですが、軍功貴族の家系出身者には、そういう道もないのですか。


「軍とは縁を切っていても、軍功貴族出身者は、政治に関われないのですか?」


 尋ねてみると、おじいさまとアルバート様から「許されない」という、二重奏の即答が返ってきました。


「『ウェルスフォルカの悪夢』は、再現させてはなりません」


 「フォルカ」は、軍功貴族であることを示す家名です。おそらく、軍功貴族出身者が政治に関わって、ろくでもないことになった先例があるので、それを極端に警戒したのが、今のアルビノアのシステムのようです。


「『ウェルスフォルカの悪夢』については、まぁ、歴史書で詳しく読むといい。その歴史に学んだ結果として、我々学術貴族は実権を握らないし、それ以上に軍功貴族は、政治を動かしてはならないのだ」


 宿題が増えました。いいですけど。知らないといけませんし。

 とか思っていたら、ああそう言えば、とファーガス様が手を打って、なるほどなるほど、とまたもなにかを納得されました。


「そういえば、たしか、ウェルスフォルカの事件の時、王家が最後に立てこもったのが、エリンでしたね……」


 ここで話題が冒頭とつながりますか。

 理系宣言とは一体何だったのでしょう?

 それとも、理系宣言をしていても、この程度は一般教養の範囲?

 文理両道を宣言するなら、ハードルはどこまで上がるのですか……


「そ・の・と・お・り……さて、地質の話に戻ろう」


 おじいさまが話を戻されましたが、少し性急な感じもします。

 もしかして、その「ウェルスフォルカの悪夢」の時に、王家がエリンに立てこもった件が、あのエリンでだけ活動するという「ボナ=アルステラ」家の存在に関わる、のでしょうか?

 よし、あとでこの線から調べましょう。あとで。


 今はおじいさまの地質講義なのですよ!

 ロンディニウムから、脱線に脱線を重ねましたが、ついに本線に戻ってまいりました!

 ……脱線させた張本人は私です。




「セルトおよびシムスの祖には、このアルビノアとフランキア……当時はフランクスでさえなく、大ラティーナ帝国だったが……の沿岸地域を中心に略だt……もとい交渉をしていた『入り江の民(ヴィークス)』もいる。彼らとピクティの混血の結果、セルトとシムスの文化が誕生したのだ」


 そこでエリンの話が出てこないあたり、本当に、情報統制されているのだろうなぁ、と思います。

 エリンの方が大陸から遠いのに、そちらに王の勢力が集中しているというのは、地理的に考えてちょっと不思議なんですけれども。


 だって、アルビノア王家は征服者側で、エリンは先住民ですからね。

 とはいえ、情報が手に入らないことが確定しているので、そこいらの事情は、考えたところで、すべて妄想で終わるのでしょう。


 ところで、おじいさま「入り江の民(ヴィークス)」の説明をするとき、思いきり「略奪」って言いかけましたよね。

 地球の「ヴァイキング」の由来が、ノルド語で「入り江」を意味する「ヴィーク」という説を聞いたことがありますが、なるほど、こちらではそのままの音で現代まで伝わっているようです。


「ヴィークスには文字はあるが、祭祀用の側面が強く、実用的な記録はそれほど残ってはいない。だが、特にこのカンブリア地方では、シムス系の地名が多く残っている。一部には意味が分からないものもあるが、大陸系のヴィークスの言語が混じったことで、より理解しやすくなった」


 地球のケルトには、ゲルマン要素が混じっているわけではないようですが、こちらの世界のセルトやシムスには、ゲルマンの気配を含むヴィークスが混じっている、と。

 つまり、シムスの言語が、現実のウェールズ語よりも、ゲルマンっぽい要素を含んでいたとしたら、それはヴィークスの言語に由来するわけですか。


「先ほど例に挙げた『フォード(-ford)』地名は、ピクティとヴィークスの混血が進んだ頃にできたものだと推測される。ヴィークスは喫水線の浅い、河川航行に適した独特の造船技術を持っていた。だが、そんな彼らにとっても『歩いて渡れるほど浅い』部分は、警戒の対象だったのだろう」


 おおお、なるほど!

 だから浅瀬のいちいちを命名して、注意を促したのですか!

 まさに、歴史が地名に繋がり、地名が地形に繋がる!


「なお、アルビノアの地名には、火山にまつわるものもある」


 そこは、イギリスとは異なる点ですね。

 イギリスは火山国ではありませんし、地震国ではもっとありません。


「アルビノアでは、火山に関する地名は、『光(-light)』や『柱(-pole)』というものが典型的だ。例えば、『灰の柱(アッシュポール)』という地名があるが、これは小高い丘の上にある集落で、沖合の火山島がよく見える」


 つまり、噴煙がよく見える、ということですよね!





おばか貴族は登場しない話……ということは、別にないのです。

でも学術貴族の子弟でも、論文の盗作とか問題は色々起こすので、軍功貴族だけを取りたててばかにするような展開には断じてしないのです。

どんなところにも困った人はいるものですよね。


なお、主人公の逆ハーもどきに登場するイケメンの内、軍功貴族系は1人、学術騎士系も1人以上が内定しております……早いとこ次のイケメンを出したい……これはイケメンに囲まれているのに、ミジンコも恋愛感情が浮かんでこず、ひたすら理系トークしている話の予定なんだ……

(※こんなこと言ってる作者は文系です)


 なおウェルスフォルカ卿のモデルは、清教徒革命のクロムウェルです。史実が妄想を飛び越すリアルチート。政治は上手くないけど軍事がね……


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