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子爵令嬢の地学満喫生活  作者: 蒼久斎
§1.転生令嬢アリエラ5歳、子爵家令息ファーガスと友誼を結ぶ
24/102

謎の地エリンと見知らぬ家系

ちょっくら時間ができたので、sasasasaっと書きました。

エリンはアイルランドに似ているようで、でも王家への立ち位置は全然違う。






 アルビノアの先住民は、実は死に絶えていなかった!!


 いや……明確に「絶滅した」と聞いたわけではなかったですけれども。


 でも、私のミドルネームの「ウェンディ」って、シムスの言語でしょう?

 それでばあやに「シムス人は独自の言語を話しているということ?」って質問したら、それに対する返事が「シムス人は現在はもうおりませんよ」だったんですもの!


 シムス人が、イコールでアルビノアの先住民全体、ではない……という可能性に思い至らなかった、私が考え足らずだったのですけども。そうなんですけども!!


 そういえば、ばあやって何者なんでしょうか。

 よもやアルス家系の出ではないと思うので、それはまぁ「シムス人はもういない」返事だったとしても、それはそれで仕方がないのかもしれませんけれども。


「あの……エリンの先住民は生き残っているそうですけれども、シムスの先住民は?」


 とりあえず、気になったことを順番に潰しますよ!

 ……しかし、この質問に、おじいさまとアルバート様は、謎の意味ありげな目配せを交わされます。何? ここにも機密情報とか入っているのですか?!


 おじいさまは、軽く紅茶で口を湿らせ、質問に答えられました。


「シムスの先住民は、一部はアルビノア人と通婚して同化し、別の一部はアルビノア王国に対して武力をもって抵抗した結果滅ぼされ、また別の一部は他の地域へと脱出した」


 アッ、やっぱりこの世界も、人類の歴史は血なまぐさかった。

 普通の5歳児と6歳児に聞かせる話ではありませんね、たしかに。


「脱出先に、エリンは含まれるのですか?」


 ファーガス様の質問には、アルバート様が「含まれます」と返されました。

 ピクティの系譜に属する同士、外来勢力よりも文化的には近しかったでしょう。


「ちなみに、アリエラ嬢の赤みがかった髪の色は、シムス先住民の特徴です」


 ナンデスッテ?

 まさか、この赤みがかった金髪に、そんな歴史があっただなんて……!

 ん? でも、ということは、アルステラ家の血筋には……


「アルステラ家には、まさか、シムスの血が入っているのですか?!」

「入っているも何も、初代メネス様からしばらく、アルステラ家当主の妻はシムス人だ。さすがに今では血も薄まっているが、お前の髪色を見た時には、驚いたぞ」


 メネス様からしばらく、とはいっても、800年から700年は前ですよね、アルステラ家にシムス人がまじっていた時期って。

 髪の毛の色は両方の親から遺伝子を引き継ぐのに、そんな700年以上前の情報が、今更出てくるわけないでしょう……どういうことなの?




「アリエラ嬢の髪の色が、遺伝学上非常に興味深いものであることは理解しましたが、それはそうとして、ピクティ系の地名の話に戻りませんか?」


 ファーガス様が、大いなる脱線を軌道修正されました。そうですね!


「うむ。ピクティ系の言語に由来する地名の特徴は、"Aber-"、"Lhan-"、"Pit-"などで始まる点だ」

「それがどういう由来かは、厳密には検証できないのですね」

「そのとおりだ」


 しかし、エリンの先住民族の言語を分析すれば、より明確な答えが得られるのでは?


「エリンについては、あまり詳細を語ることを許されていない」


 エッ?! 

 我がアルステラ家は、地理のスペシャリスト、かつ、地図作成の専門家なのに、エリンの地理も知らないというのですか??


「エリンは王族の直轄地域であり、機密中の機密ですよ。もしも反乱が起きた時に、王家の最後の砦になるのがエリンなのです。だから情報が制限されているのですよ」


 アルバート様の説明に、ファーガス様の目が変にきらめきました。

 アッ、これは、アルステクナ家の資料にも、アルステラ家の資料にも記載のない鉱山があるに違いない、とお考えですね。

 しかし、地図なしで開拓も開発もできないと思うのですが。


「アルステラ家にさえ、制限されているのですか?」

「我が『マグナ=アルステラ』家に対しては、情報は制限されている」


 んっ? 「マグナ=アルステラ」家?

 学術貴族のアルス家名の前に「マグナ(=大いなる)」がつく場合、それはいわゆる「本家」という意味ですよね??

 ファーガス様の「ノヴァ=アルスメディカ」家や、アルバート様の「ハルバ=アルスメディカ」家の本家、ウィンチェスター侯爵家「マグナ=アルスメディカ」家のように。


「我が家は本家だったのですか?」

「エリンの外では、我が家以外にアルステラは存在しない。ただ我が一族には、エリンでのみ活動する特別の分家があるのだ」


 ボナ=アルステラ家。

 それが、エリンから出てくることを許されない、分家だそうです。


「ボナ称号は、エリンに領地をもつことを許された、王家直属の騎士や貴族の家系が名乗るものだ。ただし、アルステラ家は『一つ』であるとされているので、表向きには『マグナ=アルステラ』も『ボナ=アルステラ』も存在しない。ただ『アルステラ』があるだけだ。なぜなら、我がアルステラ家こそが、王家と臣民の『掛け橋』だからだ。我が家は王家の共犯者なのだよ」


 ややこしくて、もはやサッパリ意味がわかりません!


「アリエラにはまだ難しすぎたようだな。何、お前が学術貴族にふさわしい賢明な娘であるならば、そのうちに理解できるだろう」


 ウヌヌ……あとで何としても理解してやりますからね……あとで!

 理系バカだと思われるわけにはいきません。くやしいですもの!


 決意も新たに、ひっそり握りこぶしを固めていると、横ではファーガス様が、ようやく「納得した」と言わんばかりに頷いてらっしゃいました。


 なっ……まさか、まさかファーガス様は、理解できたのですか?!

 理系宣言をされていらした、専門バカ候補生だったのに?!




「それで、我が一族は二頭体制だったのですか」

「そういうことだ」

「どういうことですか?」


 アルスメディカ一門の二人で、会話がスイスイ進んでいます。

 アッ、やだやだ、置いてきぼりにしないで下さい!


「我々アルスメディカ一門の本家は、ウィンチェスター侯爵の『マグナ=アルスメディカ』家なのですが、一人だけ存在する『ボナ=アルスメディカ』の権威が、ウィンチェスター侯爵と同格扱いなのです。

 その『ボナ=アルスメディカ』を名乗る者は、一門のどの家の出身かという決まりはありません。アルス称号を失った分家から出ることもあります。とにかく、王家の侍医になると、そう名乗るのですよ。ですから私は今まで、ボナ称号とは『側近』という意味かと思っていました」


 側近には違いありませんけどもね。

 だって、反乱を起こされた時、最後に頼りになるお医者さん、という意味でもあるでしょうからね、それはきっと。


 ということは、王家は我が「マグナ=アルステラ」家の反逆をも視野にいれており、だから「ボナ=アルステラ」が存在するのでしょうか。

 アッ……なんか傷つきますね、それ。


「アリエラ、悪い方向に勘違いをしているようだな」


 勘違いなのですか?


「我が『アルステラ』一族は、王家と臣民との『掛け橋』だ。ボナ=アルステラ家が存在するのは、このアルビノア王国のためであり、我々の忠誠心が王家に疑われているからではない。断じて、ない。肝に銘じなさい」


 ううむ……これは、洗脳というやつではないのでしょうか?


「アリエラ嬢、少なからぬ国家予算を研究助成費に回していただいているような、我ら学術貴族が、王家に弓引いて得られるものなど何もありませんし、王家も我らの知を抜きに、より良い統治ができるとは思っていませんよ」


 アルバート様が、かなり身も蓋もなく現金なことを仰いました。

 でもまぁ、それはそうですよね。


 アルステクナやアルスメディカの学問は、すぐに役に立つものももちろんありますが、それを支える基礎研究は、必ずしもお金にはなりません。そういった分野の研究が進展できるのは、大規模な援助あってこそです。

 それを切らない程度の視野はお持ちなのが、アルビノア王家のはず。


「では、それはそう納得するとして、おじいさまは、エリンの地理はご存じない、と?」


「グレートノース山脈の西側については、港湾までもすべて『ボナ=アルステラ』の管轄だ。機密に触れない程度の情報は地図に載るが、その地図の情報が正しいかを、現地で確かめることは許されていないので、間違いなく本当だ、と自信を持って言うことはできない」


 さすがおじいさま! プロフェッショナルの誇りですね!

 しかし、いざという時のための偽情報……なんと周到な……


「ああ。アルビノア王家は、初期から中期と、それから宗教改革期に、大規模な内乱に悩まされた過去がありますからね!」


 ああっ、ファーガス様! 理系なのに! 理系なのに! 私より歴史に詳しいだなんて!


 くっ、くやしい……私も歴史書を読破するんですから!!





 ボナ=アルステラ家の情報を出す。

 ボナの由来はラテン語で徳を意味する「BONUS」。フランス語の「ボンジュール」とか、イタリア語の「ボンジョルノ」とかの「ボン」の語源。


 地図をこしらえながら書いていますが、地殻変動のつじつま合わせが、結構ハード……どのくらいハードかというと、鼻血出そうなぐらいです……

 おや、と思われたら、それは多分、私が意識喪失したポイントです……


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